第55話 追手
——もう、こんなところにはいられない。
そう強く思ったのと、優がひざまずいたのが同時だった。
「あの塀を越えて行こう。この背にのれ、桜子」
「行かせると思うかい」
桜子はかまわず優の背に乗った。
直後、優は
桜子を抱えたまま、敏捷な動きで
そばの庭木を足がかりに登る——と、土塀に鋭く何かが突き刺さる。優は足場を取られ均衡を崩したが、転落することだけは
「先に行け、桜子。こいつの相手をしたら俺も行く」
後ろを振り向いている余裕などはなかった。
月明かりを頼りに目測でおよその距離を推し量ると、桜子はすべるように塀から落下した。
受け身を取ったが
「すぐ裏手に小高い山がある。行くんだ」
それ以外、言葉を交わす暇はなかった。
ここでつかまったら、もう二度と外に出られなくなるかもしれない。それを直感し、桜子はもてる限りの力を使って走った。
——あそこにいると、私は私自身ではいられなくなってしまう。そうなるように仕向けられていた。
もう少しで、誰かに利用されるだけの存在になるところだった。相手がたとえ
それでは自分自身を失うのと等しい。それがいくら栄誉であろうとも、伊織が言ったのはそういうことなのだ。
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