4章 合同強化プログラム

第1話 Next Stage

 春の陽気が過ぎ去り、季節は夏へ移り変わろうとしていて、徐々に暑さを感じ始めて来た。

 それは九尾の化身との戦いから2週間ほどが経過したある日のこと。

 上層部から各小隊の隊長が召集され、緊急の報告会議が行われた。その内容とは、先日新たに見つかった新種として認定されたアヤカシ、赤紋種せきもんしゅの情報だった。

 その内容とは、以前、第7小隊の茂庭朝陽もにわあさひ片倉銀次かたくらぎんじが、前任の隊長である一文字綴いちもんじつづるから聞いた事と、ほとんど同じ様な内容だった。

 真意は定かではないにしろ、今までアヤカシが進化の過程で作り出したものだと考えられていた紋様もんようが、実は烙印らくいんであり何者かが手を下したモノであると分かると、それを聞いた者たちの大半が顔色を変えていた。

 そして報告会議が終わると、その内容は小隊のメンバーにも伝わり、情報は一気に拡散していった。


「聞いたか?赤紋種の話」

「烙印を付ける能力を持つアヤカシがいるって話だろ?まだ正体はわからないとか」

「嫌だなー、私たちの前には現れて欲しくないわぁ」

 そして、その内容は支部の中で一大記事として上げられ、どこへ行ってもその話で持ち切りだった。

「まさか、赤紋種の紋様は別の何者かに付けられた烙印だなんて、未だに信じられませんわ」

「ホント、さっきからその話題でどこも持ち切りよ」

 月影薙つきかげなぎが隊長を務める第4小隊の5人は支部の食堂に向かう途中だった。

 辺りの騒然とした状況に、天音あまね紗月さつきは先ほどの赤紋種の情報に釘付けだった。

「ちょっとアンタたち、さっきからやけに静かじゃない?」

「そうですかね…?周りが賑やかだからではないでしょうか。僕たちは至って普通ですよ…?」

 嘘を付くのが苦手な天真てんまは、表情に出さぬ様、必死になって紗月に隠し通そうとする。

「なんか怪しいわね。そういえば前に第7小隊の部屋の前にいた時もそんな態度だったような…」

「そうだったかなー。少し前のことだから記憶が曖昧だわ」

 紗月の隣を歩く左近さこんは、先ほど紗月の言葉に対して適当に流すような返事で誤魔化す。

「本当かしら…。そういえば知ってる?今回の件で、赤紋種が何て呼ばれてるのか。ですって。どこかでその言葉を聞いたことがあるんだけど、どうだったかしらね〜」

 紗月の言葉に左近は背中に電流が走ったように驚いた。左近は、前の九尾の化身との討伐任務の際、廃校舎で野営した時に、うっかり口が滑っていたのだ。

 と言う呼称は、先ほどの上層部の情報提示が起きたすぐの事で、という事から周りではそう呼ばれるようになったのだ。

 紗月は、左近が何故それ以前にそのような呼称で赤紋種を呼んでいたことに疑問の目を向ける。

「さ、さぁな〜。俺っちも初耳だなそりゃあ」

 まさか無意識の内に口に出していたことを紗月が覚えていたことに驚きを隠せなかった。

「絶対、何か隠してるわよね…まったく!」

 見え透いた嘘で通そうとする左近に、紗月は大きな溜め息をつくが、それ以上の追求はしなかった。

「薙?今夜は外壁区近辺での任務がありますけど、ブリーフィングと準備はいつ行いますの?」

 話の途中で、天音が午後からの予定を聞き出す。

「あっ、そうだった!烙印付きの話題ですっかり忘れてた。午後に支部長から呼び出されてたんだよ」

「そうなのですか?」

 天音の言葉に、薙は今まで忘れていた用事を思い出した。

「ああ、報告会議の終わり際に言われてたのをすっかり忘れてた」

「まったく。そんな重要なこと忘れないでよね!しかも任務の当日だって言うのに」

「悪い悪い…」

 少し前から、どうも上の空が抜けない薙に、紗月は呆れながら注意をする。

「それにしても、最近、支部長室に呼ばれることが多いように感じますね。次はどんな用件なんでしょうか?」

 支部長室に呼ばれるということは、つまり支部長や、アマテラス上層部などから直々に任務や依頼が来ることを意味し、それは普段の通常任務とは違い、重大なものから極秘任務などの依頼がある。一部では私用の頼み事をしてくる事もあるが、最近は上層部からも釘を打たれているようで支部長の千里せんりもむやみに頼み事をすることができないようになっている。

