第12話 決着

「終わりましたの…?」

「俺たちが勝った…のか?」

 なぎの強力な一撃を胸元に浴び、蒼鬼そうきの動きが止まる。

 再び動き出すかもしれない不安に、皆の緊張は解けることはなく、誰もが息をのむ。

「蒼鬼の反応、消滅。みんなお疲れ様!」

 遠方からアヤカシの反応を眺めていた紗月さつきから、蒼鬼の反応が消滅がしたことが確認された。

 それと同時に、息絶えた蒼鬼の身体は灰へと帰していく。

「やったぁ!僕たちの勝利ですね!」

「はあ…何とかなったぜ…」

 倒したことを確信した途端、天真てんまは疲れを忘れて喜び、一方の左近は何とかいった事への安堵で力が抜けたように脱力する。

「やりましたね!銀次センパイ、鈴蘭すずらんさん♪」

「ベタベタくっつくな、チビ助」

「うん。お疲れ様」

 第7小隊の可凛かりんは、勝利の喜びを分かち合うように、近くにいた同じ部隊の銀次と鈴蘭に擦り寄る。

 絶望的な状況からの勝利に、誰もが喜んでお互いを励ましあう。


「立てまして?」

「ありがとう天音あまね

 全身全霊の一撃にすべてを出し過ぎてしまい、身体が思うようにいかずふらついていた薙に、天音は近くへ寄って来て手を差し伸べる。

 篭手の能力を使うには至らなかったものの、終始緊迫した状況下での戦闘と指揮で疲労は限界に達していた。

「手強い相手だったが、よくやったな隊長殿!」

「ああ。でもこれはみんなの協力あっての勝利さ」

 天音の隣を歩く神魔じんまのカイムからも倒したことへの励ましをもらう。

 絶対的な力を持つ神魔から面と向かって褒められるのは、これはこれでこそばゆい感じだった。

「ところで、朝陽あさひは…?」

 薙は、最後に無茶を通した朝陽の生存を確認する。

「あ、あいつは…」

「え…?」

 朝陽の名前を出した途端、天音は急に重苦しい雰囲気に変わる。その空気を悟った薙は驚きを隠せない表情を見せる。

「おい!脳筋女、俺を勝手に殺すな!」

 その瞬間、砂煙の向こうから聞きなれた声が響いた。

「あら?生きてましたの。あれだけ派手に投げ飛ばされてましたから、てっきり逝ってしまったのかと思いましたわ」

「ったく、本当に気に入らねえ女だ」

 天音の冗談に朝陽はツッコミをいれる程度には問題なかった。だが、全身の至る所に生傷が見える。

「まったく、無茶するな」

「はっ!どうって事もねえよ。こんなの無茶のひとつにも入らねえ!」

 朝陽はそう言って得意げに笑って見せる。

「いい加減自覚しろ、馬鹿が。お前の無茶で振り回されるこっちの身にもなれ」

 心配して来たのかは定かではないが、銀次も朝陽に合流してきた。

「わかってるっての。でも、アイツは無茶を承知でこじ開けねえと倒せなかっただろ?」

「ふん…もっと効率のいい戦い方もできたはずだ。まあ、それはお前の石頭じゃわからんか」

「ったく、素直じゃねえな」

「黙れ」

 同じ隊でありながら素直になれない銀次は、朝陽に対していつもの辛辣な言葉で誤魔化す。

「薙せんぱ~い!」

 戦いの余韻よいんに浸っていると奥から、後方で頑張ってくれた天真と紗月も合流してきた。

「お疲れ、天真。いい動きだったぞ。式神の制御もよくできていた」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 いつもは真剣な天真も、隊長の薙からの言葉にまるで子供のようよろこぶ。

