第4話 合同強化プログラム、始動

「はぁ…どうしてここに来てまでお前たちと一緒なんだよ…」

 第4小隊の5人は、合同強化プログラムが行われる会場に向かうために壁外を行き来する外壁区間鉄道に揺られている道中だった。

 そんな中、なぎは一人、深い溜め息を漏らしていた。

「なんだよその言い方はよぉ!?俺たちだって驚いてるっての。こんな偶然あり得るのかよ?」

 そんな薙たちの近くには、朝陽あさひが隊長を務める第7小隊の姿もあった。

「意外なこともあるもんだなぁ。まさか合同訓練でもお前さんたちと同じ組になるなんてよ」

 事のはじまりは、現在からさかのぼること7日前になる。

 首都奪還作戦と、それにともなう『合同強化プログラム』の日程が公表され、参加する各隊に情報がメールにて提示された。

 そこには、合同強化プログラムにて合流する4つの小隊の名が記されていたのだが、そこの名簿には偶然にも第4小隊と第7小隊が同じメンバーとして記載されていたのだ。

 本来、この合同強化プログラムは他支部同士の交流という名目もあるため、すべてが別の支部で構成されるものだと思い込んでいた。だが、この編成を見る限りそうではないのだと核心ができたのだが、まさか面識のある者同士で組まれるのは想定外だったこともあり、一同はこの編成に驚きを隠せなかった。

「お前らとは何かと一緒になる機会は多かったけど、ここまでくると何か怖いものを感じるわ…」

 数日ほど前に、お互い首都奪還作戦に参戦するということを知り、別れ際に言葉を交わしたというのに、結局一緒に行動を共にすることとなった訳である。

 そんな巡り合わせのような偶然に驚きながらも、一同は電車に揺られながら目的地に着くまで、ゆったりとした時間を過ごす。

 車両の中は、以前に薙と天音が乗っていた時のような他の乗客はおらず、1車両を貸し切りで使うことが出来ている上、後ろの貨物列車にはお互いに大量の荷物を積んだ軍用車両まで運んでもらっている。

 合同強化プログラムは首都奪還作戦の参加を名目とした訓練であり、国家主導の下で行うことであるため、支援が手厚く諸々もろもろの費用はすべてが国が負担してくれている。

「でも、いいじゃないですか?少しでも知り合いが多い方が気持ちも楽になりますし」

「たしかにそうだよな。後に合流する隊はそれこそ知らない顔ばかりなんだし、むしろ少しでも顔見知りがいるほうが楽ではあるな」

 薙の対面に座る天真が、フォローを入れて場を和ませようとする。

「それよか、これから合流する隊のことも気になるよなぁ。え〜っと?どこの奴らだっけか?」

 薙と天真が座るシートの隣側で、朝陽がこれから合流する小隊について周りに問いただす。

焔摩天えんまてん第6小隊と水天すいてん第11小隊ですよ。もう、これから一緒に背中を預ける仲間になるんですからいい加減覚えていてくださいよ」

「あー、そうそう思い出した!大丈夫、覚えてるっての!」

「お前、絶対忘れてただろ」

 大げさに思い出したように話す朝陽に、薙は冷ややかな目を向ける。

「そんなことねぇっての!それで、そこのやつらの情報とかって結局分からないままなのか?」

「無茶言うなよ。他の外壁区に行く機会すら少ないのに、そこの小隊の情報なんて知ってる訳がないだろ」

「そりゃ、全国で名の通ってるところなら話は別だが、俺たちと組むような隊ならなおのこと情報が少ないわな」

「こればかりは、直接会ってみるまでは分からないな」

 特に進展の無い話題に対して、くつろぎながら目的地に着くのを待つ男性陣。

 合同強化プログラムでの編成は事前に公表はされてはいるが、個人情報などの観点からか、一切の情報は記されていなかった。つまり、実際に合流して会うまでは全く情報が無いのだ。

