第11話 合流

「よっ、おふたりさん。仲良く散歩かい?」

 なぎと天音が霊園から帰って来ると、薙の家の前には1台の見慣れた軍用車両が停まっていた。

「まぁそんなもんかな。それにしても予定よりもずいぶんと早かったな、左近」

 その車両は今日、合流する手筈てはずだった第4小隊のもので、運転席からは左近が顔を覗かせていた。

「まぁな。俺たちもさっき着いたところで、今さっちゃんに挨拶に行ってもらってる」

「あっ!薙センパイに天音さん!」

 そして左近の後ろの後部座席からは天真が窓から顔を出して大きく手を振っていた。普段と変わらない元気そうな天真の顔を見た薙は、挨拶代わりに小さく手を上げて合図だけを送ると、左近の方に再び目を向ける。

「そうだったのか。悪かったな、ちょうど出ていて」

「気にすんな。それで、墓参りの帰りってことは…天音ちゃんにも話したのか?」

 薙が手に持っていた道具に気づくと、左近は事の状況をうかがった。

「あぁ、一先ひとまず話せることは全部な」

 だが、薙は一言返事を返すだけで、それ以上のことは何も言わなかった。

「やっ、天音ちゃん。どうだったかい、薙の家は?」

 薙との話が終わった途端、左近は薙の隣にいた天音に目を向ける。

「ええ、とても良くしてもらいましたわ。本来の目的は残念ながら聞けませんでしたが、それ以上のおもてなしをしていただきましたわ」

「そっか。まぁいい息抜きになったんならよかったよ」

 言葉ではそう言っているが、天音のうれしそうな表情を見て、左近はそれ以上の詮索せんさくはせず、そのまま話は終わった。

「お待たせしてしまい申し訳ございません!ささ、お車を停めて中にお入りになってください」

 そんな他愛ない話をしていると、家の中から刀華とうかがやって来て全員を部屋まで案内した。

「それじゃ、少し休憩したら作戦の最終確認をして準備をしよう」

「賛成〜。さすがにあたしも疲れちゃった」

「何言ってんだよぉ!さっちゃんってば、俺っちに全部運転任せて後ろでくつろいでただけじゃないか」

「ふ〜ん。そんなに言うなら、あたしに運転代わってもよかったのよ?」

「冗談止してくれよ…さっちゃんの運転なら今頃、がけの下だっての」

「ははは…」

 紗月と左近と天真は、いつもの他愛のない笑い話をしながら刀華の後案内される先に歩いて行く。

「あっ」

 すると、物陰の間から和服姿の小さな女の子がぴょこっと顔を出していて、天真はその女の子と一瞬目が合い、その場で立ち止まる。

「えっと…お邪魔します…」

 急だったこともあり、どう言葉を返すべきか迷った天真は、その女の子に小さく会釈えしゃくだけを返した。

「どうかしたか?天真」

「い、いえ。先ほど小さな女の子が顔を出していたので。あの子ってたしかセンパイの妹さんでしたか?」

「あぁ、鋭羅えいらか。あいつ、いつもは人懐っこいんだけど、大勢で来られると急に人見知りになるんだよな」

「そうなんですね…」

「ほら、天真も入りな」

 薙に誘われるがまま、天真も中に入る。


「本日はわたくしどものわがままの為に、ご足労いただきありがとうございます。こちらの部屋は自由に使ってもらって構いません。それと、私たちは別室にて待機しておりますので、何かございましたら何なりとお申し付けくださいませ」

 和室の大部屋に案内されると、刀華が丁寧にあいさつをして部屋を後にした。

「本当、いつ来てもデケェ家だよなぁ」

 左近は用意されたお茶請ちゃうけの三色団子に手を出しながら、だらしなく座卓ざたくひじをついて座る。

「左近さんの適応力もさすがですね。センパイの家に来たのも今回で2回目ですが、これだけ広いとなんだか緊張してしまいますよ」

 反対に天真は部屋に入ってからはいつもよりもそわそわとした様子で部屋を眺めている。

「まぁ知らない人のお宅でもないんだし、適当にくつろげばいいんじゃないの?」

清々すがすがしいほどにくつろいでるお前ら見てると無性にイラついてくるのは何故なんだろうな。でも、ここまで荷物積んで来てくれたことを考えれば何もいえないけど」

 家主である薙も、わざわざ苦労をして来てくれた左近と紗月をないがしろにすることもできず、図々しく横たわるふたりにはそれ以上何も言わなかった。

「まぁいいか。適当にくつろいだら作戦の確認だけして準備するぞ」

 久しぶりの賑やかなメンバーに、薙はやれやれと呆れながらも近くに座ってくつろぐ。


「作戦会議は前に支部でやったから作戦内容は省くけど大丈夫か?」

「ああ、手筈通りな」

「大丈夫です、問題ありません!」

 薙の言葉に各々が適当に返答すると、薙はスムーズに次の行程に進む。

「よし。それじゃあ、それぞれのポジションだけど、俺と天音が最前線で戦う。九尾の化身は動きが素早い分、相手の攻撃にも対応が難しいから、無理な攻撃はしなくていい。隙ができたと思ったら、合図を出して攻撃に移ってくれ。タイミングは天音に任せるよ」

「承知致しましたわ」

「攻撃の合図なんて、あの子に任せていいの?ただでさえ、相手は素早いのに」

 薙の作戦について、紗月が不安な顔で質問をする。

「まぁ心配じゃないって言えば嘘になるけど、天音も充分成長したし、周りに合わせてくれるようにもなっている。むしろ今度は俺たちが天音を信じる番だと思っている」

「薙…」

 薙の言葉に、天音は嬉しそうに微笑む。自分が仲間として信頼されたことへの嬉しさがこぼれ出ていた。

「うむ。我も全力でお主らの期待に応えようぞ」

 天音の神魔じんま、カイムも主の期待に応えようと意気揚々と名乗りを上げる。

「中衛は天真と左近で、俺たち前衛のサポートを頼む。相手の動きに対して牽制けんせいをかけて攻撃の隙を作らせないように動いてくれ」

「了解」

「了解です!」

 左近は普段通りの軽い調子で。天真は不安を残しつつも気合いだけは充分と言った調子で返事を返す。

「紗月は後方で偵察と指示を。万が一作戦に支障が出た時に備えて、動ける準備もしておいてくれ」

「わかったわ。任せなさい」

 紗月は特に変わったこともなく、いつも通りの返事で返す。

「それじゃあ手筈通りに。各自、準備をしたら出発しよう」


 時刻はこれから日が落ちはじめようとする頃。

「おい、薙?そういや天気見たか?夜から明日の早朝にかけて雨だってよ」

「この時間だと戦闘が長引くと打たれるか…」

 薙は左近の携帯端末を覗いて天気予報を眺める。

「以前は雨上がりで天音ちゃんに助けられたけどよ。雨の降る中じゃ俺らも巻き添え喰らいかねないな」

「焼け死ぬのだけは回避したいしな。早いとこケリがつけばいいんだけど」

「お望みなら、今ここで丸焼きにしてあげてもよろしいのですわよ?」

「ははは…冗談だって。なぁ左近?」

 軽い冗談を話していると、後ろから冗談には聞こえないトーンで天音が手から火花を出して立っていた。

 そんな他愛のない話で盛り上がりながら、第4小隊は軍用車両に乗り込み作戦目標に移動をする。

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