「まぁ、今までは天音の件があったし仕方なかったのもあるけどな。でも、今回呼ばれたのは俺たちだけでもなさそうなんだよ。報告会議が終わったあと、他の小隊長にも声を掛けてる姿もあったし」

「そうなのか?」

 それは先日の報告会議の終わったすぐのことだった。支部長の千里は、薙を含む一部の隊長に一人ずつ直接声をかけていたのだ。

「そういうことだから、すまないけど午後からは予定を空けといてくれ」

「まぁ、予定は入ってないからいいんだけど」

「分かりました!」

 偶然、隊のメンバーも予定はなかったようで、全員がそのことについて了承し、面会の時間まで、他愛のない時間を過ごした。


火天かてん支部第4小隊、月影薙と隊員4名、入ります」

「入ってくれ」

 支部長室の扉の前で薙が声を掛けると、支部長の千里の声が部屋の中から聞こえて来た。

「うむ、待っておったぞ!」

 支部長室に入ると、そこには支部長の千里が机に向かって薙たちのことを待っていた。

「千里さん。人を呼び出すなら、せめて部屋の片付けでもしたらどうなんですか?」

「すまんっ!だが、今はそうも言ってられないんだ。いや、むしろそこまで言ってくれるなら手伝ってほしいくらいなんだよぉ!頼むよぉ!」

「お断りします!」

 支部長室は以前に入った時と何ら変わりがないように見えるが、書類の束や灰皿の中のたばこの吸い殻がいつにも増して多くなっているような気がした。

 紗月に片付けをするように言われるが、そんな暇はないと千里は即答し、むしろ猫の手も借りたいと言わんばかりに切羽詰まった表情で、紗月に片付けを哀願する。

 千里が忙しい理由は定かではないが、今回呼ばれた理由が、それと関連しているのだろうかと思うと、嫌な予感しかしなかった。

「そういえばお前たち。話は上層部うえから聞いたが、またもや烙印付きと戦ったそうだな?内容を見たが、相当酷い目にあったようじゃないか?」

「いやいや。本当、生きてるのが不思議なくらいですよ」

「そうだったようだな。本当、大事なくて何よりだ」

 千里は挨拶次いでに、先日の烙印を付けた九尾の化身との戦闘を話題にあげる。

 それに関して薙は、実感がこもったように話しながら愛想笑いを返した。

せんちゃん。まさかそんな話しに俺たちを呼んだんじゃないだろ。それで用件は?」

 挨拶代わりの何気ない会話に、左近は本題に入るよう千里に促す。

「そうだったな、すまない。今回、お前たちを呼んだのは他でもない。近々行われる《大規模作戦》への参加について聞こうと思っていたんだ」

「大規模作戦、ですか…?」

 その言葉を聞いた途端、その場にいた全員が固唾かたずを呑んだ。

「なんなのだ?その大規模作戦とは?」

「知らないんですか?カイムさん」

 そんな中で唯一、神魔じんまであるカイムだけが何食わぬ顔をして周りに問いかける。

「うむ。名前からして大方の想像は付くがな…。一体何をするのだ?」

「意外だな。神魔でも分からないこともあるんだな」

「隊長殿…。神魔を何か全知全能の神とでも勘違いしてはおらぬか?いや、たしかに我ら神魔は人間から見れば特別な存在ではあるのは確かだが、知性はお主らとなんら変わりはないのだぞ。つまり、知らぬものは知らぬのだ」

 カイムは意外そうな顔で見つめる薙たちを見て、失礼だと言いたげな表情をしていた。

「カイムさん。大規模作戦とは、その名の通り、多くの小隊が集まって行う作戦のひとつで、各地の支部から集められた精鋭が一同に集まり、ひとつの作戦を遂行するんです!」

 天真はカイムの顔を向いて、得意気に大規模作戦について解説をする。

「大規模作戦と一括りで言っても、作戦の規模や形式、作戦を執り行う指揮官によって大きく内容は異なるんですけど、大規模と言うだけあって、どの作戦も目的は大きなものです!」

