第13話 絶体絶命
「アヤカシの反応だと!?みんな、注意しろ!」
今回のターゲットであった九尾の化身を倒し、一息付く間もなく別のアヤカシが接近しているという報を聞いて、場に緊張が走る。
「ちっ、折角終わったと思ったのによ!お呼びじゃねぇんだよ」
「相手は一体!?どこから!?」
「むっ?この気配は…!?校舎の屋上だ!」
アヤカシの気配を瞬時に察知したカイムは、天音のインカムを通して全員に場所を伝える。
「九尾の化身…?いや、待てよ…」
「あれって、まさか」
「
突如として現れたアヤカシを目にした全員は凍り付いたように動けなかった。それは先ほど戦った九尾の化身と同型の種でありながら、右肩に赤い
『キエエエエエ!!!』
その九尾の化身は、先ほど倒した通常の
「そんなの聞いてないぞ…!でも、どうする…戦うか、逃げるか」
あまりにも予想外な展開に、隊長の
アヤカシの乱入自体は決して珍しいものでもなく、今までも何度かの経験があり対処してきたが、今回ばかりは話が別だった。赤紋種相手の対処などだれも経験がないのだから。
「薙!しゃんとしてください!聴こえていますの!?」
「−−−!す、すまない!」
考えがまとまらないでいた薙は思考停止に
「これからどうしますの!?相手もそこまで待ってはくれませんわよ!」
「分かってる!けど、一体どうすれば…逃げるか。いや、ダメだ。同型ですら振り切れないのを赤紋種なんてどうやって逃げればいいってんだ!」
決断を迫られるも、最良の答えが出ない状況に薙は苛立ちをみせる。
「薙、まずは陣形を整えるのが先だろ?それと、こんな状況だからこそ冷静になれよ」
「そ、そうだよな…悪い!みんな、陣形を整えるぞ!」
「了解!でも、これからどうするんですか?」
「まずは全員が生き残れる
薙は、全員に防衛に努めることを念頭に置いて行動をするように指示を出す。未知の敵である故に、深追いを避け、その間に打開策を探る作戦のようだ。
(使いたくはないがコイツを使うことも考える必要があるか…)
薙は腰に下げている
『キエエエエエエ!!』
「みんな、構えろ!」
薙の一声で全員が戦闘態勢にはいる。相手の動きに注意しながら、一握りの好機を見つけ出そうとする。
『キエエエ!』
九尾の化身は素早く
「やらせるかよ!行くぞ、天真!」
「はい!いくよ、
後方で構える左近と天真が、前線との距離を縮めさせないように九尾の化身へと
「クソが、さっきの奴よりも動きが速すぎる!まともに狙い撃てる相手じゃないか!?」
だが、烙印の付いた九尾の化身は、先ほどまでの原種とは桁違いな速さで攻撃をかわして来る。
左近は、前回の
「ぐっ!攻撃自体もさっきまでとは段違いか!?」
接近を許したことで、咄嗟に薙が
「カイム!狙い撃つわよ!」
「承知っ!」
天音は薙が交戦している隙に雷撃で九尾の化身を狙い撃つ。
『−−−!?』
天音の放つ攻撃に対して、九尾の化身は他の攻撃よりも即座に反応を見せて後ろに跳ねて回避行動を取る。
「これならどうかしら!」
天音は更に雷撃を扇状に放って行き、九尾の化身に追撃を行う。前足で地面を蹴って後方へと逃げようとした九尾の化身だったが、広範囲に広げられた雷をすべて避けることが出来ず直撃。空中でバランスを崩した九尾の化身は上手く着地をすることができずに、倒れ込むように地面に落ちた。
