第13話 黒き影

「ほう…あの傀儡くぐつを倒すとは。お前の言う通り、それなりの実力はあるようではないか?」

 それはなぎが率いる共闘部隊が、赤い紋様を付けた蒼鬼そうきの討伐任務を行っていた時のことだった。

 薙たちが蒼鬼と戦っている同じ現場にもう一人、黒い影がその光景を眺めていた。それは、戦闘が行われているエリアから目視で確認できるギリギリの場所にあるビルの屋上でポツンと立っていた。

「そりゃそうさ。なんたって薙は僕のたった一人の親友でありヒーローなんだから」

 その黒い影は、まるで腹話術のようにふたつの声色を変えながら独り言のように話をしていた。

 一つの人格は、まだ幼さが残っている青年で、薙に対して何か想うところがある様子。もう一方は気品のある口調で少し歳のいった女性のような面持ちがある。

「お主。あの人間とは一体どんな関係だったのだ?」

 女性の声の方が、青年の方に対して質問をする。傍から見ると、あたかも独り言を言っているように見えて、余計不気味に見えてしまう。

「僕と薙の関係?そうだな…」

幻影げんえい様、お話し中のところ申し訳ございません。ご帰還の準備が整いました」

 青年の声の方が喋ろうとした途端、上空から黒い翼を広げた影が頭と体を低く下げて、帰還の報告にやってきた。

「ふむ、話はまた今度だ。あの薙という男、私も興味が湧いてきた」

 幻影と言う二つの人格を持つ者は、そこで話を切り上げ、黒い影の言うとおりに帰還に移った。

「ああ、薙。もう一度僕の前に戻って来てくれないだろうか」

「焦るな。まだ機は熟しておらぬ。時が来れば我が力で奴をお前のものにしてやろう」

 青年の声は以前に薙と関係があるような口ぶりだ。

「屋敷に戻るとしよう。今宵の余興。満足であった」

「薙…君はいつだって僕の味方でいてくれた。次も僕のために尽くしてくれ」

 黒い影は蒼鬼が討たれたのを確認して、更に奥深くの闇へと消えていった。

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