第31話 衝撃の再会
「地図によると、この壁の向こうに道があるという事になっているんだけれど、ここから先はどうやって進めば良いんだ?」
この壁はこの国と外界を隔てる壁。
「もしかして・・・・・・」
みのりがポツリと一言呟く。
「どうした? みのり?」
「この下なのかも知れないのよ? あおいにい」
「下だと? でもこの地面の下には何も無いって地図には・・・・・・」
「だから、この地図が間違っているのよ」
「いや、その地図は間違っちゃいないさ」
後ろから声がしたかと思うと、背中に力を加えられる感触がした。
このままだと壁にぶつかってーー。そう思った。常識なら事実、ぶつかっていただろう。だが、俺の体は壁を通り抜けて地下室のような暗い所にいつの間にか移動していた。
ここは一体何処なんだ? それに、今、俺ってば壁をすり抜けて・・・・・・
「久し振りだね。少年」
後ろからいきなり声を掛けられて肩が震えた。
「あ、貴方は・・・・・・」
赤い大きな鼻に化粧をした顔。
その者の名を人は道化と呼ぶ。
そう。いつぞやのピエロが俺の目の前に立っていた。
「ひっさしぶりだ! ついつい街で見掛けたから話し掛けてしまったよ」
話し掛けたのは嘘だ。
その人は何らかの意図があって俺とみのりとミリルをこの場所に入れたんだ。
何故そんな事をするのかはさっぱり分からない。
以前、街で会った時と全く同じ声、顔、背格好。
間違えない。このピエロだ。
でもーー
「何の為に俺をここに誘い込んだのか。何かこいつは企んでいるんじゃないのか。君はそう思っているんだね。あおいくん」
「ちっ」
何もかもお見通しか。
「ちょっとちょっと、何なのよこの人は。いきなり人の背中を押して、一体誰なの!? あおいくんの知り合い?」
「あおいくんとは以前会った事があるんだ」
「あんたには聞いてないわよ! 道化師!」
「あわ~、きつい言葉を使うお嬢さんだ」
彼は額を右手でパタリと叩く。
「でも、良いのかい? 君たちはこのままでは絶対にユグドラシルには辿り着けないよ」
「どういうことなのよ? それは」
「ユグドラシルの最深部には案内人がいなければ決して辿り着く事が出来ないという事さ。ユグドラシルの中は迷路みたいに入り組んでいるんだ。それに、強力なモンスターもいる。プレイヤーだけでは絶対に最深部に行く事は不可能な作りになっているんだ。そこで、その案内人兼、補助の役割を任されたのがこの私なのさ」
「ということは、あなたはNPCという事なの? そんな風には全く見えないのだけれど・・・」
「その通り、ある条件をクリアすると僕が登場するように設定されているんだ。勿論、普段の職業は道化師兼大道芸人だからね。僕はこの世界の監視みたいな役割をするための存在だからね。まぁ、そんな事はどうでも良い。行くよ3人とも。一つ警告しておくけれど、この僕がいるからって安心しないこと。護身の為に僕もそこら辺の冒険者や剣士には負けない程度に強い設定はされているけれど、これから行くユグドラシルはそんなに甘くないからね。僕だけに頼ってちゃ駄目だからね。それに、僕はNPCだから死んでも生き返るけど、君たちがそうだとは限らないからね」
プレイヤーでもこの世界ーー。《スピリッツ・パラレルワールド》は死ぬ事は無いんじゃ無かったのか? ミリルによれば、この《スピリッツ・パラレルワールド》は『魂の救済』を目的とした世界ではなかったのか? 違うというのか? だとしたらこの《スピリッツ・パラレルワールド》を作った人は何故、何の目的でこの世界を創ったというのだろうか?
