第29話 1つ目の真実

「それじゃ、俺から質問しよう。俺達の仲間だった奴に高崎莉菜という奴と竹下ルイという少年がいるんだ。この世界に来るときにはぐれてしまった。何処にいるのか見つける事は出来るか?」

「勿論ですともぉ。それでは、こちらの水晶玉を見ていて下さい」


ルーサーは、目の前に置いてある水晶玉に何やら言葉をかけ始めた」

「この世の森羅万象を司る神よ。私の目となり全ての物を見通せ」


彼がそう言うと、水晶玉の色が変化し始めた。

紫から黒色へ黒色からオレンジ色へと様々な色に変わっていく。


俺達はジッとその水晶玉を見つめる。

すると、数分経つとその水晶玉の色が変化していった。

最初は紫色だったのが、黒色に変化したり、黄土色に変化したりと、様々な色に変化していった。


3分くらいそれが続いて、擦ったばかりの墨のような真っ黒な色に変化した。

水晶玉は黒色に変化したままそれ以上何色にも変わらなかった。


「こ、これはどういうこと何ですか?」

正直、あまり良い意味では無いという事くらい素人にでも分かる。

ルーサーは淡々と唯、事実のみを述べていく。


「君の言った2人はもうこの世の中にいないよ」

「えっ!? それってどういう・・・・・・」

「言ったまんまだなぁ。2人はこの世界にもいないし、『スピリッツ・パラレルワールド』の中にもいない。この世界では、肉体も精神も魂も全て消滅する。それら全てを失ってしまう。それが何を意味しているのか分かるかなぁ?」

「な、何だよ――――」

「この世からの死。本当の死を意味するんだねぇ。とは、言っても、私達は死んでいるんだけどね。私達は幻想の中に生きているんだねぇ。少年少女」

「な、何を言って――」


ルーサーは、細い目を三日月形にしてニタリと嗤う。

「私達は今生きているというのは嘘っぱちだねぇ。この世界でならなおさらだ。私達のデータを使って、スーパーコンピュータが仮想世界(VR)の中で制御しているだけ。この世界もあんた達も。この生活も。この命も。もしかしたら、『本物』なんてこの世界には無いのかも知れないねぇ。前の世界もそうだ。私達が生きてきたこと。感じているこの世界は幻想かも知れないねぇ。全て、全部嘘っぱちの世界だねぇ」

「な、そ、そんな訳がねぇだろうが! 俺達が生きている世界は本物だ! 確かに、今俺達がいる『スピリッツ・パラレルワールド』は違うかも知れねぇけど、前俺達が生きていた世界は本物だ! 嘘っぱちな世界な訳がねぇ!」


「それでは、お前が以前生きていた世界にそれが『本物』だったという証拠があるというんだ? お前が生きていた世界が『本物』だったというのをお前は信じたいだけなんじゃないのかぁ?」

「うっ・・・・・・」

確かに、ルーサーの言うとおりだ。

ルーサーの言うことが正しい。


これは勝手な俺の希望だ。

妄想だ。

空想だ。

夢想だ。

絵空事だ。

虚構だ。


それでも、それでもだ!

「それでも良い。ルーサーさんの言う通りだ。俺が生きている世界が『本物』だなんて言う証拠なんて何一つとして無い。でもな! 例え、今俺が生きている世界が虚構世界だとしても、信じたいんだよ。証明したいんだよ! 今、俺達がやっていることが、生きていることが無駄じゃねぇって! 確かに、この世界は、俺達は『ニセモノ』かもしれねぇ。でもな、それが偽物だからってなんだってんだ! 俺は今ここでちゃんと生きている! この世界がどんな場所だって構わねぇし、そんなの関係ねぇ! そこがどんな場所だろうが、俺はそこで懸命に生きるだけだ。賢明にならなくたって良い。一生懸命、考えて、行動して、失敗して、試行錯誤を繰り返して、仲間と一緒に自分の出来る事を増やしていけば良い」


