第22話 リアナの記憶
あたしの家は治療院をしており、日々忙しい。幼少のころから母さんに治療術の手ほどきを受け、怪我をした患者さんの簡単な治療を手伝っていた。
父さんと母さんは、昔冒険者をしていて、同じパーティーだったらしい。
幾多の依頼をこなして、冒険を重ねる毎に、信頼から愛情に変化して結ばれた。
2人が冒険者をしていたときに貯めた資金で今の治療院を設立したのだという。
そして、あたしは両親から教えてもらう、実際にあった冒険の話が大好きだった。
ダンジョンと言われる古代から自然に出来上がった洞窟の冒険、砂漠のオアシスでの調査、火山の火口でのリザードとの戦闘など、沢山の冒険をした両親の話はリアリティに富んでいたし、興味を充分満たす内容であった。
そして、そこから生まれるラブロマンスは、夢見るあたしに更なる興奮をもたらした。
治療院のお仕事に従事して、何年か過ぎ、あたしの治療術の技術も向上していった。以前は簡単な治療しか出来なかったものが、より高度な怪我も治せるようになってきていた。
そんなとき母さんが教えてくれた事がある。
「治療士の存在は唯一無二なの。そして治療術はその対象の怪我を治す。つまり貴女が生き残ることが大切だということ」
治癒士がパーティーの要であることを教えてくれる。つまりはあたしが倒れると全滅するということ。
「そして回復させるのはできるだけ控えるの。ギリギリまで。そう回復を遅らせるのよ。そうすることで治癒の有り難みを理解してくれるわ。場合によっては一気に惚れてくれるわよ」
父さんは、聖女の皮を被った悪女に騙されたのかもしれない。
翌日から、あたしは治療院に来る患者さんを治療する時、少しの時間をかけるようにした。
それにより、患者さんは痛がる時間は増えたが、治療の後にされる感謝は以前より大きくなった。
そして、ついにあたしも成人した。父さんと母さんに倣って冒険者になれる年齢になった。
両親は、あたしが冒険者になることには賛成してくれている。
冒険者ギルドに赴き、受付の済ませようと列に並ぶ。列を見ていると何故か1番混んでいる列が1番列の解消が早い。そこであたしは混んでいる列に並んだ。
並びながら周りを見ていると、かなりの人数がギルドにいることがわかる。その中には、なかりのイケメンもいて心がときめいてしまう。特に目をひいたのが、あたしの2人ほど前にいる、金髪の男性だ。
そして、その男性が受付と話をしている。ここからだとよく聞こえないが、男性と受付の人が何となく知り合いみたいだった。しかし、男性は必死に何かを言っているみたいだが、受付は取り合うしまもない雰囲気だった。男性は普通の人と変わらない時間で手続きを終えていた。
あたしだったら、あんなイケメン相手だと持ち時間一杯まで使うだろうなと思っていると、順番が回って来る。他の列の半分くらいの時間で対応しているようだ。
あたしが受付に立つと、目の前のシルバーストレートの髪を後ろまとめた受付嬢は、にこやかに対応してくれた。わかりやすい言葉で、丁寧にはっきりと。
そしてプレートを差し出されて、説明通り血を垂らす。あたしがずっと待ち望んでいた冒険者になった瞬間だった。
職業は治癒士、スキルは回復魔法II。治癒士と言われる職業の一般的な構成だ。その後、ギルドのルールや、新人研修の事を教えてくれる。すごく分かりやすかった。
手続を終えて、あたしは家に帰った。
父さんと母さんに夕食時、ギルドであったことを話した。雰囲気や明日からの研修の事を。
そして夕食が終わる頃には全てを話した、満足なあたしがいた。
そして、聞き終えた両親が口を揃えて言った。
「リアナ、もしパーティーを組むことがあったら、最後に残った人達についていきなさい」
「え? どうして?」
「いいかいリアナ。すぐに集まるということは意識が高い人達が多い。つまりは無理をする集団なんだ。しかし冒険者は生きていてこそ、冒険ができる。最後に残る人達と組むのは処世術なんだ」
あたしは納得の言葉にコクリと頷いた。
この言葉が全くのデタラメであることが分かったのはしばらくしてからだった。
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