「まぁ、そうは言ってもやることはいつもと一緒で、大半はアヤカシの討伐なんだがな」

 天真の説明に薙が補足をいれる。

「そうなのか。それで、その大規模作戦とやらの内容はどのようなものなのだ?」

「そうだったな。今回行われるのは、アマテラスが総力を挙げて行う作戦のひとつ、《首都奪還作戦》だ」

「首都奪還作戦に、俺たちが…」

 その作戦名に、薙は驚きながら作戦名を小さく呟いた。

 首都奪還作戦とは、その名の通り、首都・東京をアヤカシの手から奪い返すための作戦である。

 今の東京は、アヤカシの発生原因である魔素まそを生み出していて、昼夜問わずアヤカシがひしめきあっている場所となっていて、立ち入り禁止区域および帰還困難区域に指定されている。そこはまさにゴーストタウンと言っても差し支えないだろう。

 そして、今回行われる首都奪還作戦とは、東京に巣食うアヤカシを一掃し、首都奪還を目指すものである。

「すごい!すごいじゃないですか!僕たち、こんな名誉ある作戦に選ばれたってことなんですか!」

「まぁ、そういうことだな。お前たちの活躍は上層部うえの連中の耳にも入っているからな。奴らもお前たちを高く評価しているようだぞ!」

 首都奪還作戦のみならず、多くの大規模作戦は、決して誰もが参加できるものではなく、それ相応の実力がなければ、作戦に呼ばれることはない。つまり、薙たちは実力を見込まれて参加する権利を得たのだ。

「それだけ我らの実力も認められたという訳か。我ながら胸が高鳴るな!」

「そうね!まさか大規模作戦の中でも首都奪還作戦に声が掛かるなんて、あたしたちもそこそこ力を付けて来たってことなのかしら?」

 それを聞いて、紗月やカイムは自分たちの実力が認められたように感じ、ささやかながら小さくよろこんだ。

「首都奪還…。ついにわたくしもお兄さまたちと同じ舞台に立てるのですね」

「どうしたんだ、天音?」

「いえ、何でもございませんわ…」

 そんな中、天音だけは自分に言い聞かせるような小さな声で何かを呟いた。

「この中では、薙と左近はこの作戦の経験者だったな」

「え?センパイたち、首都奪還作戦に参加されたことがあるんですか!?」

 千里から聞かされた言葉に、天真は初耳だったようで、薙に真偽を確かめる。

「まぁ、一応な。って言っても参加したのはもう4年も前の話だし、あの時は後方支援だったから、経験という程でもないんだけどな」

「そう謙遜けんそんすることもない。後方支援だろうと経験者には変わらないし、先ほども話したがそれ相応の実績のある部隊でなきゃ参加もできないのだぞ。況してやお前たちは当時、優秀な隊長の下とはいえ新米も新米だったんだからな」

 自らを謙遜する薙だが、千里はそれなりに薙と左近のことを評価をしている。それだけ、参加が難しいとされている作戦なのだ。

「んで、つまり俺たちにその作戦に参加しろと?」

 遠回しに話して来る千里に、左近は正面から話の本筋を聞き出そうとする。

「まぁ、参加してくれるならこっちとしても大助かりだ。だが、大規模作戦も他と同様に参加の可否かひはお前たちにある」

 アマテラスの請け負う任務は、緊急を要さないものでない限り、個人・部隊間での意志が尊重され、上から命令されて任務を受けることはない。それは大規模作戦であっても例外ではないのだ。

「うむ。だが、この作戦。我らにそれ相応の利益があるのか?安易に安請け合いしても失ってからじゃ遅いのだぞ。ここは慎重に考える必要があるのではないのか?」

 カイムは作戦の概要について、参加へのメリットを鑑みる。通常の任務と同様、小隊のレベルに似合わない作戦に参加しても、結果が出なければ元も子もなく、最悪、怪我では済まされないことも当然ながらある。カイムはそこを危惧きぐしているようだ。

「勿論、参加に当たってのメリットもある。とは言ってもほとんどが賞金や名誉といったものだがな。大規模作戦は、作戦の功績によって報酬額が増えていくし、一定の功績さえ上げることができれば最低補償額だがそれなりの報酬を受け取ることができる。その上、首都奪還作戦に参加したということ自体が名声となるから、依頼主や上層部からの信頼性にも直接繋がる。決して条件としては悪いものではない。まぁ、それを多大なリスクを負ってまで参加するかが肝なんだがな」

