第12話 「6時間10分後」
俺がエネルギー切れで倒れている間に、佐藤先生と黒田氏が主導して、色々としてくれた様だった。
孝志君の墓にも全員がお参りしてくれていたし、トリケラハムスターのお肉も焼いてくれた。
ただし、手を付けていない事が多過ぎて、どれから取り掛かるかを決めなくてはいけない。
叩き台は政府発行の『「召喚」されてしまった時に注意すべき10項目』だ。
01:周りに危険が無いかを確認しましょう
02:周りに召喚された人が居ないかを確認しましょう
03:集合出来れば、助け合いましょう
04:自分の能力を確認しましょう
05:自衛手段を確保しましょう
06:食料を確保しましょう
07:移動圏内に接触可能な知的生命体が存在するか確認しましょう
08:接触してはいけない知的生命体から逃げましょう
09:生活圏を築きましょう
10:可能であれば「ニホン国」に移動しましょう
現在、ここに居るのは13人だ。
少なくとも30人くらいの『被災者』が未だにどこに居るのか分からない可能性が有る。その内生徒は20人を占める。
早く見つけて上げないと助かる者も助からない。
これからの行動を決める必要も有り、俺たち大人5人で話し合いをした。
「黒田さん、消防でレスキュー隊員のあなたの意見を聞きたいが、空腹で水も無い状況でどれだけもつものだろうか?」
俺はわざと黒田氏の職業をアピールした。
今の彼の外見で職業を当てる事は無理だろう。
人間は権威に弱い面が有る。彼の職業を伝える事で信頼感も増す筈だ。
俺? 少なくとも、ここに居る全員の命の恩人くらいには思って貰えている筈だ、多分・・・
黒田氏は全員の顔を見渡した後で答えた。
「一般に『72時間の壁』とか言われるのは、脱水症状が出る目安の時間だ。ただし、この数字は環境に左右され、大人なら条件が良ければ1週間は生き残れる」
「なるほど。では現在の状況ではどれほど余裕が有ると思う?」
「雨が降らないとしても、この天候が続けば大人は4日くらいは大丈夫だろうが・・・ 子供は難しいだろう。それに水以上の問題が有る」
「水よりも外敵次第・・・という事だな?」
「ああ。実際、我々が遭遇した脅威は2種類だ。トリケラハムスターと現地人とも言える種族だ。どちらも十分な脅威と言える」
「佐藤先生、まだ飛べますか? せめて平原だけでも捜索を今日中に終わらせたいのですが?」
「はい、大丈夫です。お肉を食べたら、体力が戻ったみたいです」
「あ、それは、うちも思ったで」
茶ポメこと
それにはみんなも同意見だった様で頷いている。
「陽が落ちる前に捜索を終わらせようとすると、それほど時間は残されていません。そこで、こういうのはどうでしょう。自分はエアーズロックもどきとの中間点に直行します。先生はまずは時計回りで飛んで貰って南側を捜索。その結果を教えて下さい。誰か居れば自分が助けに行きます」
「先に南側ですか?」
「ええ。逃げた現地人、区別し易い様に黒ポメ人と命名しときましょう、で、黒ポメ人の集落が南に在るのですが、ヤツラに見つかる前に救助しておきたいですからね。念の為に、先生はヤツラに余り近寄らない様にして下さい。槍を投げて来る可能性が有ります。その後、南で発見出来なければ北を確認という感じでどうでしょう?」
「分かりました」
「それと、今悩んでいるのが、今夜の寝床です。ここは水がふんだんにあるので拠点としては良いのですが、いざ寝るとすればあまり良さそうに思えないんですよね」
「確かに晴れているから雨の心配はなさそうだが、石だらけの河原で寝るのは厳しいと思う」
「黒田さんに丸投げするから、何とかして貰えないだろうか?」
「そうだな、むしろ近くの草原に移動した方が良さそうだ」
「その辺りは任せる。でも、移るなら森の反対側にして欲しい。森にはヤバいのが多い。それと、トリケラハムスターをもう1頭焼いておいて貰っていいだろうか? 助け出した『被災者』が食料を手に入れている可能性は低い筈だ」
「それなら、捌いてもらったらうちがしとくで」
「私も、手伝います」
「では、金井さんと室井さんに任せます。それと雨に降られるまでに雨をしのげる住処も作る必要が有ります。ただし、いつまでここに居るかは流動的だと思っておいて下さい」
「どういう事でしょう?」
「『被災者』の捜索が終われば、ここを離れる可能性も有りますから」
「どこに行く積りだ?」
「我々だけが召喚に巻き込まれたとは思えない。もっと大きな集団が出来ている可能性も有る。先生と黒田さんには苦労を掛けるが、ある程度の自活が出来る様にしつつ、捜索範囲を広げて行こうと思う。まあ、それについては今夜にでも話そうと思う」
おおまかな方針を決めた後は、それぞれの役割に沿って動くだけだ。
それにしても、黒田氏が居てくれて本当に助かっている。
彼が居なければ、この集団はまともに機能しなかったかもしれない。
それに、万が一、俺に何か有れば、彼がこの集団を引っ張っていく流れを作っておく事も重要だ。
サブリーダーというか、いざという時に任せられる人間というのを作っておかないと、俺自身が安心出来ない。
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