第4話 決着、そして...
「ここは…」
任務で怪我をした者が送られる病院で、薙も何度かここに運ばれたことがあるため、その白い天井をよく知っている。
薙は目を覚ましてすぐ、ここにいる状況を把握できた。
「ようやくお目覚めかしら?」
薙の寝ている横から声が聞こえる。
ゆっくり上体を起こし首を声の方向に向けると、そこには先ほどまで一緒に戦っていた天音の姿があった。
「き、
薙は思わぬ来客に大きく驚くと、何やらぎこちない態度で天音に問いかける。
「はぁ…、天音で構いませんわ」
天音はため息をつきながら、薙に対して呼び捨てで言いと言葉を返す。
「あなたのお仲間が、倒れた責任を私に押し付けてきて、起きるまで看病しろ。と申してきたのですわ…。本当、どうして
あまりに意外な言葉に薙は本人の前で驚いた表情を見せた。
今まで
「な、何ですの、その顔は!そんなに意外だと言いたいのですか!?」
「ご、ごめんっ!何でもないよ!」
天音の意外な一面を垣間見た薙は自然と笑みがこぼれていた。はじめに会った時よりも随分と印象が変わったことに驚いた。
「そういえば俺、どれくらい眠ってたんだ?」
「どれくらいと言われましても、まだ数時間しか立ってませんわよ。ほら、時計を見なさいな」
「え?そうなのか?」
天音の言葉に薙は少し驚いた。あれだけ派手に動いてすんなりと目が覚めたのかと。たしかに隣に置いてある電子時計は翌日の深夜一時を指している。
あれだけ人間離れした動きができる半面、篭手の力を使うと薙は2〜3日の間、眠りにつくことがある。そのため今回は割と短い方だと、薙は悟った。
「
「ん?って、うわっ!」
天音の方向から、聞きなれな低い声で名前を呼ばれて振り向いてみると、突然、天音の隣から青白い毛を
「驚かせたようだな。我が名はカイムと申す。
音圧のある低い声で話すその大きな獣は、天音が
勝負の時は戦闘に集中していて姿を少しとらえた程度だったこともあり、カイムの姿形までははっきりしなかったが、あまりにも強力な雷撃は印象深く薙の脳裏に焼き付いていた。
「先の戦いでは
神魔とは、人智を遥かに越えた存在として
「あー、別にいいって。何事もなくてよかったよ、本当」
何事もなかった訳ではないが、神魔相手に薙はそのような言葉しかでなかった。むしろ、一般人ではお目にかかることすら叶わない神魔に頭を下げられて、どのような言葉で返せばいいのか、薙は
「
「ちょっとカイムったら!
天音がカイムの言葉に更に顔を赤くする。まるで父親の言葉が恥ずかしくて止めさせる娘のようだ。
「ですが…その…。一応感謝はしていますわ。助けて下さったこと…」
天音は恥ずかしそうに顔を赤らめ小さな声で薙に感謝を言う。
「お、おう」
意外にも素直な一面を見せる天音に、薙も動揺してしまう。出会いがしらがあれだけ険悪だっただけあって、ぎこちない様子のギャップにどう接するべきなのか迷ってしまう。
「まったく…。あなたと話していると
「あ、ありがと」
天音は顔をそらしながら皿に盛ったリンゴを薙に渡す。
薙は天音が皮を剥いてくれたリンゴを一切れ、小さなフォークで刺して口に入れる。テーブルに置いてあるまだ手を付けてないリンゴは大きく、食べやすく切っても食べ応えがありそうな筈なのに、天音が剥いたリンゴは形が不格好でとても小さい。
ゴミ箱に捨ててある皮を見ると思いっきり果肉が残っている。包丁さばきはそこまで器用ではないようだ。
小さいながらも新鮮なリンゴの甘みが口に広がって美味しい。篭手の力を使った時に、口に力を入れていた反動で口内が傷だらけで少し染みるが。
「薙さん?ひとつお聞きしてもよろしいかしら?」
リンゴを頬張っていると天音が薙に疑問を投げかけた。
「俺も薙で良いよ」
「そうですか。ではお言葉に甘えまして、薙。率直に聞きますわ。あなたが使ったあの篭手と
天音が発した月影剣という名を聞いた途端、薙は手に持っていたフォークを置いて静かに口を開く。
「隠しているつもりだったけど、さすがに気づくよな」
「バレたか」という顔をした薙だったが、観念したようにそのまま話を続けることにした。
「天音の言う通り、俺はあの月影剣の息子だよ」
「やはり、そうでしたのね」
「驚いたな。アマテラスに所属しているとは噂に聞いていたが、まさかこのような所で相まみえようとは」
薙の言葉に天音とカイムは驚きを隠せなかった。
薙の父親である月影剣とは、アヤカシが発生して間もなく、アマテラスが創設する以前から、アヤカシ退治に協力していた第一人者であり、人類で初めてアヤカシを討ったとされ『現代の侍』の異名を持つ人物である。
アマテラスの創設期を知る者なら誰もが耳にしたことがあると言っても過言ではない。
「なるほど。そしてあの篭手が父・剣から受け継いだ遺産だと言うのですの?」
「まぁ、そんなもんだよ」
薙は天音の問いに対して包み隠さず答える。
「あの力は一体何なのですか?」
「あの篭手は『
「呪いですか…。月影の家には何か隠された謎があるという噂は耳にしたことがありましたけど、都市伝説とばかり思ってましたわ。まさかそのようなモノが本当に存在していたなんて」
「そもそもは世間の目に出ていい代物ではないからな。アヤカシが発生して以降は、
「月影剣の真の実力は、恐らくこの篭手の力もあったということなのですわね」
「俺も親父の偉大さは耳に
英雄と
「邪鬼の篭手か。あの
カイムは先の戦闘を思い返し、篭手の力の恐ろしさを再度思い出した。千年以上生きて来て初めて感じる程の力というものに、薙は実感が沸かない様子であったが、どれほどの力が宿っているのかは何となく分かった。
「まぁ、実際見てもらったと思うけど、使うたびにこのザマさ。いくら強力な力だからって簡単に制御できるもんでもないんだ」
邪鬼の篭手は使用すると、使用者は篭手が作り出す血を体内に注がれ、鬼の力を得る。
篭手を付けている間も強烈な痛みと、頭の中をささやくように聞こえる邪鬼の声に精神を支配されるため、極力使用は控えている代物である。
そして、篭手の能力は使用者に多大な負担が掛かるため、長時間しようすると、こうして数日の間寝たきりになる。
篭手の件は話すと長くなるし、薙自身もそこまで事を広げたくないようで、大まかな事だけを話して切り上げた。
「そういえばさ…」
薙がふと疑問に思ったことを口に出す。
「ここに天音がいるってことは、俺たちの部隊に入るってことでいいのか?」
不意を突かれたような薙の問いにぎこちない表情をしたが、天音は諦めたかのようにため息をついて言葉を返す。
「結果的にあなた方が勝ったのですから…、約束は守りますわ」
「そっか」
薙は嫌そうでもなく、喜ぶでもなく、安心したような表情をしていた。
「じゃあ、これからよろしくな天音」
「ええ」
これで第4小隊も5人のフルメンバーでの活動が始まるのだった。
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