ルーサーは、口を大きく開けて大声で笑った。

「ほう。言うじゃないかぁ。少年。その通りだ。この世界が、自分の存在が『偽物』だと分かっても、そこで落ち込んでいては意味が無い。その場でもがき、足掻き、生きようとする奴らが最後に勝つ。よし。いくつか特別なことを君たちに教えよう。一つ目はユグドラシルのことに関係することだねぇ」

「ユグドラシルって、あのユグドラシルか?」

「そうそう。そのユグドラシルだねぇ」

「で、その特別なことというのは何だ?」


ルーサーは、人差し指を空に立てて、

「この国の人々にしか扱えない魔力の事についてだ。実は、魔力を得る為には『果実』を食べる必要がある」

「か、果実・・・ですか?」

「そう。果実だ。ドグラと言われていてねぇ。さっきも言ったけど、その果実は、別名で『智の果実』と言われていてねぇ。ユグドラシルに実るんだねぇ」

「え? それじゃ、ユ、ユグドラシルに行ったことがある人がいるということですか!?」

「ま、まあ、そういうことだねぇ。ここは、ユグドラシルに一番近い街だからそんなに難しい話じゃないんだねえ」

「そ、それじゃ、俺も・・・・・」


欲しい、と言い掛ける俺の口をルーサーの手が塞いだ。

「駄目だ。君は食べない方が良い。この実を食べるには代償が必要なんだねぇ」

「代償?」

「そう。代償。ドグラを食べた人間は、魔力を手に入れる代わりに人外になってしまう可能性がある。下手したら、魔獣になってしまう可能性がある。魔獣になってしまったらそこで終わりだねぇ。一生、人の姿に戻ることは出来ない。意識は人のまま、体だけが勝手に動いてしまう魔獣になってしまう。人を襲い、自然を破壊し尽くす。意識は人のときのまんまでね。地獄だよ。自分は何をする事も出来ないのだから。唯々、人が殺されて、自然が、街が破壊されていくのを見ていることしか出来ないんだから。力を手に入れるにはそれなりの代償が必要だって事だねぇ。俺もそうさねぇ」


ルーサーは、そう言うと、右腕の裾を捲って見せた。

「きゃっ、な、何よこれ!?」

「凄い・・・・・のよ」

「!?」


彼の右腕は、見た目とは大きく違っていた――――

太く、緑色で、アトピーのような粒々が幾つも出来ていた。

「俺がドグラを食べた時の後遺症だ」

ルーサーは、目を細め、眉を顰めて憎たらしい声で話す。

「幸い、俺は初期症状で仲間の魔法のお陰で魔獣化を抑える事は出来たが、この有様だ。仲間がいなかったら今頃俺は人殺しだ。街を歩いている奴は全員、自力か、仲間の力を借りて魔獣化を抑えられた人間か、若しくは、辛うじて体の一部、若しくは半分で抑える事が出来た人間かのどちらかだ。どちらにしても厳しいけどねぇ」



「だから、君たちは力を求めない方が良い。そんな外側だけの力を求めるよりも自分を強くしろ。心を強く持て。足りないところは仲間と協力して補えば良い。それが仲間というものだ。少年が感じたその恐怖の感情はそれなのかも知れないねぇ。『自分』が別物になる感覚。『自分』という存在が消える感覚。彼等のそのような念が少年の中に入り込んだのかも知れない。何故かは分からないが。でも、大切なのは仲間だ。それを忘れるなよ。少年」


そうだ。

そうだった。


RPGの中でも自分が足りない所は仲間に補って貰って敵と戦っていた。

俺の人生の全ては、RPGゲームから教わったんだ。


仲間との絆。

信頼。

チームワーク。


全部、俺は人生をゲームから教わっていたんだ。


「2つ目は、この世界の謎の一つについてだ。これは用心して聞いた方が良いぞ。少年少女」

この世界の謎――――


俺とミリル、そして、みのりの間に緊張感が走る。

ルーサーは、口を開いて、

「それでは話そうかねぇ。この世界が何で出来ているのかを」

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