3章 過去
第1話 赤紋種
赤い
アマテラスの上層部から緊急の招集がすべての隊に出され、任務に出ていないすべての隊員が支部内にある大講堂に集められた。
その発表の内容というのが、以前に第4小隊の隊長、
「もうすでに噂にはなっていると思うが、先日我が支部の第4小隊が率いる共闘部隊が、新種のアヤカシの討伐に成功した」
広々とした大講堂のステージには上層部を代表して支部長の
「「おお!」」
千里の言葉で、講堂内で小さな歓声が響いた。それと同時に周りからの視線が一気に薙たち第4小隊の方に向く。
大講堂には100人以上もの関係者が話を聞いている中で名指しをされては周りからの視線もそれほどのものだ。
「わざわざ名指ししなくてもいいだろ…」
「いいではありませんの。功績を上げて目立てるのですから、名声が上がることに何の不満がありますの?」
「極力目立ちたくないんだよ、俺は…」
目立ちたくない薙は、肩を低くして目立たないように静かに座って、周りの声を聴かない様にじっと前を向く。
「聞いたか?第4小隊だってよ」
「あの
「流石は英雄の子ってだけはあるな」
「たしか少し前に
周りの声を聴かないように、とは言っても聴こえてくるものは、英雄・月影剣の息子という話題と、神魔使いの天音が入隊したという内容が大きく聞こえる。
「ひゅ~。月影くん大人気じゃないの」
「
後方の席に座っている左近が、おだてるように薙に冗談を言うも、当の薙は心底不機嫌な顔で、さらに肩を縮めながら座る。
「先の戦闘で彼らが記した記録を基に、上層部には全力で赤い紋様のアヤカシの調査を行ってもらっている」
千里が言っていた記録というのは、後方で偵察をしていた紗月が戦闘中に記録をして残していた画像データ諸々と、薙と朝陽が記した報告書のことだろう。
3年前に薙と左近が出くわした新種に関して、報告書はあったものの、証拠となる写真や動画といったデータがなかったことから広まることはなかった。だが、今回紗月が残してくれた画像データによって、明確な証拠がつかめた。
「今回、現れたアヤカシを上層部では新種のアヤカシとして断定した。そこで我々はあの赤い紋様付きを今後、
千里から赤紋種という名が上げられたと同時に千里の後ろのスクリーンに大きく特徴となる赤い紋様が映し出される。初めて目の当たりにした隊員の多くからどよめきが起きる。
「この赤紋種だが、先ほども言った通り、現時点で話せる内容は少なく、我々も調査を進めているところだ。今わかる範囲での詳細は、この報告会議が終わり次第、各隊長宛にメールを送るため必ず確認してくれ。以上だ」
そう言って、今回の報告会議は終了した。
「赤紋種か…」
「分かっていたことだけど、話題はこれで持ちきりだな」
先ほどのブリーフィングから、支部内では赤紋種の話題で持ちきりだった。
「さっきの映像見たか?あんなの倒せる気がしねえよ」
「もしあれに遭遇したらどうしよう。逃げれるのかしら?」
「ねえ。赤紋種と戦ってどうだったの?やっぱり強かったの?」
「待てって!そんなに一気には答えられない!」
支部にある大広間に集まった薙たち5人だったが、そこでは赤紋種に対して不安に感じている声がよく聞こえる。中には実際に戦った薙に質問をしてくる者もいた。
「今日はどこの番組をつけてもこの話題ばかりね」
今回の発表は火天支部だけではなく、全国にある支部でも情報は共有され、ニュースや情報サイトといったメディアでも正式に公表が行われていた。
「それにしてに、あれ以来、全国的に赤紋種の出現が確認されているのですわね」
「発生源はおろか、出現するタイミングも掴めぬ。神出鬼没とはよく言ったものだ」
「私たちの時だって、元はといえば別の任務の時に偶然出くわしてしまった訳だし。軽い任務だからって、おちおち油断できないわね」
ニュースの内容を目で追いながら、紗月たちも首を傾げる。
実際のところ、あの蒼鬼を討伐して以降、全国でも数件ほどの目撃例がでてきたようだが、すべてが任務外で偶然出くわしたというものである。
しかも、その相手が三個小隊で共闘してやっとの思いで倒せる相手となっては、今後の任務にも多少のリスクが伴うことにもなる。
「これからもあんなヤバいのを相手にしなきゃいけないってことかよ。あんな相手、もう御免だぜ…」
「まぁ、
「そうだな…」
第4小隊の前の隊長、
「だけど、赤紋種の行動パターンや弱点なんかが今回の戦闘で分かっただけでも充分な戦果だったじゃない。そこまで落ち込まなくてもいいんじゃないの?」
「そりゃあ、そうだけど…」
本来の目的は果たせなかったが、赤紋種のデータは充分なほどに手に入れることはできた。
「たしかに、これで前よりは格段に戦いやすくなったというものだろう」
「でしょ~!わかってくれるのはカイムちゃんだけだよ~♪」
「むう…」
紗月は、理解してくれたカイムの身体を愛でるように揉みしだき、当のカイムは嫌そうな顔をするも黙って紗月に全身を揉まれていた。
「だからと言って油断はできたものではありませんわよ!たまたま運がよかっただけで、あのような攻撃を何度も受けていては命が何個あったって足りませんわ」
「へえ、意外だわ。無鉄砲な天音からそんな言葉が出るなんてね。何か悪いものでも食べたのかしら?」
「ふんっ、余計なお世話ですわ!」
天音の意外な発言に、紗月は驚くように食いついた。たしかに、今までの天音では考えられないような言葉だった。
「とは言ってもまだまだ情報は足らない。赤紋種との戦闘は今後もあるかもしれないし、最新の情報はしっかりチェックして対策は万全にしておこう」
「そうですね。やれることはなんでもやりましょう!」
一先ずは、赤紋種との話題も落ち着いて、いつもの日常が戻ろうとしていた。
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