今は分からない。でも、きっと、この先にーー。ユグドラシルの最深部にこの世界の謎を解くヒントがあるかもしれない。
その可能性は0では無いだろう。
だから、その可能性が1%でもあるのならその可能性に俺達は賭けるべきだ。
「それでも構わない。俺達の目的はこの世界の謎を解くこと。この世界の謎の扉を解く鍵を見つけ出すこと。その糸口を見つけるヒントがそこにあるのなら、その希望が少しでもあるのなら俺達はそこに行こう」
「そっか」
ピエロは薄笑いを浮かべて見せる。
「それなら、僕に付いてこ来い。僕は、ユグドラシルの最深部に何があるのか知らない。けれど、そこには何かこの世界に関わるじゅうような秘密があることは確かなんだ。お前達の目的の鍵があるかも知れない。僕もそれを知りたい。一緒にそれを見つけに行こう」
「行くよな? ミリル。みのり」
「勿論なのよ」
「当たり前じゃない。行かない理由なんて無いわ」
「よし! それじゃ、決まりだな」
「それでは、3人とも、僕に付いて来たまえ」
そう言われて、俺達3人はピエロの後に付いていった。
墨を塗ったかのように真っ黒で怪しい場所だった。
本当にこんな所にユグドラシルへと通じる道があるのだろうか?
そもそもの話、このピエロを信じても良いのだろうか?
相手は奇術師だ。道化師だ。
人を騙すのはお手の物だろう。
だとしたら、なぜ俺達を狙う?
他にも標的にしやすい冒険者は五万といるだろうに。
そう思い始めると止まらない。
疑心暗鬼になると、人を疑い始めたら切りが無い。
心の中が黒く染まっていくのを感じた。
人では無く、その人の影を見る感じだ。
人の見えない部分を見ようとする時、人は始めて『疑う』ということを知る。
それを、時に人は『影』または、『陰』と呼ぶ。
落ち着け。
今はこのピエロを信じるしか無い。
今の俺達に他の道は無いのだから。
いや、無いことは無い。探したらあるのかも知れないが、今は時間が惜しい。
怪しげだが、この男に任せる7しかない。
何かあったらその時はその時だ。
大丈夫だ。
俺達3人ならどんな困難でも乗り越えることが出来るさ。
そんな根拠の無い自信が不思議とあった。
昔の俺とは違う。
地位に、権威に、期待の重さに踏みつぶされそうだったあの時の俺とは違う。
今の俺にとって人から期待されることはプレッシャーなんかじゃない。重荷なんかじゃ無い。
力だ。
俺の力の、エネルギーの源だ。
今の俺は、人からの期待を自分の力に変える事が出来る。
それは、こいつらと出会ったお陰だ。
人の笑顔を見る事の喜びを俺は知ったんだ。
その為なら、俺はどんなどりょくだってして見せる。
「着いた」
目の前には、充血したかのような真っ赤な扉が禍々しいオーラを放って立ち塞がっていた。
閻魔大王のようなドス黒い魔力。一歩でも踏み入れたらこちら側には戻れないかも知れない。そう、俺は直感した。
「あ、あおいくん。アンタ、顔から汗が噴き出ているわよ」
「お、お前こそ手が震えてるぞ。みのりも目が泳いでいるぞ」
「べ、別にそんな事は無いのよ。あおいにいの癖して生意気なのよ」
どうやら、俺含めて2人ともここまで来て緊張しているらしい。
いや、恐怖と言って良いかもしれない。
みんな怖いんだ。
それもそうだ。
ここで死ぬかも知れない。
この魔力は人の憎しみ、憎悪、嫌悪、怒り、負の感情の塊で出来ている。
みんな怖いんだ。
そうだ。
人は皆、負の感情を抱えている。
出来るだけその感情を表に出さないように出さないようにしている。
でも、その感情は増幅する。
隠せば隠そうとするほど増幅するんだ。
それを克服するヒントがこの扉の先にあるのかも知れない。
「開けよう。みんな」
その扉の取っ手に手を掛ける。
扉を少しずつ開く。
黒い風が吹き付ける。
「死にに来たのか小僧共」
低く、地の底から聞こえてきそうな声がした。
肩に重みを感じる。
「お、降りようよ。あおいにい。この相手はヤバいよ」
確かに、この時点でヤバいということは分かる。
闇にこちらの心も乗っ取られそうだ。
でもーー
「逃げるわけにはいかねぇよ」
扉の先にいたのはーー
怪物だった。
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