第76話 帰郷( 3 )
瑞彦たちとの話し合いによって、
頑としてふたりで行くと告げた桜子に対し、瑞彦は数人で後を追うと言って聞かなかった。だが、人目が多いと後で面倒なことにもなりかねない。結局桂木が護衛として行くことになった。
桂木は桜子にそっと耳打ちした。
「蛍火が見られる場所は限られています。こちらが待ち伏せするつもりで行きましょう」
その様子を見守っていた瑞彦は、憂慮した眼差しをむけた。
「先方も事を荒だてたくはないだろう。だが、身に危険が及ぶことになれば、必ず保身につとめるのだぞ」
重ね重ねそう言う瑞彦に、桜子は向き直った。
「おじいちゃんたちは、お宮に里の人々を避難させてほしいの」
瑞彦はそれを聞き、戸惑ったようだった。
「しかし」
その言葉をさえぎり、桜子は確信に満ちた声音で言った。
「異変が起これば、それが起こってからでは間に合わない。お宮は清浄で、剣の力が及ばない唯一の場所。だからそれを里の人に伝えて」
桜子の眼差しを見て、瑞彦も開きかけた口を一度つぐんだ。
「そうすると約束しよう。里長に事の次第を伝える必要もある」
瑞彦は改めて桜子を上から眺めた。
(いつのまにこんなにも強くなったのだろう。ただ勝気なばかりだと思っていたのに)
そう思うと身内のこととはいえ、その成長ぶりに目を細めずにはいられなかった。
(この子をあざむき嫁がせようとするなど、土台が無理な話だったのだ)
五瀬川は古くから御影山を源泉に里を潤し、清らかなことで有名な支流だった。
桜子と薫が稽古場を出て山陰へ姿を消すと、瑞彦はその身の安全を強く願わずにはいられなかった。
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