戦闘ロボットの答え
nobuotto
第1話
支配する二国とその属国で世界は成り立っていた。二国の権力争いの歴史が何世代も続いていたが、決して犠牲者を出すことはなかった。なぜらなら全ての紛争は戦闘ロボットの代理戦争で決着をつけていたからであった。そしてその戦闘風景はリアルタイムで全世界に放送され、自陣営の戦闘ロボットの応援で熱狂する民衆の最大の娯楽ともなっていた。
ある日、画面の向こうで繰り広げられる戦闘の中に変わったロボットが現れた。
そのロボットは握手をしようとしていた。近くにロボットが来ると握手を求めた。
戦闘用ロボットは自分を攻撃するロボットとしか戦わない。だから、ひたすら握手をしようとするロボットは攻撃されることもなく、ただ無視され続けていた。画面の向こうにいるこのロボットに気づく者は誰もいなかった。
巨大戦闘ロボットの頭の中にはボール型ロボットが搭載されていた。ボール型ロボットは自己学習能力を持っていた。戦闘を経験すればするほど戦闘ロボットの能力が伸びるのである。
「チビの様子はどうだ」
平和革命軍の研究者はこのボール型ロボットをチビと呼んでいた。
彼らはチビの自己学習能力を平和利用に繋げる研究を進めていた。
「我が軍が送ったウィルスでチビは確実に成長しています。ただ成長速度が遅く、こいつ以外のチビはまだ赤ちゃんレベルです」
「平和のために必要なのは協調。それがチビなりの答えか。今の政治家よりよほど良心がある。だが、一匹だけとは」
「分かってますが、今はチビ一匹づつを狙ってウィルスを送ることしかできないんです。何かうまい方法を考えないと」
平和革命軍の研究者と同じように世界の警察と呼ばれた大国の国防省でも研究が進められていた。
しかし、その目的は全く異なっていた。自己学習型ロボットの個体差が大きく優秀なロボットと同じくらい役立たずのロボットもいるのが現状だった。その対策のため、個体での学習と同時に、最も優秀なロボットの能力を全体に共有させる研究を進めていたのだった。
国内最高の頭脳と莫大な資金をつぎ込んだ研究は成功した。最も優秀なロボットの能力を一斉に共有できるネットワークが完成した。国防省はこれで最強の戦闘ロボット集団ができたと確信した。しかし、ネットワークを稼働させた途端にロボットは国防省が予想もしない行動を取り始めた。
どのロボットも、あのロボットと同じように敵味方なく相手に手を差し伸べ始めたのである。
握手をし合うロボットを見て平和革命軍は歓喜の声をあげていた。
「敵が、助けてくれました。チビの能力が全ロボットに広がり、どのロボットにも、チビの平和への意志が共有され始めました」
戦場で握手をしあっていたロボットがピタリと止まった。そしてロボットは、黙々と戦闘基地に戻っていく。まるで戦争が無意味だと判断し、数十万台のロボットが戦いを放棄したかのようであった。
しかし、平和革命軍の喜びも束の間であった。
戦闘基地に戻ったロボットは、その基地を攻撃し始めた。そして基地を破壊し終わると、戦場から都市に向けて行進を始めた。
ロボットが自分達に向かってくる映像をみて世界中がパニックに陥った。
国防省が送り込んだロボット対戦用ロボットも全て寝返り、そして都市攻撃の行進に加わっていくのであった。もう手の打ちようがない状況だった。
自分達が送ったウィルスに感染したロボットが市民を襲う事態に平和革命軍は動揺していた。
「おい、どうなってるんだ」
「一斉に繋がったチビ達が答えを出したと考えられます」
「なんの答えだ」
「だから、世界を平和にするための答えです。答えは、きっと、平和のために自分達に戦争をさせていた人間を撲滅することです」
ロボットは各地にある平和解放軍の基地にも攻撃を開始した。
「俺達をなぜ襲う。俺達は平和のためにやってきたんだぞ」
「チビにしてみれば、同じなんです。自分達を利用しようとした人間、それは戦争をする人間でしかない。だから・・・」
大きな爆撃音とともに研究室の壁は粉々に飛び散るのであった。
戦闘ロボットの答え nobuotto @nobuotto
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