「どうでもいいが、あっちはあっちで楽しくやってるようだな」

「そうみたいだな」

 静まり返った座席の中で、左近は後ろ側の少し離れた座席に目を向ける。

 そっちには第4小隊の天音あまね紗月さつき、第7小隊の可凛かりん鈴蘭すずらんが仲良さげに楽しそうな談笑が聞こえてくる。

 天音の神魔じんまであるカイムも女性陣に混ざっているようだが、座席の脇で疲れたように丸くなって座っているのが見える。白銀の体毛を生やした狼の見た目は、まさに神の化身と呼ぶに相応しい威厳を感じさせるが、イヌ科の見た目ということもあってか、紗月にはペットの様に可愛がられるため今のポジションは気苦労が絶えないのだろうと察する。

 女性陣は同じ座席でまとまって、何やら愉快な話し声が聞こえてくるが、電車の音で内容までは聞き取ることはできなかった。

 背後から様子を確認することはできたが、意外にも4人は楽しそうに笑っている様子が伺えた。

 最近になって周りと馴染めて来た天音もそうだが、一番意外なのが感情を全く表に出さない鈴蘭の表情が微かではあるがいつにも増して楽しそうにしていることだった。同じ隊の朝陽が言うには、「あいつも嬉しい時は顔には出来るけど、本当に珍しい」という程であるようだ。

「あ〜、こんなムサ苦しい男どもとじゃなくて、俺っちもあそこに混ざりてぇな〜!ってか、そもそも何で全席禁煙席なんだよ!一般客と区分してるなら喫煙所くらい置いてくれたっていいだろ!」

「だーっ!騒ぐなよ、左近のおっさん!」

 タバコが吸えないことで不機嫌な左近に、対面に座っている朝陽は不愉快な顔で反発する。

 車両は貸し切りであるため座席には余裕があるのだが、旧式の車両を改造した古めかしい車両であるため、最新鋭のものと比べて電車の稼動音が非常に大きく揺れも激しい。そのため会話をするために出来るだけ近づいたのだが、シートも大して大きい訳でもなく、大の大人が対面で座ると少し窮屈にも感じてしまうほどのスペースしかない。

 薙と天真の場合は、天真が小柄な上、座席の隅で小さく座っているため薙は快適に座ることができている。銀次に至っては朝陽の後ろの席を独占しているため、問題なく寛いでいる。

「薙センパイ、何だか楽しそうですね」

「えっ!?どうして、そう思うんだ?」

「だって、さっきからとても楽しそうな顔をして外を眺めていたので」

「俺、そんな顔してたのか?」

「はい。まさか、自分でも気づいてなかったんですか?」

 期待に胸が膨らむような楽しげな表情で窓の外を見つめる薙に、天真が気になって声をかける。

 当の本人は、天真に言われるまで気づいていなかった様子だったが、顔に手を当てながら今まで考えていたことも思い返すと、不意に笑みがこぼれてきた。

「いいや、そうかもな…。今までのことを思い返してたんだけど、毎日が目紛めまぐるしかったなって思ってさ。改めて思い返すと俺たちもよくやって来たよな」

 薙は無意識ではあったが、今までの出来事を思い返していたようで、そのことを天真に話をする。

「そうですね…。なんたって僕たち、あれだけ話題になっている烙印らくいん付きを2回も倒したんですから!まぁ、九尾の化身に関してはなにも言えませんが…」

 薙の言葉に、天真も今までの出来事を思い返してみる。

 薙たちが始めて邂逅かいこうした烙印付きこと、赤紋種せきもんしゅという新種のアヤカシの脅威。

 一度目の蒼鬼そうきとの戦闘は、苦戦を強いられながらも、第7小隊と天海八雲という頼りになる助っ人のお陰で何とか倒すことができた。

 だが、先日の九尾の化身との戦闘は、なんとか仕留めることができたものの、こちら側もダメージは大きく、全員が生還できたのも奇跡に近かった。

 そんな苦難を乗り越えながらも、何とかやってこれたのだと思うと、こみ上げてくるものもあるようだ。

「それと、首都奪還作戦にも参加する日が来るなんてな…。不安もあるけども、内心うれしくもあったりもするんだよな」

「僕も同じ気持ちです!首都奪還作戦は僕の中でも目標のひとつでもあったので、こんな早くに参加ができるとは思いもしませんでした!」

 薙の言葉に、天真も共感するようにうなずく。

「これも全部、天音が来てからの事なんだよな…。本当、始めはどうなるかと思ったけど、今はこうしてひとつになれた事が何よりもうれしいって思う」

 薙のその言葉は正に心の底から出てきた言葉に感じ、天真は薙の言葉に真摯しんしにうなずく。

「俺さ。今までは無理なく平凡に戦って、みんなが無事に生き残ることだけを考えてたんだけど、天音が来てから何か変われた気がするんだ。なんて言うか、天音の『強くなりたい』っていう気持ちに感化されたって言うのかな。止まっていた時が動き出したって感じがする」

「その気持ち、とても分かります。最近は特にハードに感じるところがありましたが、前と比べて一段と強くなってる気がするんです!天音さんも第4小隊ここに大分馴染めたようで、笑うことが増えてきたようにも見えますし」

「そうだな。本当、天音が来てくれて俺たちの方も変われた気がする。天音の気持ちが俺たちを突き動かしてくれていたのかもな」

「薙センパイ。僕たち、今よりももっと強くなりましょう!」

 それは不意に思い返した過去の記憶だったが、その記憶に対して正面から向き合えたことで、今まで見えなかったものに気づかされたように感じて薙と天真はお互いに笑いあった。


「ご乗車ありがとうございます。アマテラスの皆様。間もなく目的地に停まります。お降りのご準備をお願いします」

 すると、隣の車両から車掌らしき人が歩いて来て、目的地に到着するとの報告がくる。

 一応は貸し切りで使わせてもらってはいるが、隣の車両には勿論一般客も利用している。アマテラスの活動は多くの国民から支持を得られているが、少なからずもそれを良しとしない者もいる。

 そのため、退出も迅速かつ目立たないように行うことが推奨されている。

「それじゃあ行くか。車掌さん、出る時はクルマから直接出れるのか?」

「はい。手筈は整っておりますので、隣の車両に停めてある皆様の軍用車両に乗り込んでお待ちいただければ問題ありません」

 下車の説明を聞いて、各員は速やかに準備を行い各々の隊の軍用車に乗り込んだ。


 軍用車に乗り込んだまま駅から降りて、ここからは自走で目的地に向かう。車両は小隊に分けているため、第4小隊が先を走って後ろから第7小隊の車両が付いてくる形で目的地を目指す。

