第12話 乳が奇しき入学式?
前回のあらすじ
・ツトムの工房が到着。
・赤くないけど通常の三倍。
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「新入生、起立!」
男性教師の掛け声で、百名ほどの少年少女が立ちあがった。講堂の前方では、校長が壇上への階段を上っていた。再び掛け声があって、一同は礼をし、着席。
クラス分けもまだなので、席順は自由だった。自然、ツトムとタリアは並んで座る。祖父のナガトはナリアを抱いたサリアと共に後ろの父兄席にいる。
フローティア第一中学は、花弁都市の中央にあるコアタワーの基部にあった。ツトムたちの住む家からは、連絡橋を渡ってエレベーターで数十階層降りることになる。
この階層には、他にも小学校や高校があった。ただ、運動場は流石に面積が足りないので、中央タワーを降りた平野部に設けられていると言う。
ツトムやタリアは、他の生徒たちと同じく制服を着ている。このあたりは本土の中学に合わせているようで、最近の流行というか昭和回顧ブームなのか、詰襟にセーラー服だったりする。もっとも、常夏のフローティアでは年中夏服なので、冬服の出番は今日のような入学式や卒業式のような式典だけらしい。
壇上の校長が照明に禿頭をテカらせながら、長々と挨拶を語りだした。こんなところまで本土に合わせなくても良いのに、と思うツトムだった。退屈しのぎに、周りの生徒たちをこっそり観察する。
意外に、というか当然と言うか、国際色豊かな顔ぶれだった。タリアのような小麦色の肌で小柄なミクロネシア系や大柄なポリネシア系が多いのは、フローティアが温暖化対策なのだから当然だ。しかし、台湾からのメイリンのように、東アジアや東南アジアからも来ている子も多い。
相対的に、ツトムのような日本人の生徒が少ない。というか、ほとんど見当たらない。いや、常夏の島だから、みんな陽に焼けてそう見えないだけなのだろうか?
「新入生、起立!」
校長のあいさつがようやく終わった。
一礼して着席すると、新一年生の担任が紹介された。ひとクラス三十人で三クラスあり、正副担任ということで六人の教師が壇上に並んだ。校長が一組から順番に名前を呼び、呼ばれた教師が礼をする。
「うぉ、すげー」
タリアとは反対側に座る男子生徒が、小声で感嘆した。その目は壇上の若い女性教師に釘づけだった。
校長の紹介では、たしか名前は山口ミカだった。三組の副担任で、隣に立つ正担任が力士になれそうなポリネシア系男性なので、やけに小柄に見える。しかしその胸だけは、柔和な面差しとは逆に存在感を放ってた。
サリアのプロポーションもなかなかだったが、この爆乳とも言うべき物は別格だった。
「……はぁ」
隣ではタリアがうつむき、ため息を吐いていた。
……大丈夫、乳なんて飾りです。エロい人にはそれが分からんのですよ。
などと思春期未然のツトムが言っても逆効果だから、ここは沈黙だ。どうも、こっちへ来てからのアレやコレで、ツトムは女性恐怖症の気が現れていた。
一組は肝っ玉母さん的なオバチャン先生と若い男性教師、二組は枯れた感じの初老の男性教師と色々標準サイズの女性教師で、ツトムとしては無難などちらかが望ましかった。
が、しかし。
式が終わって講堂の出口の表示パネルを見ると、ツトムとタリアは三組となっていた。
……げ。あいつもか
浜辺でいざこざのあった、中国人の兄妹の名前もそこにあった。一緒に入学てことは、双子なんだろうか?
