第7話 龍の巣窟探検
目の前10メートル先に2人の門番が立っている。 洞窟の入口の両端には2つのトーテムポールが立っている。
トーテムポールには2頭の龍が天に登るかのように描かれていた。
右側の龍は赤く、時計回りに描かれており、逆に左側の龍は青く、反時計回りに描かれていた。
それが、どういう事なのか。
何を意味しているのかは分からないが、そこが龍たちの住処だということだけは確かなようだ。
「良し、行くぞ」
私とニャーレちゃんはリザードマンに変身した姿のままで2人の門番の間を通り抜けようとする。
心臓の鼓動が速く、大きくなる。
2人の門番の目が私達を捉える。
怖!
流石、リザードマンなだけはある。
黄色の瞳に、細く伸びた猫のような瞳。
ニャーレちゃん曰く、リザードマンの瞳はみんなそうなのだそうだ。
「おい、待てそこの2人」
うわぁ、いきなりこれだよ。
いきなりバレちゃったの!?
嘘でしょ!?
「今は竜王様の『御言葉』の時間のはず。それに、翼がないということはリザードマンか。ドラゴニュートは背中に翼が生えているからな。ワイバーンなら足が4本あるはずだし、それにワイバーンになられている方は今4名の方のはずだからな。怪しいヤツめ! 何者なのだっ!! お前達はっ!」
槍が邪魔で通ることが出来ない。
この状況大ピンチ。
どうするのよニャーレちゃん。
いきなり詰んじゃったよ。
「いや、ついつい忘れていてな。この先にある滝を友と一緒に見ていたのだ。これをやるからこのことは見逃してくれないか」
「こっ、これは・・・!?」
ニャーレちゃんはそう言って掌を差し伸べる。
彼女の掌に乗っていたのは砂金だった。
嘘!?
なんで?
さっきまでこんなの持っていなかったのに。
「き、金だ!」
見習いと思われるリザードマンは、ニャーレちゃんの手に持っている砂金を無理矢理掴み取ろうとする。
「それそれ。持っていけ」
なんと、ニャーレちゃんは両手に持っている砂金を空へと投げ飛ばしたのだ。
勿体ない。
「ほら、今のうちに行くぞ」
ニャーレちゃんの手に引っ張られて洞窟の中に入っていった。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
かなり奥まで来たかもしれない。
雫が滴り落ちる音しか聞こえない。
「私も欲しかったなぁ。砂金」
「あれは、ただの砂だ。錬金術で砂金に少し似せているだけだ。いや、そんなことはどうでもいいのだ」
「どうでもいいって・・・・・・」
「問題はここからだ。慎重に行こう。君はエルフだろう? 五感は鋭いはずだ。いくら妾が魔術に明るいと言っても先天的な才能には負けるからな。どうだ? 何か聞こえるか?」
目を閉じて、耳を澄ましてみる。
雫が洞窟の中を滴る音。
そして、人——
いや、ドラゴン、リザードマン達の声だ。
「聞こえた」
「本当か!」
「ここからまっすぐ30 メートル先に50 体程の龍族がいるわ」
「了解だ。ここからは歩いて行くぞ」
洞窟の中を慎重に歩くことになった。
湿った空気。
地面は、ジメジメしていてきもちわるい。
「我慢しろ。あと少しの辛抱だ」
竜族の声が少しずつ、少しずつ、大きくなっていく。
「ん? ここで道が別れているようだな。よし、ここで待ち伏せをすることにしよう」
「うん」
道が真ん中、左右の3方向に別れているのだ。
私達は、右側の隅に隠れて静かに待ち伏せをすることにした。
静寂の闇に溶け込む。
そう——
その姿はまるでアサシン。
月夜に照らされることも無く、ただひたすらに闇と化す。
闇より暗く、漆黒に。
暗闇と同化し、影に潜む。
光に照らされても彼らは陰となるのみ。
表に出ることは許されない。
それが、彼らの運命。
私達は今、暗殺者になるのだ。
音が——
竜族の足音がこちらに近づいてくる。
私とニャーレちゃんは、
ゴクリ、と唾を一口飲み込む。
彼らの楽しげな会話も聞こえてきた。
「流石、竜王様。今日も有難い『御言葉』を聞くことが出来た」
「そりゃ、私達竜族の王だからな。いや、神と言ってもいい。龍になった方はこの長い1000年の竜族の歴史に置いても竜王様ただ1柱らしいからな」
ガヤガヤと騒ぐ彼らの声が目の前を通り抜ける。
「ん?」
1匹のリザードマンが何か違和感に気づいたらしい。
「なんか、人間臭くねぇか?」
「確かに、言われてみれば人間の匂いがするな」
嘘でしょ!?
まさか、まさかここでバレちゃうの!?
それだけは、それだけは何としてでもやめたい。
お願い神様! バレないで!
神様信じてないけど。
私、無神教だけど!
両手で口と鼻を塞ぐ。
お願い!
どうか見つかりませんように!
「気のせいなのかな?」
「入口には門番もいるからな。ここに侵入することは出来ないだろう」
「確かにそれもそうだな。だははは」
リザードマン達の話し声は遠ざかって行った。
もう、大丈夫らしい。
何とか、バレずに済んだ・・・・・・のかな?
「よし、もう良いだろう。竜王の所に行くぞ」
正直、この先はあまり行きたく無いんだけど。
竜王かぁ。
どれだけ恐ろしい生き物なんだろう。
さっき、竜族が誕生して1000年経ってからずっと生きているって言っていた。
どんだけすごい人——
いや、龍なのだろう。
ちょっと、ドキドキするかも。
奥に進む。進む。進む。
すると、開けた場所が見えてきた。
両端には松明が掲げられている。
入口まで来た途端——
一気に空気が重くなった。
覇気と言ったほうがこの場合は正しいのだろう。
重厚で濃厚な覇気と、邪悪で禍々しい魔力。
恐怖で足が竦んでしまう。
身体中からドロドロと滝のように汗が流れ落ちる。
私がこんなに震えているというのに、ニャーレちゃんはケロリとした顔で前へ進んでいく。
「まっ・・・て・・ニャーレ・・・・ちゃ・・・ん」
何とか、声に出すのだけでも必死だった。
「行けるか? 怖いなら妾1人でも行くが?」
「私も・・・行く」
「ふん。強情な娘め。見た目は清楚なくせに負けず嫌いだな、君は。いいか、深呼吸をしろ。空気に圧倒されるな。次に、自分を信じろ。自信だ。それがなければここを通ることは出来ないぞ」
大きく息を吸って吐いて、深呼吸をした。
うん。大丈夫。
大分落ち着いた。
あとは、この一歩を踏み出すだけ。
自信。
私の自信。
エルフ族の中では、私は1番の弓矢の使い手だった。
大人にも負けていなかった。
でも、禁術を知ってしまった。
あの日、村でお祭りがあった。
私は、家族の手伝いをすることになっていた。
忘れ物をしてしまって、家に戻った時、私は父の書斎に入った。
ペンが必要だったのだ。
父の机の下に1枚の紙が棚の下に貼ってあったのに私は気が付いた。
その紙には、このエルフの村を滅ぼす計画を父が企てているということが書いてあった。
サインもしてあった。
その他の人の名前もサインしてあったけど、正直覚えていない。
私は迷った。
村か、それとも父親か。
葛藤の末に私が出した結論は父親を殺すことだった。
エルフの村が全滅してはどうしようもない。
何故、父がエルフ族を、私たちの村を滅ぼそうとしているのかは分からないけれど、このままではいけないと思った。
父は、村の隊長だったし、私がこんなことを村長に言っても信じてもらえないことは明らかだった。
子供の戯言だと、そう言って無視されるのは目に見えていた。
だから ——
私は、父を殺した。
そして、私は重罪人として村を追放された。
何も持たされずに。
村を出ていく私は死ぬしかない。
森は毒虫や猛獣が沢山いる。
手ぶらでは必ず死ぬ。
私自身も覚悟は出来ていた。
そう思っていた。
そこへ、あの少女が現れた。
ニャーレちゃんだ。
救いの神様だと、天使だとその時思った。
実際は真反対の魔王だったわけだけれど。
でも、そこからの生活はとても楽しかった。
魔王だからどんなにどんなに恐ろしいのかと思っていたけど、毎日なんか家、というか城でゴロゴロしているし、おっちょこちょいだし、悪いのか良い意味なのか自分でもよく分からないけど、私の中の魔王のイメージが一気に壊れた。
こんな人となら一緒にいてもいい。
そう私は思った。
だから——
私は、ニャーレちゃんともっと一緒にいる(イチャイチャ)するために、強くなりたい。
いや、強くならないといけないの!
そう思うと、どんな困難でも、恐怖でも立ち向かえる。
そんな気がした。
行ける。
「良し、行けるようだな」
「うん」
奥に進む。
大きい。
真ん中に、漆黒の龍が王座に座っていた。
「やはり、ネズミが2匹紛れ込んでおったか。全く、門番は何をしておるのだ」
胸に空気の振動が伝わってくる。
これがドラゴンなの?
鋼鉄よりも、鋼よりも硬いと言われる鎧を全身に纏い、オリハルコンをも砕くと言われる歯と爪は、反射して銀色に光り輝いて見えた。
その膨大な魔力を肌で感じて思う。
有り得ないと。
これだけの魔力を単体で保有するなど非常識だ。
正直、ニャーレちゃんの100倍は優にあるであろう。
それなのに、ニャーレちゃんはなんでこんなにも堂々としていられるのだろう?
「突然の訪問済まない。しかし、急を要する事態でな。私の名はブラッド・ファグニャーレだ。ドラゴンよ。話したいことがある」
「ふん。突然来て突然の質問か。魔王風情が我々龍王に命令など偉くなったものだ。だが、我は寛大なる龍の王——。サラマンダーだ。貴様の話を聞こうでは無いか」
「それは、だな」
ニャーレちゃんはそう言いつつ、サラマンダーに近づく。
が、段差があることに気づかなかったらしく、
「ぐへっ」
すっ転んでしまった。
「ちょっと、ニャーレちゃん大丈夫?」
心配して彼女の元に駆け寄る。
「ぷぷっ」
突風が頭の上を掠めたかと思うと、
「だははははははは!! 面白い! こんな間抜けた魔王は初めてだ! 貴様は親近感が湧く! 話を聞こうではないか!」
爆笑した。
龍が爆笑した。
洞窟中にサラマンダーの笑い声が鳴り響いた。
そこへ、何があったのかとリザードマン達が近づいて来たが、サラマンダーが部屋一帯に結界を張って近づかせないようにした。
「貴様は面白い。そう儂の勘がぴんぴん教えてくれるのじゃ。なんじゃ、魔王のお嬢ちゃん。教えてみい。だははは」
完全にサラマンダーはニャーレちゃんをおちょくっている。
これは、ニャーレちゃん怒っちゃうかも。
ゆっくり 起き上がったニャーレちゃんは、ほっぺたをパンパンに膨らませて相当ご立腹のご様子である。
陽気なドラゴンと超不機嫌な魔王、そして、魔王のご機嫌を直そうとするエルフ。
これ、どうなっちゃうんだろう?
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