「なぁ、今向かってる宿舎ってどんなとこなんだろうなぁ?」

 薙が運転する隣の助手席で左近が退屈そうにプログラムのパンフレットを見つめながら話をする。

「一応、聖域せいいきの中にある旅館とは聞いてるけど詳しい事までは知らされてないから、実際に見るまでは何とも言えないな」

「でも、そのパンフレットを見るには私営の旅館を貸し切りで使えるようなこと書いてませんでした?」

 その話の内容は、ちょうど今向かっている合同強化プログラムで泊まる宿舎のことだった。

「まぁ訓練生時代のことを思い出すと期待はできないだろうな〜」

「あー、あの質素な宿舎でしょ?それでも国が運営してるんだから、もっと設備とかも充実させてほしいわよ」

 左近と紗月は、アマテラスに入る以前の訓練生時代の宿舎を思い出しては、文句を言い合っていた。

「贅沢言うなよ。訓練の一環なんだからそれくらい普通だろ」

「いいや、そんなこと無いわよ!むしろ薙が無頓着むとんちゃくなだけ。よくもまぁ、あんなところで普通に寝泊まり出来たものよねぇ」

「まぁ普段の薙助なぎすけの部屋を考えると…たしかに関係ないわな。よく、あんな殺風景な部屋で生活できるもんだ」

「薙ももういい歳なんだから、少しくらい部屋の内装くらい気にしたらどうなのよ?」

「お前ら、言いたい放題言いやがって…!」

 運転に集中している薙の横で、自室のことに関して小馬鹿にされたことに多少の怒りを感じていた。

「あたしたちでさえあんなに苦痛だったんだから、天音だって不満だったんじゃないの?」

「何を言ってますの?わたくしはそもそも新人訓練なんてものを受ける必要がなかったので」

「何よそれぇ!ズルじゃない!?あれを受けないと神威かむいになれないんじゃないの!?」

 新人訓練を受けていないと言った天音の発言に、紗月は耳を疑うように驚きをみせる。

 新人訓練とは、そもそも神威かむいとしてアヤカシを倒すための能力を身につける、言わば神威になるための登竜門である。アマテラスに所属するには、この新人訓練の突破は必須なのだ。

「新人訓練ではありませんが、幼少のうちにそれに相当する訓練は済ませてましたので。何ですか?それとも紗月は私と同じように幼少期からあのような訓練を受けたいのかしら?」

「え、遠慮しておきます…」

 今でも思い出したくもない訓練を天音は幼少期からしていたことに、紗月は驚きを通り越して若干引きつったような顔をする。

 大の大人でさえ、根を上げてしまうほどの過酷な訓練を、まさか幼少期に終わらせていると考えると、天音の精神力の強さも伺える。

「ほら、見えて来たぞ」

 他愛ない会話をしていると、薙が指差した先に一際大きな和風の建物が建っていた。

「へぇ、なんだか想像してたよりも立派な建物じゃない。これは期待できそう!」

「そうですね。昔ながらの風格があるといいますか、懐かしさを感じられるようなおもむきがありますわね」

 人里離れた場所にたたずむその旅館は、木造の年季の入った3階建ての建物で、決して豪華な佇まいとは言えないが、古いなりの暖かさを感じられような場所だった。

 だが予想していた所よりもずいぶんと趣のある旅館に、天音と紗月は目を輝かせていた。

「この地域は聖域らしくアヤカシの被害はないようですけど、逆にそれが原因で孤立しすぎて人が寄らなくなったという噂があるようですね」

「まさかこんな所に泊まれるなんて思ってもみなかったわぁ!新人訓練とかスラムの小汚い部屋を思えばオアシスよ、ここは!しかも、貸し切りなんでしょ?なんだか今回の合同訓練、最後までやり切れるって思えてきた!」

「まったく、まだ始まってもいないのに呑気な方ね」

 気の早い紗月のやる気に天音はあきれ顔をするも、そのやる気に感化されるように小さな笑みがこぼれる。

「アマテラスの制服を着てるのがいるな。もう着いてる隊がいたのか?」

 軍用車をさらに近づけると、そこには同じ制服を着た者がちらほらといた。面識の無い顔であり、制服の形も薙たちの身につけている火天支部のものと若干違うことから、別の支部の者であることが伺える。