「大丈夫でして、薙?」
「ああ、助かったよ」
先ほどの雷撃で九尾の化身はよろめきを見せたが、急所を外したこともあってか、まだまだ立ち上がる余力は残っていた。
何とか時間を稼ぐこともでき、薙の体力も持ち直すことができた。
「お見事です、
「これくらい当然ですわ。前回はあの馬鹿猿軍団の手を借りましたが、私たちだけでも倒せることを証明させる良い機会でしてよ!」
今まで苦戦を強いられて来た相手に、一泡吹かせることができたことで、天音は機嫌の良い笑みを浮かべる。
「そうも言ってられないわよ!お陰で相手は相当お怒りのご様子よ」
「仕掛けて来るか…みんな、構えろ!」
一泡吹かせたのも束の間。再び第4小隊に緊張が走る。
『キエエエ!』
「
紗月が敵の動きを察知すると同時に、九尾の化身は新たに3つの殺生塵を生み出した。
これで、この場に存在する殺生塵は前に倒した九尾の化身が作り出したのを含めて6つとなり、行動が更に制限される。
「さっちゃん!倒した
「そんなの、あたしに聞かないでよ!まぁ、これは単なる憶測だけども、今いる赤紋種の方が能力を引き継いでいるから消えないんだと思うわ。何が起こるか分からないわ。気をつけなさい!」
「まぁ、やるしかないか…今回ばかしはマジで気合い入れねぇとな!」
普段の陽気な左近でさえ、今回はふざける余裕もないと言った様子だった。
「殺生塵には気をつけろ!」
(って言ってもこの状況、最悪だ…)
この不利な状況に、薙は苦渋の表情を見せる。
先ほど放たれた殺生塵は、前の原種が生み出した殺生塵とで第4小隊を挟む形で置かれた。これにより、退路を断たれてしまい、過度な移動が困難な状況に陥った。
「そんなに
「
先ほどまで薙を集中的に狙っていた九尾の化身は、狙いを変えて天音に爪を立てる。先ほどの天音の攻撃が堪えたのだろう。
「マズい!天音に攻撃が集中している!攻撃を集中させて天音から奴を引きはがすんだ!」
薙は、九尾の化身を天音から遠ざけようと各員に指示を仰ぐ。
九尾の化身は鋭い爪で接近戦を仕掛けて来る。天音は護身用とはいえ剣を構えていはいるが、あの重い攻撃を天音が受けきれるとは到底思えなかった。
「はぁ…はぁ…ずいぶんと手荒いですわね…!」
天音自身もそれは承知の上のようで、相手の攻撃が来るのを予測して雷撃を放ち、攻撃を阻止していく。
だが、九尾の化身から放たれる素早い攻撃に、天音は対応するのが精一杯のようで、大きく肩で呼吸をしている。
「お前の相手はこっちだ、化けギツネ!!」
『ギエエエ!!』
「−−−なに!?ぐあっ!」
「薙っ!?」
天音に攻撃が集中している隙に、薙は横から瞬時に接近し鉄丸で斬りつけようとした瞬間。九尾の化身はその攻撃を完全に読んでいたと言わんばかりに、天音に向けて振ろうとしていた攻撃を即座に薙に切り替えた。
「はぁ…間一髪だ…だけど、この状況は笑えないっての…」
薙は紙一重のところで攻撃に反応をしたものの、攻撃を防いだ衝撃で
(これ以上は無理か!致し方ないがアレに頼るしかないのか!?)