 支部を取り仕切る者である以上、千里は一人でも多くの参加者を募って行きたいのだが、それでも内容に関しては包み隠さず話をした。

「まぁ、話だけ聞けば良い事ずくめに聞こえるけどよ、実体を知ればひどいもんだ」

「そうなのか?」

 左近の話に、真相を知らないカイムは疑問を投げつける。

「首都奪還作戦も今回で8回目くらいか?それだけ毎度やって、首都を奪還できた試しがない。つまりそういうこと」

「うむ。つまりは何度やっても成果がなく終わっているということか」

「この作戦の主な目的は、首都に蔓延はびこるアヤカシの殲滅と、魔素まそを生み出していると言われている、怨妖ノ門おんようのもんの破壊なんですが…。先ほど左近さんが言ったとおり、例年、数えきれないほどのアヤカシの群れを倒すので精一杯で、怨妖ノ門のある首都の最深部に辿り着いたことはないんです」

 左近は苦笑気味に話し、天真はそれを補足するように解説していく。

「おまけに、時間が経てばアヤカシは増えて元通り。だれも口には出さないが、この作戦を無意味と思っている連中も少なくはない。それでいて、俺たちに払われる報酬金はすべて税金でまかなってるんだ。俺たちを英雄視する国民も多いが、その反面で俺たちを税金泥棒だと呼ぶ連中が増えるのも当然と言えば当然だ」

 左近と天真の話を聞いて、誰もが口を閉じ少しばかりの空白の時間が続いた。

 そんな空気の中、今まで黙っていた天音が口を開いた。

「薙…。いいえ、皆さん。これはわたくしのわがままなのですが。この作戦、私は参加を希望しますわ」

「天音…?でも、どうして?」

 天音は、この作戦に参加したいと申し出て来たのだ。

「首都奪還作戦…。この作戦には例年、お兄さまとお姉さまも参戦していると聞き及んでいますわ」

 それは、天音の兄の天龍てんりゅうと姉の奏音かなでのことだろう、と誰もが感じていた。

「そうだな。首都奪還作戦は全国から名を馳せた神威かむいが一同に集結する。何よりも実力のある神魔使いが先陣に立って指揮を取るんだ。最強の神魔使い“北御門きたみかど家の仁王門”なら、この作戦に参加していてもおかしくはないだろうな」

 天音の言葉に、千里が詳しく補足を入れる。神魔使いはアマテラスの戦力の要と言っても過言ではなく、今回の首都奪還作戦においては神魔使いなくして戦果を挙げることは不可能極まりない。

「今のわたくしなど、あの人たちの足元にも及ばないことは承知の上。ですが、あのふたりと同じ舞台に立てるということ。これが私の、唯一の心の拠り所なのです!」

「天音…」

「分かっていますわ。先ほども皆さんが申されたとおり、この作戦は、常に危険と隣り合わせで過酷なものだということくらいは。それを、私の一存で決めていいものではないのも…!」

 天音は、この作戦がどれほどリスクのあるものかを知った上で、自分がどれだけ身勝手な発言をしているのかも自覚はしていた。それでも、天音の中にある揺るぎない想いを抑えることはできなかった。

 その言葉に、一同はどう言葉を返せば良いべきか、少しばかり頭の中を整理しようとしている中、一呼吸置いて薙が口を開ける。

「天音。覚えているか?君がこの小隊に残るか迷っていた、あの時のこと」

「ええ。勿論、覚えていましてよ」

 薙が言っているのは、天音が入隊して間もない頃に引き受けた所沢での任務での一件だった。

 天音の単独行動が原因で、一度は除名を考えるほどにまで至ったが、薙の働きかけで天音は今もなお第4小隊に籍を置くことができている。

「俺は、もしも天音がこの小隊にいてくれるなら俺たちは全力で天音に協力すると約束した。まぁ、みんなに話さないで俺が勝手に決めたことなんだけどな」

 薙は、その時のことを思い出しながら言葉を紡ぐ。

「どうかな、みんな?この作戦、参加してみないか?勿論、今まで以上にリスクがあるし、危険が伴うのも分かっている。だけど、逆に考えればこれはチャンスなのかもしれない。俺たちの力を示すいい機会になると思うんだ」

