第3話 ライターキラー


 僕らはいつの間にか生れ落ちた。

 気づくと其処に居た。

 だから、僕らは自分についてよく知らない。


 でも、僕たちがやるべき役割は分かる。

 それは、創造主の心を磨耗させること。

 そして、蝕むこと。

 それが僕らの存在意義。


 作家の心を棲みついて、壊して、殺して。

 そうやって僕たちは生きている。

 いつの間にか僕らは“ライターキラー”と呼ばれるようになった。


 でもそれだけでは僕たちは物足りなくなった。

 だからある日、力を“奪い取った”。

 想像を現実に変える力を。


『こうして、××に平和が訪れました。でも、』

 まるで子どもに読み聞かせするように、本を読む。

『この後、皆死んでしまいました』

『めでたしめでたし』

 僕らが言葉を紡ぐとソレが真実になる。

 その言葉通り、僕らの周りには沢山の人々が倒れて、血だまりを作っていた。

『呆気ないね』

『だって、この物語が愚直だからね。そうだよね?』

 本を腰が抜けて怯えきっている男に投げつける。

「お前ら一体何をしたんだ」

『その質問は愚問だよ』

『僕らは嘘(フィクション)を真実(ノンフィクション)に塗り替えただけさ』

『そして、ソレによってお前の物語は死んだ』

『皆平等にね』

 僕らは鼻先でそう笑った。

「そんな……」

 男はうな垂れた様子で倒れた人々を見ていた。

 そして、次々と登場人物の名前を呟きだした。

 まるで愛着も持って育てた親のように。

 その様子を冷ややかな目で僕らは見つめていた。


 僕らはどんな物語にも登場できない。

 それこそ、作り手を僕らは自ら殺してしまうから。

 僕らは物語へ生み出される前に死んでしまう。


『この感情は何と言うのだろうか』

 ココロがモヤモヤチリチリと歪む。

『そうだなー。“羨ましい”?』

『まさか。こんな人間の作り出した、ただのキャラクターごときに羨ましいなんて感情は持たない』

『でも、僕らも誰かの物語として生まれたかったのかもね』

『……』

 そんな時にあることを思いついた。

 誰かの物語を作らせて、それを現実にして、僕らは其処の世界の住人となろう。

 そうすれば、その世界は僕らのストーリーとなる。

『いい事を思いついたよ』

『え、何々? 聞きたい』

 僕らは内緒の計画をした。



『ここは僕らの世界だ』

『やっと手に入れられたんだ』

『だからずっと書いてもらうよ』

『誰も知らない、見てもいない。そんな孤独な“響き”を』




《君が死ぬまでずっと》



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る