第14話 王様との出会い

「ちょっと、人のものを奪おうって言うのか?そんなことをすればまた捕まるんじゃ・・・・」

「大丈夫。その時はこの靴を履いて走って逃げれば良いのよ」

「そんなに上手く行くものなのか? 」


「さあ、それはあちしには分かんないわ。だけど、やらないと強くなれないのよ。あおいにい」

「いや、やっぱりダメだ。人のものを盗むことは駄目なことだ。そんなことをしては決していけない。そこらへんに落ちているものを拾うしかないか」


「あ、あとこれを頭に被って。今頃、兵士達が私たちを町中走り回って探しているだろうから」

彼女は背中に背負っているバッグから二つのフードを取り出した。

「分かった。行こう」


そう言いながら道の隅々を見渡しながら歩いて行く。

その姿はさながら田舎者が都会に来て高層ビルを物珍しそうに見ている感じとよく似ている。


「武器になりそうなものはなかなか無いな」

「そうね。それにこの町にいるのは危険なのよ。だから、一刻も早くこの街から抜け出した方が良いのよ」

「でも、あの男を俺は許すことが出来ねぇ。絶対にぶっ潰してやる」


「それは、ダメなのよ。あおいにい」

みのりは重い声で言った。

「なんでだよ」


「せっかく逃げたのにそんなことしたら元も子もないのよ」

俺は、立ち止まりみのりと顔の高さを合わせる。「大丈夫だ。あの時は少し油断しただけだ。少し待っといてくれ」

右の掌をみのりの頭の上に乗せてポンポンと叩く。


「あと、これを借りるぞ」

「え?ちょっとあおいにい!? 」

彼女のカバンの隙間からナイフを取り出して走り出す。


「駄目なのよ。あおいにい。国を相手にして勝てる訳が無いのよ」

俺の袖口を引っ張って引き留める。


「確かに、普通に考えたら無謀かも知れない。でも、ここで立ち止まったり逃げたりしたらこの国の人はどうなる? 国ってのは一つの組織だ。組織を動かすのは人なんだ。その人を駄目にしてしまったらこの国はもう駄目だ。どうしようも無い。崩壊の道を辿るだけだ。そして、その人を大事にしないのは誰だ? この国のトップだろう? それなら、そのトップを潰せば良い。ただそれだけの事だ」

「あ・・・あう・・・・」


その時、後ろから複数の足音が聞こえてきた。

金属音。

鎧を着た兵士か?


「お前は!? 」

後ろを振り向くと、そこには如何にも貴族風な格好をした男が口髭を指で弄りながら数人の部下と共に薄笑いを浮かべていた。



「おおー! もしや、お前さんが脱獄したと噂の騎士さんかの? 」

「お前は、誰だ? 」

周りには複数の兵士。

警戒モードの俺は、同じ手を喰らわないように先手必勝にかけることにした。


手加減は一切無用だ。


俺はみのりから貰ったナイフを懐から取り出して王様の右隣にいる兵士に向かって切り掛かっていた。


相手は鎧を着ている。

ナイフではとても太刀打ち出来ない。

だが、首から上なら露出してあるから狙いやすいしそこら辺は急所が沢山ある。


でも、これはゲームだ。

HP制だからそんなの関係ない。


ただ相手にダメージを与えることさえ出来れば良い。

初めに王様の右隣にいる兵士を蹴り飛ばす。

「テメェ! 」

感情を露わにして襲いかかってくるもう一人の兵士。


そこで、硬直して固まっている王様の首にナイフを突き立てる。

「動くな! それ以上近づいたら王様の首を切る! 」

「なっ!? 」


兵士はその場に立ち止まる。

「お、おい。犯罪者。貴様、こんな事をして許されると思っているのか! 」


自然と俺の口角が上がる。

「なぁに、少し俺の知りたい事を吐いてもらうだけだ。下っ端は黙っていろ」


「お主、慣れておるな」

「おう、王様よう。何でこの国の為にとか偽善者ぶった事言って、実は自分が一番楽したいだけなんだろ? 」

「お主、何か勘違いをしておるな。ワシはお主を捕まえに来たのでは無い。少々南の国に用事があっただけじゃ」


「用事? 」

「そうじゃ、この国を治めている貴族をわし直々に出向いて逮捕させようとしていた所だったのじゃ」

「なんで、そんな・・・・・・」


「そりゃ、尊い民を苦しめるのはワシだって嫌じゃからの。つい、二日前に潜入させていた兵士から『五日前に南の貴族が国民に不正な税を押収しているところを見る目撃した』と報告があってのう。その時に若い男が止めに入ったが逮捕されたという事を聞いたものじゃからその証人にと思っての。あと、孫の顔も見たかったしの」



そっとお爺さんの首からナイフを離す。

「お、おじいちゃん」

「久しぶりじゃな。みのり」

「え? 」

そう呟くみのりの顔と目の前にいるお爺さんの顔を見比べる。


「おじいちゃん。なんで今更・・・・・・」

みのりは王様の所にテクテクと近づいていき、ポコポコと拳で王様の胸を叩き始めた。


「あちし、あちし辛かったのよ? お母様もお父様もいつの間にか消えてしまって路頭に迷って、優しい人に引き取られたのは良いけど、おじいちゃんやおばあちゃんと会いたくて、会いたくてずっと寂しかったのよ」

「そうか。それは辛い思いをさせてしまった。本当に済まない。みのり。それで、貴方がみのりを助けてくれたのですか? 」


王様は俺の方を向いて尋ねてきた。

俺は、右手を左右に振って、

「とんでもない。私ではありません」

「おじいちゃん。あのね、このおにいちゃんはね、私が森で魔獣に襲われているところを助けてくれたのよ」

「おお! そうか。貴方は命の恩人ですなぁ。有難うございます! 有難うございます! 」


「いえ、大したことは私はしておりません」

いきなりの空気の変わりように戸惑ってしまう。


結局俺は宮殿へ招かれることになり、そこで王様や女王様、そして、みのりの四人で食事をしたり、この世界のことについて話し合ったりした。


まさか、みのりがこの国の王様の孫だったなんて・・・・

現実は小説より奇なりとはこんなふうなことを言うのだろう。

俺はこれからどうなっていくのだろうか?

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