第2話 Kyouto
それは、反転を繰り返す世界。
初めは何も無い。
最初は、其処を統べる王様を置こう。
王様は人々を呼び寄せる。
そしてネバーランドを作ろう。
反転すれば、ここが本物の世界となる。
王様は生き別れの友人が居る。
友人は王様の帰りをずっと待っている。反転外の外で。
しかし、その友人はこの話に干渉することが出来ない。
彼は観測しか許されることが無い。
王様の熱狂的なファンも作ろう。
彼女は誰からも忘れてしまって寂しいから、王様のことを好きになるんだ。
でも、彼女は世界を飛び出す。
しかし、それがバレて彼女は世界に消される。存在と共に。
時には少年が世界を抜け出そうとする。
でも、敵は少年の幼馴染で。
運よく抜け出したとしても少年は……
***
「はぁ……」
重いため息が部屋中を木霊する。
虚ろな心のまま、ひたすらに原稿用紙に向かい合っていた。
今日でそろそろ一週間となる。
あんな幻想にそそのかされて、書いている私自身、きっと気が狂っていたのかもしれない。
幻想だと思えば筆を止めればいいだけの話。
しかし、私にはそれが出来ない。
書かなければ、私の最後の作品を。
紡がなければ、物語を。
そうしなければ、私という“個”は死んでしまうのだから。
ゴリゴリと万年筆を原稿用紙へまるで削るかのように書いていく。
ありもしない空想・空論・絵空事。
書いていくことが楽しい時期もあった。
あの頃は誰しもが私のことを褒めてくれていたような気がする。
けど、今はどうだろうか?
私の上には山ほどの壁が立ちはだかっていて、いつも、見下すように私を見る。
そんな視線に耐え切れず、チャレンジすることも出来ず、私は日陰で暮らしていくしかなくなっている。
いつか見返すことが出来たら……、そんなまさに夢のような事、到底無理で。
私はずっと底辺を彷徨っているだけなのだ。
そんな私がひょんなことからこんな機会を与えられて、
思うが侭に連ねている。
彼らの目的が何なのか、そんな事を知ることも出来ない。
私は言われた通りただただ、“命”を削って描く。
私の“血液”で作られたインクで物語を綴る。
文字通り、命を。
生命を絞り、そして、書き続ける。
それだけしか出来ない。
「出来た」
あれからふたつきという時が経ったであろうか。
遂に出来た。
最後の作品が。
『“Kyouto”Project』
それがタイトルだった。
狂都・凶都・郷都・境都を廻る物語。
愚かで、虚しい、そんな群青劇。
いかにも私らしいと思う。
はははと乾いた笑いがこぼれた。
さぁ、やれることはやった。
私を終わりにしようじゃないか。
『駄目だ』
『お前にはまだ役割を終えては居ない』
目の前にまた彼らが現れる。
「もう、終わらせたはずだ。これで私の人生は幕を下ろす」
『そんな陳腐なエンドなんて認めない』
『まだ、幕を下ろすのは早いよ』
《さぁ、終わらない物語の続きを始めよう》
この物語は、フィクションであり。
登場する人物・団体・ 名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ない。
しかし、彼らは確実に私達の中に存在しており、
今でも私達を苦しめ続けているのだろう。
私はそれに負けてしまった。
だから、こんな道を辿ってしまった。
願わくは、
そんな彼らの言葉に耳を傾けず、君たちは君たちの物語を描いて欲しい。
こんな結末を描くことの無いことを。
虚無の空間。彼らが生み出した私の世界で私は未だに書いている。
終わらない物語を。
今日も私はまるで呪いを刻むかのように原稿用紙を文字で埋めていく。
この物語を“延命”するために。
『ここは僕らの世界だ』
『やっと手に入れられたんだ』
『だからずっと書いてもらうよ』
『誰も知らない、見てもいない。そんな孤独な“響き”を』
《君が死ぬまで》
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