第53話 月光( 1 )
月の光に誘いだされるように、桜子は隅の妻戸を開けて表に出た。
——あの日の夜も、こんな月が出ていた。
薫と話した夜を思いだしながら、桜子は思いきり息を吸い込んだ。わずかに湿る風の匂いがする。
——たとえば今ここで技を行えば、薫の消息も知ることができるだろうか。
まだ少し体に痺れは残っていたが、やろうと思えばできないこともない。そう思って軸足を固定し体を沈ませた
急に視界を
思わぬことに上空を見上げると、
「今はやめておいた方がいい。水脈筋に行ったばかりだろう」
聞き覚えのある声音に、今度こそ桜子は目をまるくした。
「その声——優さん?」
フッと、影が眼前を横切ったかと思うと、その人は簀子縁の前に降り立った。
「
優は、悪びれずにそう言った。
「驚いた。ずっとこの辺りにひそんでいたの?」
改めて眺めると、優は額に見慣れた天狗の面を付けていた。夜の闇に紛れやすいように濃紺の衣装をまとい、袴の
「そこにいては身動きが取れないだろう。ここから連れだそうと思い
桜子にとっては願ってもない申し出だが、その手を取るまでには
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます