第9話 縺れる糸
次の日の夜。二日目の作戦が始まる。
今回は昨夜の場所からさほど距離は遠くない、廃ビル群が立ち並ぶ場所が戦いの舞台になる。
付近は静寂に包まれていて、何処と無く不気味な雰囲気の
「敵影確認。そっちに位置情報を送るわ」
「みんな、準備は大丈夫か?」
「俺っちはいつでもいいぜ」
左近は今回、いつもの狙撃銃ではなく小型の短機関銃を両手に構えて前線で待機をしている。昨夜の教訓から、動きが速く狙うのが難しい相手ならいっその事、前線で敵を迎え撃つ方が得策だと考えた。
「準備はよくてよ」
「こっちも大丈夫です!」
天音と天真も作戦の準備が整ったらしい。天真は昨夜と同じ作戦通り、地上から
天音には今回、薙と一緒に先陣を切ってもらうことにした。昨夜の戦いでは天音も嫌々ながら指示を聞いて行動してくれる一面もあったし、やる気はありそうだったのを感じ、少し自由に動ける場を設けることにした。
「一緒に行動するとは言いましたが、あまり近くでウロウロしないでくださるかしら?丸焦げなっても知りませんわよ」
「手厳しいなぁ。わかったけど、勝手に突出してデカい花火なんて打ち上げないでくれよ」
今回の作戦場所は廃墟になった建物が多く、特に足場が
「月が隠れたか?これは早いとこ片付けないと一雨来るか」
これから作戦だと言うのに、左近は能天気に雨の心配をしている。
「それなら好都合ではなくて?雷でも落として差しあげれば一瞬で済みますわよ」
「それ、俺たちの生存は視野に置いてないだろ…」
訳の分からない天音の発言に、やめてくれと言いたげな顔で薙は頭を抱える。
邪猿は昨日の今日ということもあって、いつも以上に警戒をしているようにもみえる。邪猿は縄張り意識が他のアヤカシに比べて強いため、無駄に警戒しているのが厄介なのだ。
「外に出てきたわ!」
紗月は邪猿が廃ビルから外に出てくるのを確認したのを全員に伝える。
「了解。任務開始だ!」
薙の一声と同時に天真の放つ式神の影狐が地面を走ってターゲットに近づく。
『ギャアアア!』
こっちの動きを察知した邪猿は大声をあげて、付近の下級アヤカシを呼び寄せる。
「
付近で待ち構えていた左近が両手に構えた短機関銃を下級のアヤカシ目がけて派手に撃ち鳴らす。
「続きます!」
左近の攻撃に目が行っている間に、天真はさらに式神を召喚して応戦する。
「天音、行くぞ!」
「わざわざ言われるまでもありませんわ!」
下級アヤカシの数が減ったところで、薙と天音も続いて前に出る。狙うは親玉の邪猿のみ。
『ギャアアアアアアッ!』
退路を塞がれた邪猿は大声で
「遅いっ!」
むやみやたらに振りかざす邪猿の攻撃だが、薙は両手に構えた
「こちらのことを忘れてもらっては困りますわよ!」
薙が交戦している隙に天音の鋭い攻撃を邪猿にお見舞いする。
『キーッ!』
「なっ!?」
だが、邪猿は天音の攻撃が来ることを察知して、大きく後ろに下がり攻撃を避ける。
『ケヒャヒャヒャー!』
まるで、掛かって来いと言わんばかりの動きと奇声をあげて邪猿は薙と天音を見下す。典型的な挑発行為だった。
「なっ!?何ですのあの憎たらしい表情!」
「落ち着け天音、ただの挑発だ」
「落ち着けですって!?
「待って!あいつの背後に中型クラスのアヤカシの姿が数体」
「知ったことですか!そんなの一緒に蹴散らすだけですわ!」
紗月が察知した情報を無視するかのように天音は邪猿の後を追う。
「あらら、短気なお姫様だこと」
「あんたね、待てって言ってんのが聞こえないの!」
「仕方ない、後を追うぞ」
愚痴を言っていても
『グルルル…』
天音が単身で突撃した先には、邪猿の従える下級アヤカシに加え、中型クラスの鬼型のアヤカシが数体ほど待ち構える。
場所は先ほどの廃ビル群より少し離れた場所にある平地で、高い建物が少なく視界もいい。そのため奇襲が来ようとも対処がしやすく、天音に対して絶好な環境だった。
「邪魔をするならどうなっても知りませんわよ。カイム!」
「承知!」
まだ薙達が来ていないことを確認した上で、天音はカイムに命令し攻撃を仕掛ける。
『−−−!?』
戦いの行方は一瞬のうちに片がついた。上空から降り注いだ無数の雷はアヤカシの体を貫き、近辺にいたアヤカシすべてを焼き尽くした。
「まったく、相手になりませんわ」
通常の
「天音っ!下だ!」
後を追って走ってきた薙は、息を切らしながら天音に大声で叫んでいる。
「地面の下だ!まだ残っている!」
「えっ?」
薙が天音に注意を向けるも反応よりもアヤカシの奇襲の方が早かった。
天音がいるすぐ近くの地面が突如として盛り上がり、虫型のアヤカシが天音を目がけて勢い良く飛び出してきた。
「−−−ぐっ!」
途端、薙は天音を突き飛ばした。天音を狙っていたアヤカシの攻撃は、天音を突き飛ばした薙に直撃する。
猿鬼は完全にこちらの動きを読んでいたのだ。後を追って来たところを挟み撃ちする相手の策にまんまとはめられてしまった。
「くそがっ!」
右腕に噛み付いたアヤカシを薙は左腕に持っていたハンドガンでアヤカシを零距離で撃ち抜く。
「あっ…」
その光景を見た天音は小さな声を漏らして立ち尽くす。
「先輩!大丈夫ですか!?」
「薙助!」
薙の方向に向かって心配そうな顔をした天真と左近が近寄って来る。
「嘘…?」
「あんたねぇ!」
遠くで偵察していた紗月が走って天音の元に来て胸ぐらを掴む。
「この状況がどういうことか分かってるの!?あんたが命令を無視して勝手に動くからこうなったのよ!」
紗月は恐ろしく険悪な表情で天音に問いただす。
「…」
「そのくらいにしろ紗月、もういいんだ…」
何も言い返せないでいる天音は、紗月に顔を背け何も言わないで立ち尽くす。紗月も今までの鬱憤を晴らすかのように、薙に止められるも天音に強く言い続ける。
「何が
「何ですって…あなたっ!
紗月の発言に対して、頭に来た天音は反論をしようとするが、天音の瞳から大きな涙の粒がこぼれ落ちる。
「もうやめろ!紗月っ!!」
隣で天真に介抱されている薙が叫ぶ。
「そこまでにしろ…!」
場が静まり返った途端、空を覆っていた雲から大粒の雨がぽつぽつと降ってくる。天音は紗月の腕を解き、走ってその場を後にした。走って行った方向からみてスラムのホテルに向かったようだ。
「あらら…こりゃどうしたもんかねぇ」
「天音さん…」
残された4人も、薙の怪我の治療を終えた後、ホテルに戻り解散した。薙の怪我自体は大事に至らなかったが、全快するまでは少し時間が掛かりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます