第25話 パーティー×パーティー

 巨額の報酬に喜んだ俺達は、少しの遅くなったお昼ご飯に行こうという話になった。

 お姉ちゃんのカウンターの並んでいた物凄い行列は、物凄い勢いで消化されつつあった。

 これなら一緒にお昼に行けそうだ。そうしているうちに列は完全に消えてしまった。


 お姉ちゃんは隣の職員に何かを話した後、カウンターから出てきた。これはいつもの光景だ。


 「お待たせ、今日はみんなで食事にいくでしょ? 普段受付をしながら見ていたんだけど、初めての研修で成功したパーティーは絶対お昼をみんなでとっていたんだ」


 お姉ちゃんはそう言うと、思い出すような表情をした。多分受付からその状態を見ていて、良いなあと思っていたんだろう。でもお姉ちゃん、その表情は貴女のファンを増やすだけなので、タイミングとか周りの状況を踏まえてほしいです。


「それでは、初パーティー戦勝ランチに行こうか!」

「おー!」


 俺達は、いつもの場所に向かうのだった。



 ギルドの重厚な扉を開けた時、何人か倒れている冒険者が目に入ったが気にしない。

 その時、お姉ちゃんが思い出したように「そうだ、あれを取って来ないと」と言って戻っていった。

 すぐに追いつくから先に向かっておいてということだ。

 俺達はその言葉に従い、風の乙女亭に向かう。相変わらずギルドから近いし、飯は美味いしで文句なしの食事処だ。しばらくするとお姉ちゃんが追いついてきた。結構走ったはずなのに息が切れていない。見た目は華奢なのに、かなり鍛えていることが窺える。

 何を持ってきたのか聞いてみたが、内緒と言われて人差し指を口に当てていた。弟を誘惑するのはやめてほしい。その時、通行人も溝に落ちたり、つまずいたりしていたので、ある意味、この女(ひと)は歩く災害なのかもしれない。


 風の乙女亭に到着すると、相変わらず女将が、人好きのする笑顔で対応してくれる。

 今日は4人でランチをお願いしたいと伝えると快諾してくれた。席に案内されるとき、お姉ちゃんが何かを女将に手渡していた。女将は袋の中を見て、ニッカリ笑うと厨房の旦那さん(シェフ)に声をかけに奥に入っていった。

 お姉ちゃんが戻ってきて席に座る。4人掛けのテーブルに俺とジュリアスさんが隣同士、俺とお姉ちゃんが向かいに座った。

 しばらくして、テーブルに料理が並んでいく。簡単なバイキング形式で小皿に料理を取っていく方式だ。交流をより深められるようにとの配慮なのだろう、女将の心遣いに感謝。

 テーブルに並んでいく料理の中に、一際目立つ物があった。ビッグサイズのステーキだ。女将に尋ねると、少しの冗談っぽく「たった今、新鮮なロースが手に入ったからね」と教えてくれた。

 それを見てお姉ちゃんはクスクスと笑っている。あぁ、そういう事だったんだね。お姉ちゃんの心遣いに感謝。

 全ての料理が揃い、全員のジョッキにシュワエールが注がれた。


「それではっ! 俺達の初勝利に乾杯っ!」

「かんぱ~いっ!」


 乾杯の音頭とともにパーティーは始まった。



「やっぱり、ヤクモからだったよね」


 食べるのと飲むのがが少しの進むと、もう気心知れた仲間だ。当然敬称略になる。

 リアナは俺がトラブル体質と思っているのだろうか? "やっぱり"ってなんだよ。


「だよねー。私も思ってた。最初からマスターに絡まれたりしてるしね」

「ビックリしたぜ、いきなりワイルドボアと追いかけっこだもんな!」

「なんで俺だけディスられてるの?」

「ディスってのがよく分からないけど、持っているねってことだよ」

「それな! リンバルだったっけ、いきなり10万だもんな! 助かったぜ」

「あの時、どうして急に現れたのかなー? 弟君なにをしたのよ?」


 あの時、みんなで一緒にいたのに俺だけが何かしたという嫌疑がかけられている件について。


「いやいや、みんな一緒にいて俺が何もしていないって知ってるでしょうよ」


 しかし、お姉ちゃんとリアナはジト目で俺を見ている。


「そういえば弟君なんだか物悲しい曲を弾いていたよね。曲を聞き出した時から感情の制御が出来なくなったんだけど、あれは何だったの?」

「言われてみれば俺もだな」「あたしもそうだった」


 後の2人も同意している。でも俺としては何も特別なことはしていない。


「俺は自分のふがいなさと、ワイルドボアが連れていかれる様を見て、知っている曲を弾いただけだよ」

「曲といえば弟君! 前に聴かせてもらったときも何だか感情の制御がーー」


 そこまで言ってお姉ちゃんは黙ってしまう。どうしたんだろう? 顔が少し赤いのは酔っているのだろう。あまりお酒が強くないのに無理はイクナイ。


「ゴホン、え、えーと。そう、弟君の弾く曲は思っている感情を強力に表にだす力があると思うの」

「あたしもそれには同意かな。あの時、微弱な魔力を感じたわ。それはつまり魔法にカテゴライズされるという事よ。ヤクモは魔力のコントールを覚えれば、曲を弾くことでパーティーのサポートができるんじゃない?」

「それって良いことなのか?」

「ジュリアスは本当に脳筋なんだから! 感情のコントロールは戦況を大きく変えるのよ。例えばやる気の無い戦いで勝てる気する?」

「の、のうきんって……。そりゃ無理だな。戦力差があれば別かもしれないけどな」

「その逆も言えるのよ。負けそうなのに、すごい士気が高かったら何か起こりそうな気がしない?」

「負けそうなのに士気高いって怖いな。確かに感情ってのは大きな武器かもしれないな」

「リアナ、凄いね。色々と考えているんだ。弟君、この後魔力のコントロールの練習をしてみようか?」

「お姉ちゃん、ギルドの仕事は大丈夫なの?」

「あぁ~! 忘れてた~。うぅ、折角、弟君と家族水入らずで勉強できると思ったのに~」


 お姉ちゃんがポンコツになっている?! ギルドでの仕事ぶりからは考えられない。


「アンナ、あたし達で訓練しておくから、貴女はしっかり仕事してきて大丈夫よ?」

「ヤクモの事は大丈夫だから、いつもの通り受付を回してきてくれ」

「お姉ちゃん、そういえば酔っていても仕事はーー」

「弟君は優しいね。でも私、全然これくらいじゃ酔わないよっ!」


 お姉ちゃんはシラフだったらしい。

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