におい漂う

生理的にアルコールの臭いが駄目だ

肌も赤く染まるし 痛い

なにより

死んだ人を思い出す

幼い頃にもあった出来事だろうけれども

歳を重ねるごとに やけになり臭いの方には行かないことにしてある

それでも歳を重ねるごとに 行かねばならないこと多くなり

近くにいる幼子に自分を重ねた

よくわからない

そう この子は 今は分からなくとも

自分のような歳になれば少なからず死の多さに驚き

見舞いに来た分だけアルコールを嗅ぐのだ

面倒な面会の書類を書き

手土産や着替えを持っていき

絶望的な状況でも大丈夫と言い張る

それが身内でも他人でも なんてこともない事なのだ

最初は近くの小児科で嗅ぎ、それは診察と注射の臭い

少し経って嗅いだのは他人の見舞いの時

またまた嗅いだのは身内を看取った時

長い長い死亡確認と清掃と死に化粧

そして葬儀屋の車に乗り込んだ時は

ほんのり 香る 消毒液の臭い

今頃、あの病室はアルコール消毒をされて次の住人を迎え入れるだろう

無想して過ごしている内に 火葬場では花の臭いが嫌というほど嗅ぐわっていた

顔を顰め そこら中をアルコール消毒してしまいたい気分だ

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自由散文詩掌編『消毒液』 朶骸なくす @sagamisayrow

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