第26話 俺は嘘なんて言っていない!
みんなで食べて、飲んでの時間はあっという間に過ぎて、お姉ちゃんは悔しそうにギルドに戻っていった。ちなみに食事代は1人あたり1000マルクだった。2人はかなりのお得感に驚いていた。
俺達は風の乙女亭を出て、南門から少し離れた空地に来ていた。
食事の時、話に出ていた俺の魔力コントロールを訓練するためだ。
まず、リアナが回復魔法でお手本を見せてくれる。俺とジュリアスがある程度の距離を保つように立つ。そしてそれぞれに回復魔法をかける。
その後、リアナも近づいてきて、3人にまとめて回復魔法をかける。というのを実践してくれた。
なるほど、同じ詠唱だったのに対象だけが変わっている。リアナの話では、効果も人数で割られるとの事なので、使い方を臨機応変に変えないといけないのだという。うーん、奥が深いな魔法道。
「イメージとしてはパーティーという固体に聞かせる感じでやってみて」
そういわれたが、イメージ出来ないよ。俺の出来が悪いのか、教え方が悪いのか。
そういえばどんな曲をご所望だろうか?
「2人はどんな曲が聞きたい?」
「勇ましい曲で!」
それじゃあ、ピアノでも大好きな24のカプリースのクワジ・プレストにしてみようかな。
俺は一気に集中して、弦に弓をあてる。出てくる音に全意識を向け曲を弾きはじめた。
(あー、やっぱりええわー)
弾き終えての感想である。リストやラフマニノフが、この曲に執着する気持ちも分かろうというものだ。5分という時間でこんなに充実できるのは幸せな事なのだろう。
おっと、演奏に夢中で言われていたことを完全に忘れてました。てへっ!
今の演奏は、魔力をどうこうするという意識が全く無かったため、所謂"効果"がダダもれだったに違いない。聞いてくれていたはずの2人の反応を知りたくて、見回した。
あ、いたいた。しかし様子がどうにもおかしい。
まさか俺の演奏中に何かとエンカウントしてしまったのか。
俺は2人に走り寄った。
2人はへたり込み、あわあわしていた。腰を抜かしているような感じだ。
何か怖い事でもあったのだろうか? 俺は正気に戻すため、2人のホッペちゃんをパシパシと叩いた。
それでようやく2人は、ハッと我に返って辺りを見渡した。そんなリアクションをされると不安になる。
「大丈夫? 俺が演奏している間に何かあった?」
2人はふるふるとチワワの様に首を振る。何も無いにしてはおかしすぎる。
「俺の演奏は聞いてくれた?」
2人は赤ベコの様に首を縦に振る。それじゃあ感想を教えてくれよ。いけるのか、いけないのか。
ようやく落ち着いて来たのか、2人は同じ動作で立ち上がった。しかしまだ完全ではないのか、足が生まれたての子鹿の様にプルプルしている。シンクロナイズドしたらチャンピオンベルト貰えそうだな。
こちらを見た2人は「ごめん、今日はもう無理。明日よろ」とだけ言って、よろよろと門の方に歩いて行った。誰がそんな上手い事いえと……。
何とか街までたどり着いた2人は「あれは、ダメだ。普通の人間に使ってはダメだ」と呟いていた。
1人になった俺は魔力のコントロールをチェック出来なくなってしまった。
仕方がないので、ヴェスタフの鉄屑武具店に向かう。南門に戻ってから約40分、北へ向かって歩く。
ふと、ショーウィンドウが目に付いて見てしまう。
5000000マルク SOLD OUT
ナ、ナンダッテー!!
俺は汗で前が見えなくなった。
しょぼしょぼした目で、何とかたどり着いた鉄屑武具店の扉を開くと、中に赤毛の美女がいた。
ヴェスタフさん、いつの間にかそんなに美人さんにと思ったら、ピリスさんだった。
俺を見たピリスさんは怪訝そうな顔で「どうしてそんな顔になっているの?」と聞いてきた。
言えない……売った100倍の金額で転売されたなんて、言えない! 自分が情弱なんて言えないよ。
俺は汗を拭って、話題を変える様に心掛ける。
「リンバルはどうなりました?」
ピリスさんは、さっきまでのにこやかな笑顔が消えて、殺意のほとばしる冷めた表情に変わった。
そして冷ややかな口調で聞いてくる。間違いない団長様モードだ。
「貴方、その話は軍の極秘事項で現在調査中の内容なんだけど、詳しく教えてもらってもいいかしら?」
「今日、お昼頃に捕まったーー」
「何処でそんな話を? 未だ調査中の最重要案件なのだけど?」
「じゃあ、俺達が引き渡したのはーー」
「貴方、少し王城まで同行してもらってもいいかしら? これ以上はここで話をする内容ではないわ」
ちょ、ちょっとヴェスタフ、どうしてこんな時にいないのさ。いや、柱の影から少し髪が見えている。しかも俺が気付いたと感じて手を振っているだと!?
気付くと、俺はピリスさんに腕をガッされていた。あ、この人、ヴェスタフより力強いですやん。
俺はそのまま連行(ドナドナ)された。
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