剣の巫女
第39話 兆し
心臓が、その鼓動を速くしていく。桜子はギュッと両手を握りしめた。額に汗が浮かぶ。
あの剣と切り離せない自分のなかの力を知った以上、もう無自覚でいることはできなかった。何かがあふれ出るような感覚が、柄を握った指先に残っている。
伝位の
これは、桜子だけの力ではない。生まれた時から桜子に内包されている母の血の名残なのだ。巫女にもなれないと感じていたというのに。母が呼び起こした人智を越えるものを、桜子もまた呼ぶことができるのだ。
にわかに信じがたいことだったが、守り手の力を実感した今、そう思うのが一番自然だった。母は、
さまざまな考えが頭のなかをめぐって、桜子は息もつかずに稽古場へと走った。
景色がどんどん後ろへ流れてゆく。走り続ける息苦しさよりも手にした考えに目がくらんで、胸の底が焼ききれそうだった。
『もともと、その力を還そうとする動きはあったんだよ』
誰かの言葉が、脳裏でこだまする。
ふっと一瞬、目の前がかげった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます