第18話 コマ二ティ
「なぁ、これのどこが犯罪率が世界最高の街だよ。平和そのものじゃねぇか」
「あおいにいよく見て。特に路地裏とか」
「路地裏?」
そっと、人が行き交う間にある路地裏を覗いてみる。
すると、どうだろうか。
棒切れのような服を着た乞食やホームレスのような格好をした男や女、少年少女が体操座りをしていたり、寝転んでいたりしていた。
「うわ。何だよあれ」
彼らの目は濁りきっていた。
獲物を狙う肉食獣の目のようにギラギラと光らせ、口からは涎がたらたらと流れ出している。
「あおいにい。良いこと教えてあげる。この国はね、世界で一番犯罪率が高いと共に貧富格差もトップクラスなのよ。あそこにいる人たちはお金持ちの人を狙っているのよ。だから、この街に住んでいる富裕層の人たちは国外からボディガードを雇っているわ」
なるべく行き交う人々を横目で見ながら、
「俺はもっと荒れているところだと思ったんだがな」
チッチッチッ。
みのりは人差し指を左右に振ってみせる。
「違うのよ。さっきも言ったけど、これはあくまで外の姿。外面のことよ。本質は内面にあるのよ。ねぇ、あおいにい。人が本質を出す時っていつだと思う?」
「人が本質を出す時?」
彼女の言っている意味が良く分からない。
「つ・ま・り。人の理性が弱まって本能が最も強まる時。動物としての本能が最も強くなる時はいつって話よ」
人の本能が最も強まる時。
人が人としての理性を保てなくなる時。
弱まる時。
まるでなぞなぞみたいだ。
もしかして・・・・
「分かったぞ。本を読んでいる時だ」
ぽんと拳を叩く。
みのりはポカーンと口を開けて俺の顔を眺める。
ツルツルとしたピンク色の唇が丸く形作っている。
更に、真珠のように白く光っている小さな歯が口の間からちょこんと覗く。
「バッカじゃないの? 全然違うのよ。 夜なのよ。夜」
「夜? なんで夜なんだよ」
「何故って、夜は魔獣が活発的になる時期でもあるのよ。つまりね、夜というのは本能が活性化する時なの。人も所詮動物という事なのよ」
彼女は目を細める。
「犯罪率が夜の方が高いというのはそういうことよ。他にも、暗いから暗殺や殺人がしやすいという理由もあるけれど、一番は本能が活性化して理性に打ち勝ってしまうというのが一番大きいわね」
彼女はふぁ、と大きい欠伸をして両手でそれを押さえる。
確かに、今は昼間だからそうでもないが、脇道から舐めるようなトロトロとした視線を感じる。
正直、気持ち悪い。不快だ。
「なぁ、この視線はなんとかならないのか?」
我慢できなくなってみのりに相談する。
「ああ、この視線ね。どうもならないわよ。我慢するしかないわ。反応をしてはダメよ。こいつらはコミュニティで活動してるんだから」
「コミュニティ?」
聞き慣れない単語だったので聞き返す。
「そ。五人、多くて十人の束になって彼らは行動しているの」
「なんで、そんな事・・・・」
彼女はキョトンとして、
「だって、その方が一人で行動するより情報が手に入り易いでしょ。みんなバラバラに行動して後で狙っている奴を情報共有して夜に襲う。彼らは〈コマニティ〉と呼ばれているわ。だから、彼らに狙われるような素振りや格好をしていてはダメ」
例えば——
彼女は三メートル先くらいにいる男性を指差して、
「あそこにいる人は狙われるわね。あんな如何にも高そうなバックとかアクセサリーとか身に付けているなんて馬鹿のすることよ。〈コマニティ〉の格好の獲物だわ」
ほら、あそこを見てみて。
みのりはそう言って別の場所を指差す。
そこには、先程脇道にいた連中と同じような格好をした奴らが道の端で体操座りをしたり、脇道から覗いていたり、笛を吹いてお客を誘ったりしていた。
「あれは、何をしているんだ?」
「尾行よ。狙われたら終わり。住所や宿泊場所を突き止められて襲われて所持金を根刮ぎ持って行かれるわ。だから、あまり目立つ行動はしない方が良いわね」
それよりも、早く行きましょう。とみのりは俺の腕を引っ張って何処かに連れて行こうとする。
「ちょっと、俺を何処に連れて行くんだよ。みのり」
「そんなの宿に決まっているじゃない」
「金はどうするんだよ。俺、そんな金持ってねぇしさ」
「大丈夫!」
みのりは満面の笑みを浮かべて親指を立てる。
「安心して。おじいちゃまから貰ったお金があるわ」
「因みにどのくらいあるんだ?」
「ん? 大体90万ミルノ(日本円で180万円)かな」
「き、90万ミルノ!?」
流石、一国のお姫様だ。
てか、王様みのりの心配しすぎだろ。
可愛い子には旅をさせよっていう諺を知らないのかよ。
少し使いかたが違うか。
もう旅してるし。
みのりの顔が焦りの表情に変わる。
「バカ! そんな大声で叫んだら〈コマニティ〉に気付かれちゃうじゃない!」
「お前がとんでもねぇ大金を言うからだろうが!」
「良いから、〈コマニティ〉から逃げるわよ」
そう言って二人は走り出した。
俺たちはひたすら走った。
尾行されない一心に一生懸命走った。
死ぬ気で走った。
90万ミルノも盗まれたら堪らない。
話し合う隙もない程に彼女はピリピリしていた。
「あそこのお店が良いわね。さっさと行くわよ」
「あ、ああ」
鈴の付いた〈ロマンティー〉と書かれた木製の看板が釣られてあった。
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