万策尽きた状況に薙は篭手の力を使うべきなのか咄嗟に考える。
篭手の力を使えば確実に九尾の化身は仕留めることはできるが、仲間が密集しているこの状態で発動させるとして、周りに被害が及ぶ確率が生じる。
以前、天音との対決で使った時は精神的にも安定していたためコントロールを安易だったが、息も荒れてパニックになっている状況では敵味方の区別すら難しくなってしまう。最悪、篭手を引き剥がすことを忘れて暴走してしまうこともあり得る。
この状況こそ、6年前の悲劇を繰り返してしまいかねない。
『キエエエエ!!』
「殺生塵が動いて…まさかあのアヤカシ、殺生塵を動かしてる!?皆さん、気をつけて!あのアヤカシは殺生塵を操っています!」
後方で状況を見ていた天真が、殺生塵が動いていることに気がついて、インカムで状況を伝える。
「何のこれしき!もう一泡吹かせて差し上げ…」
「
「え…?きゃあ!!」
天音が再度、攻撃に移ろうとしたその瞬間だった。天音の背後から黒々とした何かが身体を襲う。
「天音っ!!」
「これ…まさか…殺生塵…!?」
天音は、背後からゆっくりと動いていた殺生塵に触れてしまったのだ。
天真がはじめに異変に気づいて各員に注意を呼びかけたが、あまりにも急な出来事に対応が遅れてしまい、天音の背後まで迫っていた殺生塵に気を向ける余裕など誰にもなかった。
「なに、これ…身体が…苦しい…!」
殺生塵の浴びた天音は、膝から崩れるように地面に倒れた。
殺生塵には浴びた者の体力を一定時間奪う効果があり、天音は身体を動かすことすら困難な状況だった。
『グルルル!』
「ぐっ…うああああああああ!!!」
「天音!こっ…この野郎!!」
殺生塵の効果によって身動きが取れない天音に対して、九尾の化身は、今までの恨みを晴らすかの如く、天音を前足で踏みにじる。
「野郎っ!そこをどきやがれ!」
それを見た左近は、怒りに任せるように一心不乱に手にした短機関銃を放つ。
「クソが!狙いが定まらねぇ!」
だが、九尾の化身は左近の攻撃を察知すると、近くにある殺生塵を動かして左近にぶつけようとする。そのため、殺生塵が邪魔をして狙い撃つことも近くによることも叶わない。
『ク、キャキャキャ!』
「くぅ…!い…痛い…っ…嫌ぁ…!」
九尾の化身は、天音の身体を弄ぶかのように前足で踏んでは転がして愉悦に笑うような高い声を上げる。
力が入らず、一方的にいたぶられている天音は、酷く苦しそうに言葉を漏らす。
「化けギツネね…!主から離れるのだ!」
そのためカイムは、ただ天音の隣で大きく吠えることしかできないでいた。
「こ…このままじゃ…天音…」
天音の悲痛な姿を目の当たりにした途端、薙の脳裏にふと過去の出来事が一瞬にして映し出された。
それは、6年前。この場所で起きたあの事件のことだった。
『薙…兄さん…最期に逢えて…よか…た…』
『逃げろ…薙…!お前だけは…生きて…くれ…』
『薙よ。
『僕を…殺して…薙…』
「うっ…うあああああああああ!!!」
突如してフラッシュバックされた悲惨な過去の記憶に、薙は怯えるかのような悲痛な叫び声を上げていた。
「な、薙…先輩…?」
その叫び声を聞いた天真は、一体何が起こっているのか整理が付かず、驚いて身動きを取れない。
「殺す…てめぇだけは…!命に代えてでも、殺してやるっ!!!」
「止せ、薙!そんな状態でそれを使えば、お前もどうなるか!!」
薙が怒りに身を任せて篭手を手にした瞬間、左近は大声で薙に篭手の使用を止めさせようとする。
だが、左近の声は薙の耳には届かなかった。
薙は左手に持った邪鬼の篭手を右の前腕に取り付けると、篭手はまるで生きているかの様に腕に巻き付いていく。
『
篭手を装着した薙の眼は充血しているかのように赤く、強張った身体からは人から発せられることのない尋常ならざるオーラを
『−−−グルルル!!??』
変貌した薙の姿を見た九尾の化身は、天音を嬲(なぶ)っていた手を止め、驚いたような表情を見せる。
「な…薙…?」
「『グオオオオオオオオオオオ!!!!』」
薙は、今まで聞いたことのないような叫び声を上げる。それはまさに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます