第44話 伊織( 2 )
「結局、あなたも『
警戒を込めて桜子はつぶやいた。伊織は残りの薬湯を
「力を求めるのは、主上にとっては仕方ないことなのです。我々はその所望に、持てる限りの力で応えたい。そうするのが、我々の使命なのです」
桜子は和人が告げたことを
祖父の瑞彦も桜子が生まれる前、この組織のなかで生きていたのだ。ずっと遠い世界だと思っていたのに。身近に迫る日が来るとは思わなかった。
目の前の女性がいくら親切そうに見えても、桜子は捕らわれた身であり
「優という人も、ここにいるんでしょう」
なぜそこで会ったこともない薫の父親の名前が出てくるのか、桜子も分からなかった。何か言い返そうと思った際、口に出てきたのだ。
伊織はその問いに、視線をそむけて言った。
「彼は主命にそむいた。組織にあってはならない人間です。居所は知れません。優は力を解放する
頭がぼうっとして、桜子は微熱で体が
伊織は続けて言った。
「主上——朱雀帝は、あなたの力を確かに欲していますが、取って喰おうなどとは考えていない。力を解放するなど、浅はかな振る舞いをしなくても良いのです」
桜子の目に話し続ける伊織の輪郭が揺らぎ、二重、三重に映った。
伊織は不意に桜子の肩をすくうように片手で持ち上げると、背を支えたまま盃に注いだ薬湯をあてがった。
「どうぞこれを。あなたはまだこの状態に慣れていない。数日経てば、熱もおさまるでしょう」
飲むものか、と桜子は口を引き結んだが、体は切実に水分を求めていた。
ひとしずくの液体が唇を濡らすと、こらえきれず桜子は飲み干した。喉が
桜子が飲み干すと、伊織はほほ笑んだ。
「優は守り手の力を誤解している。その力は忌むべきものではなく、うまく調整して利用するものなのです。少しお休みなさい。私がいつでも付いていますから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます