第49話 自噴井( 2 )
桜子は拒みきることができなかった。
初めからそうさせるつもりだったのだろう。伊織が
やはりこちらの方が歩きやすい。足で袴を
自噴井の前には人がひとり動ける
そうしたいのを望む一方で、簡単に応じていいのか迷う気持ちもあった。剣を振った時の感触は、まだわずかに指に残っている。もし同じことが起こるなら、今度こそ自己を保てなくなるかもしれない。
——でも、このままでは何も変わらない。
どんなことが起きても、それを覚悟して前に進むしかない。
そう思うのと同時に重心が下がり、ひとつめの型に移行する足運びが自然と前に出た。
地を踏みしめ、大きく転換する。
剣を今は手にしていないのに、指は架空の柄を握っていた。
痺れるような。
遠い
ひとつ、ふたつと技が進むごとに、体のなかで
お宮の宝物殿の——
——この先に進めば、もう戻れない。
引き込まれてしまう。
——とまらなければ。
そう思うのに、足捌きをとめることができない。
意識と体が分断されてゆく。
水の流れが増して、ふいに速まる。
引力のように、不思議な磁場が起こった。
まるで何かに呼ばれているような。
まぶしい。青色の光。
それが一瞬強くひらめいた時、桜子は光のなかに呑み込まれた。
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