加えて、高雄亭の看板娘メイリンも同じ三組だ。流石に学校給食でメガ盛りはないだろうから、知り合いが多いのはツトムとしては助かる。
各教室へ歩く生徒たちの流れに乗って移動。ちなみに父兄はここまでなので、母に抱かれたナリアに遠くから「バイバイ」された。
教室は本土より古風な作りだった。最近流行りの、昭和を舞台とした学園ドラマの舞台に近い。正面に黒板と教卓があり、後ろは生徒のロッカー。その間に生徒一人ひとりの机が並ぶ。
ドラマとの違いは、黒板が電子式なのと、机に備え付けの情報端末だ。流石に、カリキュラムは本土と同じらしい。
電子黒板には座席票が表示され、席の端末には生徒の名前が出ていた。席順は日本語での五十音になるので、ツトムとタリアは席が離れてしまった。メイリンは漢字で書くと王美玲なので、一番右の列の後ろの方だった。シャオウェンは妹と隣同士だが、表記は孫暁文なのでタリアのすぐ後ろにいる。いると言うか、めっちゃ睨んでいる。ツトムを。
……なんともメンドクサイ学校生活になりそうだなぁ。
そのメンドクサイ兄妹を迂回して、タリアとメイリンがやってきた。
「ツトム、タリア、一緒のクラスで良かったわ」
早速、メイリンはタリアとガールズトークを始めたが、ちょっと話題がツトムに集中しすぎなので、本人としては若干引いてしまう。
「君、福島ツトム君だね」
そんなツトムの前に、やけに体格のいい少年が立って声をかけてきた。浅黒い肌で大柄なので、ポリネシア系だろう。ごつい体つきとは裏腹に、笑うと白い歯が目立ち、人懐こい顔立ちだった。
「俺、クリス・ターナー。チャタム島から来たんだ。友達になれるかな?」
外見と名前のギャップにちょっとたじろぐが、メガネで検索するとチャタム島はニュージーランドの一部だと出てきたので、納得する。ハワイがアメリカなのと一緒だ。
「いいよ。僕もこっちに来たばかりで、友達は少ないんだ」
ツトムは立ち上がってクリスと握手した。体と同じで、手も大きくがっしりしていた。
「ポリネシア系って、みんな大柄なのかな?」
このクラスの担任も巨漢だった。
「そうだね。少年ラグビーなんて、この間、部門を分けられちゃったし」
これは、人種差別ではなくて重量別の部門だ。体格が違いすぎるためだと言う。日本にもポリネシア系の横綱や関取が何人もいる。
「ラグビーやってるの?」
クリスはうなずいた。
ツトムは運動全般が壊滅状態なので、逆に羨ましくもある。
しばらく、クリスが所属するフローティアの少年ラグビーチームについて話を聞いた。
その時。
「注目! みんな席に着いて」
教卓から女性の声が響いた。いつの間にか、副担任の山口ミカが前に立っていた。正担任の巨漢先生は、入り口付近に立って見守る感じだ。
またね、と言ってクリスは席に戻った。ツトムも席に着く。
ちなみに、言われなくても男子生徒の大半は既に注目していた。とある一点を熱心に。
「出欠を取ります。名前を呼ばれたら元気良く返事ね」
なんとなく、小学校のノリだ。中学になったらもうちょっと大人っぽくなるかと思ったのだが。
で、名前を呼ばれていくと、改めて日本人の生徒が少ないことが分かる。このクラスにはツトムしかいない。
出欠の方は、一人の女子を除いて全員出席だった。そこからミカ先生の説明が始まったが、幸いにも校長とは違って簡潔で、すぐに終わった。
「何人かよその土地から転入してきた子もいるから、明日は自己紹介の日にします。みんな、自分が一番大切にしているものを持ち寄って、紹介してください。この日だけは、持ち物の規制も緩和されます。ただし、ペットなど動物の場合は事前に担任と相談すること」
どうやら、最初の一週間ほどは、学校生活の説明に、教師や生徒の自己紹介などで埋まるらしい。意外とのんびりしている。今日も、これで解散となった。
早速、メイリンがタリアとおしゃべりを始める。ツトムの方にはクリスがやってきた。
「クリス、良かったら一緒に帰ろう」
ツトムが誘うと、クリスはちょっと困った顔になった。
「うん、だけど中央エレベーターまでだね。俺ん家、海浜エリアなんだ」
なら、メイリンと同じだ。祖父のナガト研究所も。
「ちょっと待ってね」
タリアに声をかける。
「帰りにちょっと工房に寄りたいんだけど、良いかな?」
二つ返事でタリアは了承した。メイリンと話し足りないらしい。良くそんなに話題があるな、と逆に感心する。
クリスが聞いてきた。
「工房って?」
「ああ、おじいちゃんの仕事場が海浜区にあって、その一角を僕の工作部屋にしてもらってるんだ。そこに寄るから、一緒に帰ろう」
クリスは白い歯を見せて破顔した。
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