第28話 普通ではない人が普通だとよく見える
俺は再び、ヴェスタフの鉄屑武具店に向かう。結構、日も傾いて来ており、周りの人も急ぎ足になって来ている時間だ。
王城からだと、約15分の距離なので手早く済ませて帰ろうと考えていた。
到着して、扉を開くと先客がいた。プラチナブロンドストレートロングのサラサラヘアー。
全身に纏う気品はちょっと知らないくらい気高い。涼しげな目許、美しく通った鼻筋、薄いピンク色の唇。究極の造形美とはこのことかもしれない。インスピレーションが凄いことになりそうだ。
でもどうしてオカマバーにこんな人が来るのか分からない。取り合えず軽く会釈してみる。
その女性も軽く会釈を返してくれた。そして沈黙。更に沈黙。もう1つついでに沈黙。
うん、彼女いない歴=年齢の俺には死角(資格)はなかった!
しばらく重い空気に耐えていると、ヴェスタフが出てきた。おせえぞオカマ!
「あら、ピリスに連れていかれて、また帰ってくるなんて。貴方やるわねぇ」
その言葉を聞いた目の前の美女がピクリと動く。
「それで大丈夫だったのぉ? まぁ、戻ってこられたって事はそういうことなんでしょうけどぉ」
「はい、誤解が解けてよかったです」
「失礼ですが、貴方様はピリスとどういうご関係なのですか?」
「えっ? 急にっ? えっとこのお店で少し話をしたくらいです」
「あら、エリー。珍しく気になるみたいねぇ」
「ち、違います! ピリスがどういう交流を持っていたとしても、わたくしには関係のないことです!」
そういえば、エリーさんってどこかで聞いた様な……。まあいいか。
「ところでヴェスタフ。出来ましたか?」
「丁度、仕上がったところよお。いつも通りの完成度でしょう?」
短剣2振りと細剣1振りを受け取り、細剣を眺める美女。そして頷く。
「城内ではこの仕上がりを期待できませんからね。流石はヴェスタフです」
「お褒めにあずかり光栄よ。エリー様」
「ふふ、請求は王城へいつも通りお願いね。それとこの短剣も預かっていくわ」
この光景はデジャヴだ。そうか、ピリスさんと初めてあった時にエリーさんの名前を聞いたんだ。
そして、短剣2振りを確認もせずに持っていこうとしている。2人は姉妹かもしれない。
短剣の確認をしないエリーさんに、俺がうろんな目を向けているのに気がついたのか、独り言のように話し出した。
「わたくしが、短剣の確認をしないのは、ヴェスタフの腕を信じているからです。決してピリスの短剣だから、という訳ではないですからね!」
それだけ言って、エリーさんは扉を開けて表に出て行った。
俺は1人になったので本題に入ろうと、ヴェスタフにナイフを渡す。
「ヴェスタフが言った通り変化があるまで見ていたけど、深夜に何故か俺の周りに風が発生した。でも月の光が、ナイフに反射したと思ったら、その風がナイフに吸い込まれていった。不思議な光景だったけど俺は何が起こったのか分からなかった」
昨日あったことを説明している間、ヴェスタフはナイフを色々な角度から見たり、叩いたりしていた。
「そうだな、これは風の精霊であるシルフが宿っているみたいだな。俺が思っていたのとは少し違うようだ。しかし精霊は契約によって守護する対象が決まるはずなんだが、ナイフと契約するなんて聞いたこともないな」
「言葉の意味がよくわからないけど、ヴェスタフが思っていたのと違うってどういう……」
「そうだな、お前は魔力付与(エンチャント)というのを知っているか?」
「馬鹿にするな! そんなことは知ってる! あれだろ、すごく昔の事でーー」
いきなり、何処から出したのか分からない軽めの本で叩かれた。
「それはエンシェントだ。いいか、エンチャントというのは例えば武器等に魔法の効果を与える事なんだが、剣で物理的に攻撃できれば普通は問題がない。しかし物理的な攻撃が効かない相手、スライムなどがそうなんだが、そんな相手にダメージを与えることができるのは魔法での攻撃になる。つまり俺達、武器職人が作った物が役に立たないということだ。そこで俺はそのエンチャントという答えに行き着いた。武器に魔力を付与させることで、更なる高みを目指せるということだ」
「ちょっと待って、鍛治屋のヴェスタフがどうやって魔力を武器に与えることができるんだ?」
「それをずっと考えていたんだが、今まで思いついた方法は今ひとつだった。しかし、お前が持って帰った普通のナイフが、日を追うごとに魔力を増幅し続けた。それを見たら期待するだろ? まさか精霊が宿るっていたなんて結果になっているとは思わなかったんだけどな」
「なるほど、つまりは武器に魔力を帯びさせることで画期的な事が起こるということか。ひょっとして1振りで城を破壊するなんて事も出来たりーー」
「しねーよっ! そんな事が出来たら広域魔法で攻撃する魔術師が全員職を失うだろ! まあ、今回は思っていたのとは違ったが、今までと変わった方法があったと思えばこれからも期待できる。ヤクモ、手間かけたな」
そういいながら、右手を差し出して来るヴェスタフ。俺は不思議に思いヴァスタフの顔を見る。
「おいおい、皆まで言わせんなよ。これからもよろしくってこった」
ヴェスタフは心なしか照れてる様に見えた。
「ああ」
俺も右手を差し出し、ガッチリと握手をする。
オカマと思っていたオッサンは考えていたより普通だった。
ヴェスタフには何かあったら連絡すると約束して、鉄屑武具店を後にした。
外はもう夕陽が眩しい時間になっていた。
俺はいつもの日課をこなすために、いつもの道を歩き出した。
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