第30話 2つ目の真実

「良いのかねぇ。真実を知ったら――。一度見たもの、一度聞いたもの。一度知識として定着したものは一生君の人生から離れる事は出来ないんだねぇ。知ってしまったらもう、元には戻る事が出来ないかも知れないぞ。人は真実から逃れる事は出来ないのだからねぇ」

「もう、一つの真実を知ってしまったんだ。これ以上引き下がる訳にはいかねぇ。俺はもう逃げねぇと誓ったんだ。それに、約束したんだ――」


横目でみのりを見て、

「この世界の真実を見る覚悟はある。俺は、この隣にいるみのりと約束したからな。この世の真実を知ると。大切な物をこの数ヶ月で数え切れないくらい教えて貰ったし、学ばせて貰った。俺はそれを無駄にしたくない。お願いだ。教えてくれ! このアンタが見た世界の真実ってやつを!」

「仕方があるまい。教えてやろう。私が知っている限りの事を。良いか。良く聞くのだよぉ。この世界は仮物で出来ているという話はもうしたよねぇ」

「あ、ああ」


「で、この世界はルイギアで得た情報をスーパーコンピュータ『那由他』で集めているというのは知っているはずだねぇ。それが意味していることは何か分かるかねぇ?」

「そ・・・・それは・・。俺達が情報の塊で出来ているということ・・・か?」

「そうだ。私達は情報の塊だ。集合体ということだ。で、そこで何か気になる事はないのかねぇ」

「き、気になる事?」

「そうだ。気になる事だねぇ」


なんだ?

気になる事?

「いや、無いな」

「はぁ、これだからぁ。仕方が無いな。教えてやろう。この世界を創ったのはスーパーコンピュータ。スーパーコンピュータを作ったのは人だねぇ。そして、この世界を創ったのはこれまた人間という事になる。つまりだ、この世界を創ったのは私達人間という事になる。この世界では、情報は魂に等しい。いや、今の私達にとって情報というものは魂なんだよねぇ。この意味。君に分かるかねぇ?」

「魂はこの世界では情報に過ぎない。そういうことか?」


「確かに、そう言う言い方もあるねぇ。でも、私が言いたいのはそれだけじゃ無い。もし、もしだよ? それが本当なら、私達の意思は何処へいく? なぜ、私達はこの意識を保っていられる?」

こいつは何を言っているんだ?


俺は本気でそう思っていた。

俺達の意思? そんなもん、俺達の中にあるに決まって――。


頭の中に電撃が走った。


まさか・・・・・・嘘だろ?

「気が付いたようだね。君も。そう。私達の意思さえも幻想。夢物語に過ぎない。生前に手に入れたルイギアの情報を元にして私達をスーパーコンピュータが作っているだけ。私達の意思なんて本当の所は何処にも無い。それなら、私達を動かしている、この世界を牛耳るのは何だ? 人か? それとも、機械か? 私が言えるのはそれまでだ。これ以上は私にも分からない。これから先は君たちの足で歩むんだねぇ。行くんだよねぇ。ユグドラシルに」

「もちろん! 行くとも!」

「よし! それならこれを持って行け!」


ルーサーは、机の中から一つの巻物を取りだした。

もう、古くてボロボロだ。

どこぞの宝の地図みたいになっている。


「これは、ルーシアからユグドラシルまで行く為の道のりが記されている。険しい道だろうが、君たちなら出来ると私は思う」

「ありがとう。ルーサーさん」


3人はルーサーにお礼を言ってその地図の在処まで行くことにした。

「地図によると、この先の大通りの先にある所に行くのよ。でも、ここは壁があるのに何で道が続いているのよ? この壁の先に道でもあるのかも知れないのよ」

「そうだな。そこは実際に行ってみないと分からない。取り敢えず、直接行ってみてそこから考えるのが一番良いと思う」

「そうね。それが一番効率が良いわね」


紫色の霧の中を3人は歩いて行った。

真実は何処にあるのだろう? ルーサーの言っていた事が全て真実では無いのかも知れないが、今はこれを信じる他は無い。他に当ても無いのだし。

死なない限りは、一歩一歩前を向いて突き進んで行くしか無いんだからな。

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