「みんな、なんとか無事みたいね。怪我の調子はどう?」

「心配ご無用。と言いたいところですけど、さすがに疲れましたわぁ」

「なに言ってるのよ。帰るまでが任務なんだから、さっさと帰る準備をする!」

「まったく、人使いが荒いのですから」

 戦いに疲れた天音に対して、紗月は帰還の準備に取り掛かるように言うついでに、補給用に持ってきていた飲料水のボトルを渡す。

「お疲れさん、相棒」

 すると遅れて左近も薙に合流した。

「何とかなったよ。これも左近のお陰だ」

「俺っちの功績じゃねえよ。たまたま試してみてそれが効いただけ。まあ勝てたのには変わりないか」

「…」

 薙も喜びたい気持ちもあったが、敵討かたきうちという名目が頭に残って素直に喜ぶことができなかった。

「何しけた面してんだよ薙助。お前の気持ちも分からんでもないけど、今ぐらいは素直に喜ぼうぜ」

 薙の考え込んだ表情に、左近は悟ったようにフォローをいれる。

「ああ、そうだな」


「ご苦労様。月影つきかげくん、茂庭もにわくん」

 最後に遅れて、八雲が薙と朝陽を呼んだ。

「協力ありがとうございました。お陰でなんとか倒すことができました」

「例には及ばないよ。僕は言葉通りただ協力しただけに過ぎないさ。今回頑張ったのは作戦指揮をしてくれた月影くんと、体を張って戦った茂庭くん、両隊長の頑張りあってのものだ」

「やったな月影!俺たち、皇威おういに認められたってことだろ!」

「そうだな」

 憧れの皇威である八雲に褒められた朝陽は怪我のことすら忘れるほどに嬉しそうにはしゃぐ。

「だけども、まだ2人の行動には荒削りなところが多い。ひとつの無謀が大きな損害に繋がることもあるってことを忘れないでほしい」

 あまりに的を得た指摘に、いつもは面倒そうに流す朝陽も今回ばかりは真面目に話を聞いていた。

「話は終わり。さあ、撤収の準備をしようか」

 簡潔に話を終わらせ、八雲は撤収を急がせた。


 その後はすぐさま撤収を行い、支部に着いたのは太陽が昇った後だった。

 薙と朝陽以外は支部に着くと早々に解散したが、2人は残って報告書を作って支部長へ提出をしに行く仕事が残っていた。

「お疲れさん」

「サンキュ」

 一仕事終えた2人は支部の屋上にやって来て、気持ちの良い朝の陽気を浴びて眠気を誤魔化す。

 薙は、朝陽に協力してくれた礼に缶コーヒーを手渡した。

「あいつら。俺を置いて先に帰りやがって」

「悪かったな。わざわざ報告書まで付き合わせて」

 報告書の提出は普段ならば翌日以降でも問題ないものだが、今回の場合は相手が相手なだけあって支部側も早急に報告書が欲しいということで、寝る間も惜しんで取り掛かった。

「気にすんなよ。むしろ俺の分まで手伝ってもらったんだから礼を言うのはこっちの方だ。ったく、任務の時よりも疲れたぜ」

 デスクワークが苦手な朝陽は、結局、先に終わらせた薙に手伝ってもらっていたのが現実だ。

「それにしても手強い相手だったな。あいつらの前では余裕こいてたけど、内心ヤバかったぜ」

「弱点はあるにしろ、相手にしたくないのだけは確かだな」

 屋上からの景色を望みながらコーヒーを口にして昨夜の戦いを振り返る。

「また俺たちの前に現れてくるんだろうか…」

 薙は今回の遭遇と、三年前の事件に関係があるのではと思って黙り込む。

「はっ!何度だってぶっ飛ばしてやるだけだ!前にも言ったが、この件、敷島しきしま隊長と関係があるんだろ?そういうことなら俺は全力で協力してやる」

 最大のライバルである前に、一人の仲間として朝陽は、これからも薙に協力することを表明した。

「ああ、その時はよろしく頼む」

「おうよ!」

 2人は手に持った缶コーヒーを一気に飲み干して、お互い休養に入ることにした。

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