第32話 鬼退治、化け物退治

怪物は、豹のような恐ろしい顔に、火のような真っ赤な口からはナイフのように鋭そうな歯が何本も生えていた。

体長五メートルは確実にあるであろう巨大な体をしていた。


頭に角が二本生えており、隆々とした筋肉が怪物の体を鎧の如く身に纏わり付いている。

その姿はまるで、金剛力士像のような圧力と迫力を合わせ持っていた。

手には1本の闇色に染まった太刀が握られている。太刀筋は彼の体の1.5倍はありそうだ。

刃には1本の金色に光る筋が見える。その黄金の一閃がその太刀の威圧感を一層に増していた。


「ちょっと、あれはどこからどう見てもヤバい奴なのよ。逃げるのが一番なのよ!」

敵の迫力に気圧されてビビったみのりが弱音を吐く。

「だめだ。俺達はこの世界の謎を目の当たりにしないといけない。これはみのりとの約束だ。俺は、一度した約束は絶対に破らねえ主義なんだ。だから、俺はこの先の敵がどんなに強くても行かなくちゃ行けないんだ。戦わなくてはいけないんだ」

「あおい君の言う通りよ。約束した事はやり通す。それが私の人道だもの。あと、絶対に諦めないこと。死ぬまで私は足掻いてみせるわ。この世界の謎を解くまでは、この目で見るまでは必ず死ぬわけにはいかないのよ。諦めるわけにはいかないのよ」

「行こう。俺達の為に。そして、世界の為に」


俺は、剣を腰から抜いて、雄叫びを上げながら化け物に突っ込んで行く。

化け物の右上には、ジャイアント・デーモンと書かれてあり、その下には黄緑色の太い線が伸びていた。


今までやって来たRPGのデータが頭の中を電撃のように伝わっていく。

図体のデカいモンスターは破壊力はあるものの、大体動きが鈍い。

だから、攻撃動作の直後に隙が出来やすい。


ジャイアント・デーモンは如何にも重そうな漆黒の剣を地面に向かって振り下ろす。

俺はその剣を受け流しながら化け物に向かって突っ込んで行く。

ジャイアント・デーモンと俺の剣が激しく鬩ぎ合い、火花が散り行く流れ星のような直線を描きながら、四方八方に暁色の粉を散りばめていく。

「はっ」

ジャイアント・デーモンの大剣の剣身の上に足を乗せて、その線を辿って走り抜ける。


予想をした通りだ。

やっぱり、動きが鈍い。


「せいやっ!」

右手で水平に薙ぎ払う。

視界の端に何かが横切る。


ギンッ

金属と金属がぶつかり合う音がした。

「なっ!?」

ジャイアント・デーモンの黒く、太い前腕で受け止められた。

彼は俺の剣を振り払う。

「くそっ」


ジャイアント・デーモンの腕に銀色に光る筒のようなものが覆ってるのが見えた。

そうか。

あの金属を盾代わりに使ったのか。


途端、顔に強い衝撃を受ける。

「ぐはっ」

景色が走り抜けて壁に衝突する。

「かはっ」


「葵くんっ! くそっ」

ミリルはレイピアを抜いてジャイアント・デーモンに向かって突っ走っていく。

「はぁぁぁぁぁ!」

ジャイアント・デーモンは、剣を横に薙ぎ払う。

ミリルは、伏せて避ける。


衝撃波が巻き起こる。

足に力を入れてその力を解放する。


「せいやっ」

跳んで、ジャイアント・デーモンの体に数十もの穴を開ける。

それは、一瞬の出来事だった。


「ぐぉぉぉぉぉぉ!!」

化け物が雄叫びを上げる。

それでもHPは10分の1くらいにしか減っていない。

ジャイアント・デーモンの隕石のような拳がみのりに降り注ぐ。


「みのりっ! 危ない!」

しかし、彼女はその言葉を言い終える前には姿を消していた。

一体、どこに消えて・・・・・・


いきなり、女の子が現れて、

「何やってんのよ! とっととあんな化け物ぶっ飛ばすわよ!」

そんな、物騒な言葉を並べ立てるのはみのりだった。


「な、なんで。さっきまであいつの足の下にいたはずじゃ」

その言葉を聞いた途端、ミリルは不機嫌そうな顔で、

「はぁ? アンタ何言ってんの?そんなの『スキル』に決まってるじゃないの。魔法がなければスキルで対抗する。そうじゃないと、こんな化け物を倒すことなんて出来ないわよ!」


す、すきる?

何だそれ?

始めて聞いたんだけど。


「スキルってなんだ?」

「はぁ? アンタ、そんなんで今までどうやってきたのよ。右コマンドの星マークのところにあるやつよ。ほら、来るわよ!」

み、右コマンド? こ、これか!


星マークみたいな所を押すと、『skill』という表示が出てきて、その下の欄に『身体強化』という項目を見つけた。

それを人差し指でクリックする。


それでも、体に何らかの変化が起きたという実感は全く無い。

「ぐおおお!」

避けようと、足を右に動かす。

何だ? 奴の動きがさっきよりも遅く見える。それに、なんだか体がとても軽い。


俺が避けた時には、まだジャイアント・デーモンの剣は地面に届いていなかった。

いける!

