西暦3500年
・定時帰り
一仕事終えてすっかりくたびれた。さて帰るとするかね。しかし今日は随分遠くで働いたもんだなあ、いったいどこだここ。
ふーん、KT-563番地か。かなり遠いな。リニアラインで二時間ってところかね。
・リニアステイション自動歩道にて
あっ、あれは片山じゃないか。おーい、片山!
「なんだ、北川、お前今日の職場この辺だったのか?」
うん、どうもそうらしい。やっぱり遠くまで来ると疲れるなあ。お前もこの辺まで来てたんだろ?
「なんかこの頃毎日色んなとこ連れてかれるんだよ。帰る時ルート探し面倒だから勘弁してほしいんだけどな。」
まあなあ、そりゃあなあ。おいどうだ、娯楽一発決めてかないか?改札前に娯楽くらいあるだろ。
「いいねえ。5番でいいか?最近5番ご無沙汰だからさ。」
...俺は3番が気分なんだけどな。
・娯楽
やっぱ3番がよかったなあ...いいか次でも。次使えるのは一週間後だが。
あっ、片山が戻ってきた。
「5番は効くなあ、おい!俺は5番が一番好きだな。何が好きなのかよくわかんねえけど。」
俺もなぜ3番の気分だったのかわからん。そもそも「娯楽」ってなんだ?
「娯楽」部屋に入った後の記憶ねえから言葉の意味すら知らん。多分「仕事」と似たようなもんだろう。
「んじゃまあよお、さっさと帰るか。指定リニアの時間そろそろだし。」
・リニアライン車内
腕の端末を見れば、どの番号のリニアの何番の席が自分かすぐわかる。
「おっ、隣の席だな、駄弁りながら帰れてよかったな。」
そりゃそうだろ、俺とお前同じとこ住んでんだから。
リニアには窓がないので、景色を見ることはない。周りには壁しかないので見れたところで、だが。
「あー、また一段と肩凝りが、今日の仕事なんだったんだろなあ。」
俺にもわからんよ、0800になると1900まで記憶飛ぶんだから。当たり前の話じゃないか。
「そうだけどよお、自分が「仕事」中何してんのか気になったことねえ?一昨日なんかさ、目覚めたときには身体中傷だらけだったぜ。」
お前変なこと言うんだな、仕事ってそういうもんじゃないか。
よくわからんこというと山口みたく突然いなくなるぞ、お前。
「山口かあ、変人だったなああいつ。原始我々人類はぁ〜、自らの意思で労働しぃ〜、女性と恋をしてェ〜、なんつってな。」
はは、似てる似てる。キチガイだったよなあいつ。話に出てくる単語半分以上わからんかったもん。
「女性」てなんのことだよっつってな。
胸が大きくてちん◯が無くてって、人間じゃねえじゃねえかそんなん。
「そういや胸に二つついてるこの出っ張り、なんのためについてるんだろうな。役に立ったことねえや。」
さあ?考えたことなかった。
・リニア到着
んあ、寝ちゃってたのか。片山、そろそろ着きそうだぞ。
「ん?...ああ、そうだな、そろそろだな。考え事するといつも寝ちゃうんだよな。」
うん、俺もそう、てかみんなそう。
お、着いた着いた。
リニアを降りたらゲートをくぐる、それが決まりだ。そうしないと家の鍵が開かないのだ。
「俺こっちだから。また娯楽行こうな!じゃ!」
おお、次は3番な!
・帰宅
家にあるもの。食事機、睡眠機、服。これが全て。生まれた時からこうだから疑問はない。
2200までには睡眠機に入るルールだ。もっとも自分で入らなくてもいつのまにか勝手に入っているので困ることはない。0600に必ず目覚めるので、服を着て、朝食を摂って0800を待つ。それが共通の生活サイクル。
今日の飯はなんじゃらほい。
4番か。随分ハードワークだったようだな。体の疲れ具合と番号はどうも比例しているらしい。機械からチューブで吸って食べるのだ。
さて、やることもないし寝ますかね。
睡眠機に満たされている液体にゆっくり体を漬ける。
...「女性」かあ、本当にいたのかなあ、そんなもの。
ああ、いかんいかん、大人しく寝よう。明日も「仕事」があるから...
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