第23話 どなどな
一体どうやったら、あんな逆転劇が起こるのだろうか?
「弟君、絶対私の事忘れてたから、教えてあげなーい」って言われた。すみません、その通りです。
そして今、ワイルドボアの手足を、一本の木に縛り付けて、ジュリアスさんとリアナさんが運んでいる。何故、リアナさんが運んで俺は運ばないという疑問は出てくるかもしれないが、基礎体力は彼女の方が上なのだから仕方ないでしょうよ。
お姉ちゃんが、シルフよ、と呟くとワイルドボアは軽くなったみたいだ。本当になんでもありなお姉ちゃんだ。俺にもその片鱗を分けてくれてもいいんじゃよ?
戦闘でも、運搬でも役立たずな俺はなんだか自分ですごく情けなくなってきてしまう。
そして、目の前で運ばれるワイルドボア。あーるはれたーひーるさがりーと寂しい音楽を思いついてしまう。あぁ、そうだ演奏しよう。
背中に背負ったヴァイオリンを構え、ドナドナを弾く。今は自分の心境ともマッチしているだろう。
運ばれるワイルドボアと一緒に、自分もなんだか売られそうな気分で演奏する。
瞑目して、感情を乗せる。そして、しばらくすると……。
「大丈夫、この豚さんは売らないから、ね。弟君大丈夫だから」
「さっきまで戦っていた戦友(とも)を売るわけないって!」
「このブタさんにはヒールの練習台になってもらうので売るわけないじゃないですか」
「そんな悲しそうな顔してないでも大丈夫! 俺が守ってやるから」
4者4様に既にお亡くなりになっているワイルドボアに同情している。運ばれ連れていかれる事が、ワイルドボアの悲しみになるので、その場に降ろしてしまう。
皆、優しいんだね。
そこで違和感。上からお姉ちゃん、ジュリアスさん、リアナさん、who are you!?
聞いたことのない声に焦って、目を開けて確認すると、ワイルドボアの亡骸に抱きついている全身真っ黒の何たらレンジャーみたいなバトルスーツを着て、仮面をつけている男(変態)がそこにいた。
いつの間にそこにいたんだろう。全く気がつかなかった。そういえば俺が最初に冒険者ギルドでマスターと言い合ってた時、諜報員とか言ってた様な気がする。
気配を消して、近くに潜むことができる人間が存在するのかもしれない。気配を感じさせないなんとか卿とか、ルールの破壊者みたいな人種なのかもしれない。
他の3人も突然降って湧いた様な異様な男に違和感を感じているみたいだ。
突然湧いた男は、周りが見えていないかのようにワイルドボアに抱き着いている。動物が友達な人なのかも知れない。
その中で行動をおこす人物がいた。先の戦闘では、ワイルドボアに不意打ちを食らわせたタンク、ジュリアスだ。コッソリと男の後ろに立ち、割れた木の盾を振り下ろす。
その動作に気付いていない異様な男は、全く反応もできずに頭を強打され、倒れ込んだ。
手足を縛り、猿ぐつわをして、逃げられないようにする。
そして、木にくくりつけワイルドボアと同じように運ぶことにした。
ワイルドボアと不明な男をドナドナしながら俺達は北門の詰め所まで歩いた。
俺達が詰め所に着いたとき、普段よくお昼くらいに出会う、少し立派な兵士が門の所に集まっていた。
もうお昼かーなんて考えていたら、いや待て、お昼って言ったらタイムリミット過ぎてるやん。
俺の顔色は、既にお亡くなりになっているワイルドボアより、青くなっていたかもしれない。
兵士達が「研修か? 無事完了出来たみたいだな」とジュリアス達とワイルドボアを見ながら言った。そして少し後ろを歩く俺とお姉ちゃんがドナドナしている男を見て「最近は帝国の将校も研修で倒すんだなー」と言った。
俺達は不穏な言葉が混じっている事に気付き、兵士達もんんん?? といった感じで2度見してきた。
「ちょっと待てーっ!!」
俺達と兵士達の大合唱は、初めてながらも大成功だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます