第77話 夕餉
桜子は山歩きで汚れた
夏芽は桜子の帰還を待ちわびていたようで、家に着くなり光る涙を目の端ににじませた。
水に浸した手巾で体を
いつのまにか薫も、別室で夏芽が用意した藍色の
秋津彦は
もち米に五穀を混ぜて炊いたお粥に、
捕らわれていた『月読』の
まだ湯気のたつ香ばしい食事の数々を
——もしかしたら、ここには戻ってこられないかもしれない。
桜子は木椀を手に持ったまま、胸の内でひそかに予感した。
でも一方で、なんとかなるのではないか、と楽観する心のかまえもあった。それは、すぐ隣に薫がいるからなのだと、このときは桜子も意識することができた。
なぜ、そんなに頼りにしてしまうのか、桜子も分からなかった。
それなのに桜子は、薫がいればどんなことにも立ち向かえるという気がしてくるのだった。
それは——薫の言葉だけが、桜子をここまで動かしたせいもあった。
薫の時に熱を帯びた口調は、今まで無謀だと思っていたことを可能にさせる力があるようだった。少々、危うい側面はあるものの、薫の行動は信頼するのに足りるものだった。
これからどんなことが待っているにしろ、ふたりなら乗り越えられる気がしたのだ。
夏芽の出してくれた食事をすべて食べ終え、すっかりお腹の底が温まると、桂木が二人を迎えに家の戸口に現れるところだった。
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