「まさか、俺たちが最後だったかな」

「別に遅刻してきた訳じゃないんだからいいんじゃない?」

 乗って来た軍用車を降りると、近くにいた数人ほどがこちらの存在に気づいて目を向ける。

 ある者はこちらに気づいて手を振る女性がいたり、またある者は腕を組んで静かにこちらを見つめる男性もいたりした。

「悪い!少し話を通してくるから、先に荷物を降ろしておいてくれ」

「おう、任せときな!」

 周りからの目線が気になる薙は、先に挨拶だけでも済ませようと思い、近くにいるアマテラスの制服を着た人に声を掛けることにした。

 あまり目立つのが好きな方ではない薙は、大勢からの視線に堪え兼ねて場所を移そうとする。

「朝陽、今いいか?」

「あん?どうしたんだよ」

「他の支部の人たちに挨拶してこようと思ってるんだが、お前も一緒に来てくれ」

 薙は、近くにいた朝陽に声をかけて一緒に着いて来るように促す。

「…?まぁ別に構わねぇけどよぉ」

 いつもと様子がおかしい薙の様子に、朝陽は疑問に感じたが特に考える事なくついていく。


「お待たせしてすみません!火天支部第4小隊と同じく第7小隊ただいま到着しました」

 薙と朝陽はとりあえず近くにいたアマテラスの制服を着ていた女性に声を掛けてみることにした。

「長旅ご苦労だったな。気にするな。私たちも丁度着いたところだ」

「そうですか。それならよかったです」

 その女性は、特に変わった様子も無く淡々と言葉を交わす。

 女性でありながら薙と朝陽と大差のない背丈があり、長い黒髪を後ろでひとつに縛ったその姿は一見しただけでも威厳を感じさせるものがあった。

「君たちふたりが、ここの小隊長でいいのか?」

 長い黒髪の女性は、薙と朝陽を見つめると確認のような質問をする。

「はい。第4小隊の月影薙と申します。隣にいるのが−−」

「紹介くらい自分で出来る!第7小隊の隊長、茂庭朝陽だ。それで、アンタはどこの所属なんだ?」

「っておい!もっと丁寧な言葉遣いはできないのか?」

 見た目だけでも実力を感じさせるようなその女性に対して、朝陽は対抗するかのように、攻撃的な口調で話しかける。

「いいや、気にするな。私も自己紹介をしなければな。焔摩天えんまてん支部第6小隊隊長、長尾雪那ながおゆきなだ。首都奪還作戦までの短い期間だが、よろしく頼む」

 雪那と名乗る女性は軽い挨拶をすると、ふたりに手を差し伸べて握手を求める。

 彼女も薙と朝陽と同じ小隊長であり、礼儀正しい態度で接する。

「それともう一組の小隊もいるのだが−−」

「ご、ごめんなさい!準備に手間取ってしまって遅れました!」

 雪那が何やら辺りを見回すと、旅館の入り口から勢いよく一人の少年がこちらに走ってくる。

「うむ、ちょうど良い所にきた。今し方ここに集まる隊長同士で話をしていたところだ」

「そ、そうだったんですね。雪那さんと他の小隊の方が話していたので、てっきり僕だけ出遅れたのかと思いました!」

 先ほど遅れて来た少年は、天真と同じくらいの背丈で年齢も大差がないように見え、こんがり日に焼けたような褐色の肌をしている。

水天すいてん支部第11小隊、流鏑馬麻央やぶさめまおです!噂は常々聞き及んでおります。烙印らくいん付きを倒したっていう火天支部の第4小隊と第7小隊の方々ですね。皆さんのような名のある方々と組めること光栄に思います!」