「薙…!」

 作戦への参加にはそれなりのリスクが伴い、薙はそれも充分に考慮した。それでも薙は、天音の意志を第一に尊重し作戦への参加を持ちかけた。

「ふっ、何言ってんだよ。そんなことなら協力しない訳がないだろ!」

「勿論ですよ!僕もこの作戦はひとつの目標と思っていましたし、天音さんの頼みとあれば、なおのことです!」

 薙の頼みに、左近と天真は心良く受け入れる。両者とも作戦への参加には、自分自身の信念は持ち合わせているにしろ、決定打は天音の強い意志に動かされたものだろう。

「何よ、みんなして。どうしてそんなに張り切ってるんだか…。この前のこと、もう忘れた訳じゃないでしょうね?次はもっと酷い結果になるかもしれないのに、どうしてアンタたちはこうも危険な道を進もうとするかなぁ…」

「紗月…」

 最後に残った紗月だったが、やはり、前回の烙印付きとの戦闘が今でも脳裏に焼き付いているのか、リスクを考えるとどうしても判断が鈍ってしまう。

「もうあんな悲惨な経験は御免よ。誰かがいなくなるのも…。でもね、そんな話聞かされたらあたしだって後に引けないじゃないの!まったく、薙もいい加減な約束しちゃって」

「いやぁ、本当にすまなかった…。もっとみんなと話し合うべきだったな」

 紗月は、先日の九尾の化身との戦いの惨劇を思い出すと、やはり無謀だと思われる作戦には好んで参加したいとは言えない様子だった。それでも、同じ部隊の好みとして。そして、自分だけが怖じ気づいていては、部隊の足を引っ張りかねないと思うことろもあった。

「決まったようだな」

 部隊での意見が決まったことで、千里は大きくうなずいてみせ、そして更に話を続ける。

「そういえば今回から、作戦に参加する者を対象に3泊4日の『合同強化プログラム』なんてものもあるのだが、これにも参加してもらうことになっているが大丈夫か?」

「合同強化プログラム、ですか?」

 聞き覚えのない内容に、一同は疑問符を浮かべる。

「あぁ、今回から新たに加えられたものでな。首都奪還作戦に参加する奴らは、もれなくこっちへの参加も義務づけられている」

 千里は、手元の参加概要の書かれた用紙を見ながら適当に重要そうな部分を説明し、薙にそれを手渡す。

「この強化プログラムではお前たちを含めた4つの小隊が集まり、首都奪還に向けての訓練を共にしてもらう」

「へぇ、何だか合同合宿みたいで楽しそう!まぁ、作戦に向けての訓練ってのがどんなものなのかは考えたくもないけど…」

 内容だけを聞いた紗月は、一夏の学園ドラマみたいなことを想像するも、強化訓練であることを思い出すと一瞬にして落胆した。

「そして、ここからが本題なのだが。作戦当日には、これを一個中隊として運用し、共に動いてもらうことになる」

「中隊運用か…。今までとは大きく内容を変えて来たな」

 今までの変更内容に、左近は何やら難しい顔をする。左近は、元自衛官という肩書きもあり、部隊の運用などの心得もある。

 中隊規模での編成によって、様々な場面に適応することが可能になる一方で、部隊としての動きが制限されることにも繋がる。

 左近は、今回の変更内容には色々と考えることもあるようだ。

「つまり、首都奪還作戦までに、同じ仲間として共に行動・訓練を通して交友関係を深めて行けってことだな!それと、他支部の連中とも組むことにもなるが、これはこれで良い経験になるだろ!」

「他支部の小隊とか。そういえば、他の支部の部隊との交流って今までなかった気がするな」

 薙は、今までのことを思い出してみるも、他の支部と関わった機会が全然と言っていいほどなかったことに気か付いた。

「確かに他の支部の方との連携なんて、滅多にあることではありませんよね。でも、逆にこれは良い機会かもしれませんね!他支部との連携で、何か良いものが得られそうです!」

 新しい試みに、不安も残る部分も多いようだが、天真は、他の支部との交流に前向きな表情を見せる。

「詳しい内容は、紙面を確認してくれ。何か新しい情報が入れば追って報告する。他に質問がなければ以上になる」

 千里は、そう言って話を区切りを付けた。

 正直なところ、質問だらけではあったが、何やら急いでいるような様子もあり、長々と質問ができそうもなく、薙たちはそのまま引き下がった。

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