第14話 一人でできた! 高校生編
食事が終わり、支払いを済ませる。
2人で1000マルクだった。
設定価格を疑うくらいに有り得ない値段だ。
そして、俺はお姉ちゃんと別れてクエストに取りかかろうとした。
「弟君、気をつけるのよ!」
お姉ちゃんは別れ際にそう言って応援してくれた。
(お姉ちゃん! 貴女の知名度でそんなサプライズを公言したら大変な事になるってわかりますよねー!?)
俺の豆腐なメンタルは既にレッドゾーンに突入している。
そして、ぶんぶんと手を振りながら、にっこにこで帰るお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんを見ると、全て些細なことに思えるから不思議だ。
☆
お姉ちゃんがギルドに帰ったあと、クエストの内容を確認する。
「貴族の家で草むしり」と「南区画の溝掃除」だった。
貴族の家は南東の高級地にあり、南区画の溝は南門から西門に向かっている溝だ。
全て同じ区画での作業と言うことも効率が良い。
しかも給料はそれぞれ1500マルクと高い。
お姉ちゃん、良いクエストをありがとう。
まずは貴族の家で草むしりをするため、依頼書にかかれている住所に向かう。
地図を見ながら、しばらく歩くと目的地は見えてきた。
貴族の屋敷らしく、王都という高価な土地柄にもかかわらず、庭付きの豪華な佇まいだ。
洒落た門の前に呼び鈴の様な物がついていたので鳴らした。
すると執事然の老紳士が屋敷の中から出てくる。
ピシッとした黒の円燕服を着こなした姿は正に執事 オブ 執事だ。
だが老紳士からの視線は非常に厳しい。
依頼された仕事をしに来たというのに、だ。
俺はその時、自分が何者か名乗っていない事に気付く。
怪しまれて当然だろう。
こんな普通の服を着ていて、貴族ってなに? みたいな雰囲気を醸し出しているんだから。
俺は申し訳ありませんと前置きして、ギルドからの依頼書を老紳士に見せた。
老紳士はそれを受けとると、訝しそうに確認してようやく話しかけてくれた。
「ギルドへ依頼した件でしたか。それではこちらへ」
老紳士は、そういって豪奢な門を開けると、俺を屋敷の庭に招き入れてくれた。
案内された庭は3on3が出来るくらいの広い場所だったが、綺麗に整理されている場所だった。
しかし、よく見ると所々雑草が出ている場所もある。
俺が、これ以上どうしたらいいのん? と思っていたら老紳士が声をかけてきた。
「それではこの庭をお願いしますぞ。完了したら先程の呼び鈴を鳴らしてくだされ」
それだけ言って、屋敷に入って行った。
草むしりといっても、ギルドから依頼された仕事なので、几帳面に仕上げようと心に決める。
どんな仕事内容であっても、俺がエクセレントの評価を頂くことで、繋がりが広がることだろう。
見た目、雑草が生えている場所は元より、小綺麗に見える場所も徹底的に潰していく。
おかげで元々の見た目が綺麗ではあったにも関わらず、2時間くらいかかってしまった。
作業が完了して呼び鈴を鳴らす。
すると老紳士がすごい身のこなしで門の所まで出てきた。
無駄に凄い老紳士である。
俺が作業完了の報告をすると、チェックするために周りを見回しはじめる。
壁の際や石畳の通路の間など、挙げ句の果てには門の上に指を滑らせている。
それよく姑がする嫁いびりのやつやん。
草むしりと関係ないやん。
そう思いつつも、俺に抜かりはなかった。
そういうこともあろうかとやっておいたのだよ、明智君。
老紳士は、ふんっと鼻を鳴らしながら「まあ、及第点じゃな」と言って依頼書に印を押してくれた。
俺はそれを受けとり、ありがとうございますと一礼して屋敷から退出した。
次の目的地は、南門の兵士詰め所だ。
大通りの門に面しているため分かりやすい。
詰め所に着くと、兵士が3人いて1人が門番、2人が待機という状態だった。
俺が依頼書を見せると、待機していた1人が出てきて説明してくれた。
南門から東門には水路が通っており、その水路に何か異物が無いかを見て回る仕事だそうだ。
王都の水路ということもあり、これまた状態が良い。
むしろ何も無い。
俺は兵士にお礼を言って、東門に向かい歩き出した。
水路はよくよく見ると、これまた細かな雑草が生えていたりした。
景観を損ねるような物はやはり存在しない。
しかし、これは徹底的に綺麗にしてやろうと、俺のこだわりがむくむくと沸き起こった。
細やかな草も排除していく。
これまた2時間くらいかけて、東門にたどり着いた。
東門の兵士に回収した雑草を見せて依頼書に完了印をもらう。
その時君は几帳面だなぁと言われたのが嬉しかった。
俺はお礼を言って、冒険者ギルドに完了報告をするべく歩き出した。
東門から大通りを真っ直ぐ、西に向かう。
夕方の大通りは色んな意味で賑やかだった。
この大通りは南東の区画が主に居住区ということもあり、屋台が多く存在する。
俺が通り過ぎようとすると、八百屋、果物屋、魚屋、肉屋が声をかけてくる。
日本にいたときはこういう所が少なくなってきていた。
そして複合施設が買い物の拠点になっていたことを思い出した。
やっぱり昔ながらのこういう店の在り方も悪くない思う。
人同士がコミュニケーションをとれるというのは大事なことだ。
俺はふと目に付いた果物屋さんでリンゴらしいものを買った。
そしてそれを食べながら歩いた。
お値段は50マルク。
日本で買うと3倍近くの値段はするだろう。
酸味の効いた果汁は、4時間働いた俺の咽を潤してくれる。
甘さも少し疲労を和らげてくれている気がした。
まぁクエストより、午前中の研修という名目で行われたブートキャンプが効いている訳だが……。
夕方の街を堪能しながらしばらく歩くと、左側に冒険者ギルドが見えてきた。
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