「そ、そんなこと全然!って、俺たち他の支部でも噂になってるのか!?」

 麻央と名乗る少年は、既に薙と朝陽のことを聞き及んでいるようだった。当の本人はその事実に驚きを見せる。

「それはもちろん!烙印付きの存在はこちらでも噂になってますし、初めて邂逅し討伐されたとなれば話題にもなりますよ」

「そうだったのか。なんか意外だったな」

「まぁ、悪い気はしないな!」

 他の支部で名が知れ渡っていると知り、薙は照れくさいような表情をしている一方で、朝陽はまんざらでもない様子で鼻を鳴らしていた。

「積もる話はあると思うが、このような場所で話すにも何だろう。支度を終え次第、再度メンバーを集めて顔合わせといかないか?」

「それがいいかと。では、1時間後にここの旅館の1階にある大広間に集合というのはどうでしょうか?」

「分かりました。では後ほど合流しましょう」

 再度紹介の場を設ける事を決め、一旦話し合いを終わらせて薙と朝陽は準備に戻ることにした。


 一方その頃、薙を除く4人は乗ってきた軍用車に積んである荷物を降ろす。

「ん?誰か近づいてきますね?」

「こんな忙しいってのに何だよ、一体…って、おお〜!」

 荷物を降ろしている最中に、天真が2人組の女性が近づいてくるのに気づく。

 荷解きに苦戦している左近は、天真の言葉に適当に返そうとしたが、近づいてくる人影が女性であると気づくと荷解きの手が止まって、まじまじとそちらを見つめる。

「こんちわーすっ!何か手伝えることありますかー?」

「こら、杏里あんりちゃん!そんな挨拶じゃ失礼でしょ」

 その2人は、先ほど手を振っていた少女の一人で杏里と呼ばれていた活発そうな喋り方をする女の子と、もう一人は清潔感のあるセミショートの淑やかそうな見た目の女性だが、珍しい赤黒い髪色をしていた。

「何か御用でしょうか?お嬢様方」

「何よその喋り方…」

 話しかけてくる2人の女性に対して、左近は態度を一変させ紳士的な言動に変わる。今までの退屈そうな態度から急変した左近に、紗月は顔を引きつらせるように左近を見つめる。

「あ、申し訳ありません!もしお邪魔でなければ、お手伝い出来ることはないでしょうか?」

 どうやら彼女たちは、こちらが荷物を降ろしている事に気づいて自ら手伝いを進み出てくれたようだ。

「手伝ってくれるの?ありがとー!それじゃあお言葉に甘えて持ってもらおうかしら」

「協力、痛み入りますわ」

 紗月と天音は彼女たちの言葉に笑顔で受け答えると、紗月から荷物を受け取り旅館のロビーまで歩いて運ぶ。

「よろしければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 左近は、歩く傍らで彼女たちの名前を聞き出そうとする。

「あ、ごめんなさい。そういえば自己紹介がまだでしたね。私は焔摩天支部第6小隊の野桜紫音のざくらしおんと申します。それで、こっちが私と同じ仲間の斉藤杏里です」

「杏里っす!短い間ですけど、みんなと楽しくやって行きたいと思ってますっ!」

『(野桜、紫音…。気のせいか、どこか聞き覚えのある名前。それにこの匂い、どこかで…?)』

「…カイム?」

 不可視化の状態のカイムが、紫音と名乗る女性に何かを感じ取る。隣を歩く天音はカイムのその異変に疑問を感じるも、これといって詮索はしないでいた。

「いやぁ、別の支部の人たちと合同で組むって聞いてどんな人が来るかと思ってましたけど、皆さん気さくそうな方たちでうれしいっす!」

「そうね。私たちも皆さんの足を引っ張らないようにしないと行けないわね!」

「それはお互い様だって!本当、優しそうな人たちがいて一安心よ。ねぇ、

「え、天音…って?」

 紗月の隣で話をしていた黒髪の女性が、天音の名を聞いた途端、何かを思い出したかのように表情を一変させると天音の方を振り向く。

「…?どうかされまして?」

「あなた、天音なの?」

 彼女は再度念を押すように天音に名前を確認をする。

「ええ、私が北御門天音ですが…どこかでお会いしたかしら?」

 天音の名前を確認すると、紫音は取り乱すように天音の顔を見つめる。

「まさか、こんなところで再会するなんて…夢にも思わなかったわ…!」

 すると、彼女は久しぶりの再会を果たしたかの様に瞳を潤わせながらも天音に微笑みかける。

「あなたは−−!!」

 紫音の言葉に、天音も彼女の事を思い出したようだが、その瞬間、天音は逆に険悪な表情に一変。次の瞬間。

「−−−!?」

「ちょっ!ちょっと、天音!?どうしたのよ、一体!」

 天音は彼女の頬を思いっきり叩いた。周囲にはバチンっと乾いた音が響き渡り、辺りは騒然とした。

「あ、天音…?」

「あなた…!よくもそのような顔で私の前に姿を見えることができましたわね!っ!」

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