第29話 パパVSパパ=ジジ?
前回のあらすじ
・みんな大好きで選べないよ。
・タリアたちの故郷の話。
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サリアとタリアが被災したのは四年前。
「ハリケーンが周囲の海水を吸い上げるので、物凄い高潮になったの。それで村が水没して、みんな研究所の建物の中に避難してたんだけど、今度はそこで火災が起こってしまって」
「タリムは、私やタリアのいる建物に燃え移らないよう、火災を食い止めると言って出て行って……結局帰ってこなかったわ」
「……そうなんだ」
その高潮も温暖化の影響なんだろうか。ハリケーンそのものも。
まるでハリウッドの映画みたい……なんて思うのは不謹慎なんだろうけど。平和で安全な日本だって、毎年台風は来るし、地震や津波も来る。
ツトムは、自分が産まれるずっと前に起こったと言う、大震災と大津波の事を考えた。ネット上には当時の動画が沢山残されていた。
「でも、本当に辛かったのは、むしろハリケーンが去った後ね」
サリアの言葉に、タリアはうなずいた。
「そう……パパが帰ってこなくて不安で悲しかったけど、食べ物も水も無くなっちゃったから」
「それもハリケーンで?」
二人ともうなずいた。
「食糧は流されたし、海水が浸みこんだから地下水が飲めなくなってしまって」
サリアの話に、ツトムは気がついた。
「日本の救助活動って、遅れちゃったの? 確か、それでおじいちゃんと出会ったんだよね?」
サリアがうなずいた。
「ええ。ナガトはそのハリケーンが通った島々を巡る救助活動に参加してたんだけど、一番被害の大きかった私たちの島は、後回しになってしまったの」
「え、どうして?」
被害の大きいところを最初に助けるべきだろうに。
「どうも、その研究所を作った国が横やりを入れてきたみたいね。研究資料などの回収が先だとか言って」
なんとなく、そんなことを言いそうな国が。
「……その国って、もしかして」
「ええ、中国よ」
やっぱり。
孫兄妹を拉致しようとしたのも、人質にして母親から全資産を巻き上げるためだというのが、ナガトの推測だった。多分そうなのだろう。自分たちの利益のためなら、他人などどうなってもいい、そんな考えが見えてくる。
「で、ナガトはその時、ずいぶん激しく日本政府とやり合ったらしいの。それで、どうやったのか分からないけど、救援隊を率いてきてくれたのよ。だから、私たち島の住民にとっては、ナガトはヒーローね」
……おじいちゃん、ほんとにパネェなぁ。
「それで、おじいちゃんに惚れちゃったんだね」
ちょっとからかう気もあったのだが、サリアは静かにうなずくと言った。
「でもね……初めてナガトにあった時、夫の……タリムの事を話したの。そうしたら」
口元を押さえてうつむく。涙が頬を伝った。
「本当の……英雄は、タリムだって」
そうなんだろうな。そう、ツトムは思う。
自分はどうだろう? そんな生死の境の時に、自分の大切な人のために命を犠牲にできるだろうか? 怖くなって、自分だけ助かろうと逃げ出さないだろうか?
……シャオミンは、僕の事をヒーローみたいに見ている。でも、僕が何か出来たのは、おじいちゃんがいたからだ。そう、”くもすけ”も。
この二人が危険だと言ってたら、孫兄妹を見捨てて逃げていたかもしれない。何しろ、相手は銃を持ってたんだし。
そんな自分に、ハリケーンが吹き荒れる中、燃え盛る建物に飛び込むなんてこと、絶対にできない。
ふと、理解できた気がした。
そうなんだ。誰かを特別に好きになるってのは、そんなことができちゃうくらい、凄いことなんだ。
「タリアのお父さん……タリムさん、凄い人なんだね」
タリアはうなずいた。その瞳にも、涙が浮かんでいた。
「今のパパもね。わたしには、自慢の父親が二人もいるの」
微笑むタリアとサリア。
気がつくと、ナリアは幼児用の椅子の上で眠りこけていた。
「ごちそうさま」
食器を重ねて、洗浄機まで運ぶ。
「そう言えば、おじいちゃんまだ帰ってこないね」
「電話してみるわ」
サリアが答えた。
ツトムはタリアに聞いた。
「お風呂、先に入る?」
「……そうね、そうするわ」
タリアは答えた。
「じゃ、出たら声をかけて」
ここへ来て初日に風呂場で鉢合わせしてしまったので、それ以来、こうしている。
二階の自室に戻ると、充電器の上にうずくまる”くもすけ”が声をかけてきた。
「あんじょう良い話が聞けたな、ツトム」
胸ポケットのスマホで聞いていたのだろう。
「うん。色々あったから、今日はちょっと疲れた」
そのままベッドに倒れ込み、風呂から上がったタリアに叩き起こされるまで、つかの間の眠りに落ちた。
……あ、起こされたと言っても「風呂に入れ」と言われただけなので、誤解無きよう。
* * *
ツトムが風呂から上がって本格的に寝付いた後。
ネットであれこれ調べていた”くもすけ”は、何かを見つけたようだった。
「ふーむ。この研究所とやら、なかなかおもろいな。なるほど、そこでナガトはんが……」
そんな独り言をつぶやくAIであった。
* * *
数日後。赤道祭が始まった。
フローティアが回遊航路の西端に達し、Mgバッテリーに溜めこんだ電力で北側の赤道反流へ乗り換える、二百キロの航海に乗り出した翌日だった。
以前タリアがツトムに話した通り、この日は海浜区を中心に出店が多数広がり、日本の縁日を思わせるようなお祭り騒ぎとなった。
「でも、でも僕は、フローティアの推進装置ガァ!」
メカオタクな彼の声は、少女たちの黄色い嬌声と共に、出店の喧騒の中に消えて行くのだった。
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