「はあああ!!」

地面を蹴って、ジャイアント・デーモンの横腹を切り刻む。


間髪を入れずに、振り返って攻撃を加える。

受け止められても連続で攻撃をして攻めていく。

剣と剣が重ね合う度に、火花が花びらのように散りばめられる。


「今だ! みのり、ミリル、ピエロのおじさん! こいつの攻撃を俺が受けているからそのうちにHPを削ってくれ!」

「わ、分かったわ!」

「了解なのよ!」

「よし」


みのりは王都で貰ったナイフで足を、ミリルは飛んでレイピアを使って首を、ピエロは、魔法を使って・・・

って、あいつ魔法を使えたのか。

すげぇなおい。

炎の球をジャイアントデーモンの体にぶち込んでやがる。この調子だ。

この調子でいけば勝てる!


それにしても、さっきはこいつの剣を受け止めることが全く出来なかったのに、軽々しく出来るようになった。

それに、体も心なしか軽くなったような気がする。

お陰でかなり身軽に体を動かすことが出来る。

まだ、慣れるのには時間がかかりそうだけど。


それにしても、力が凄いな。

何とか耐える事は出来ているけど、身体強化スキルを使って互角だなんて。


HPが黄色になった。

あと少し。


いけ!

と、思ったその時、

「気を付けろ! 行動パターンが変わるぞ!」

「へ?」

ピエロがそう叫ぶ声がした時、ジャイアント・デーモンの体から赤色の波動が出ているのに気が付いた。


「な!? こ、これは」

奴が一振りをすると、赤い波動が斬撃となって俺たちに襲い掛かる。

「はっ!」

俺は、その斬撃を受け止める。


「くっ」

重い。

足と拳に力を入れる。

ギィィン

金属音がしたと思うと、ジャイアント・デーモンの放った斬撃があらぬ方向へと吹き飛んで行った。


「グオオオオオオ!!」

ジャイアント・デーモンは空中へと飛んで襲いかかって来た。

「みんな、避けるんだ!」

蜂の巣を突いたかのように散る。

天を切り裂くかのよう

ジャイアント・デーモンの剣が空を切り裂く。

地面が真っ二つに割れる。


「グオオオオ!」

ジャイアント・デーモンは勢いをつけ過ぎたのか、地面に突き刺さった剣を引き抜こうとしていた。

思ったよりも馬鹿なモンスターだった。


こんな大チャンスを見逃す俺達ではない。

ましてや、敵に情けを懸けるような俺達でもない。

「今だ! この隙を狙え!」

「おりゃああああああ!!」

俺達総勢4人はジャイアント・デーモンに対して勇敢に立ち向かって行った。


斬る。

刺す。

焼き尽くす。


様々な方法でジャイアント・デーモンをいたぶる。

「グオウ!!」

ジャイアント・デーモンは地面から剣を引っこ抜く。

勢い余って後ろへ倒れかかる。

「危ない! 一旦距離を取れ!」

俺達はジャイアント・デーモンから一定の距離を取る。


チラリと奴のHPを見る。

さっきは黄色のゲージになっていたはず。


確かに、減ってはいる。

減ってはいるのだが、最初の戦闘に比べたらそんなにHPゲージが減っていない気がする。

「おい。ピエロ。これは一体どういうことだ? 初めの時よりHPが減る割合が減っていねえか?」

俺の質問にピエロが答える。

「多分、あの赤いオーラが攻撃と防御の両方の役割を担っているんだ。とろとろしていたらこちらの体力が削られるだけだぞ」


「それなら、こちらから攻撃するのみだ。攻撃は最大の防御と言うしな。さっきと同じ戦法で行く。俺がこいつの囮になる。その間にお前達はこいつにダメージを与えてくれ」

「了解だ。あおい少年」


足に力を入れる。

そして、その力を一気に解放する。

すると、俺の体がジェット噴射の様に前進する。

「吹き飛べ。化け物がぁぁ!!」

俺はジャイアント・デーモンの首に向かって飛んで行く。


ジャイアント・デーモンは、両手で剣を握り、構える。

ギィン!

ジャイアント・デーモンと俺の剣が火花を散らす。


ジャイアント・デーモンは反動で後ろへ下がる。

俺は、空中に吹き飛ぶ。

が、スキル『身体強化』で得た力で、天井や壁を蹴って移動する事が可能になった。


これなら行けるぞ。

俺は、バトルフィールドを風の如く、光の如く駆け抜ける。

奴のHPも残り僅かとなって来た。

これで決めるぞ。


「みんな、下がっていてくれ。俺が最後決める!」

垂直の壁に力を溜めて一気にその力を放つ。


いけっ!

「うらぁ!!」

俺が編み出した瞬足


剣の切れ味と俺のスキル《身体強化》を利用して、自分の攻撃速度を上げて斬撃を鋭くさせる技。

これを使う時は、それなりの体力を用いるのであまり多用は出来ないが。

この俺のスキルがあるからこそ出来る技だ。

普通の人間なら体が耐えることが出来ないし、もう死んでいる。


ジャイアント・デーモンの体は真っ二つに分裂した。

敵のHPゲージがみるみると内に減少していく。

赤のゲージも消え、ジャイアント・デーモンは破片となって消滅していった。


「俺達、勝った・・・・のか?」

「みたいね」

「何とか、勝ったのよ」


「休んでいる暇は無いぞ」

後ろでピエロが言った。

「あと、2体の化け物を倒さないといけないんだ。それも、順々に強くなっていく。油断する暇なんて無い。それに、ボスまで行くにはダンジョンをクリアしなくてはいけないんだ。これからはもっとキツくなるぞ」

「これよりもっとキツくなるってどんななのよ」

「まぁ、休憩を交えながら進んでいこう。焦ってもしょうが無いからね」


俺達は、部屋の奥にある扉を開いてダンジョンの中へと突き進んで行った。

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