第5話 旅行に行こう
「妾は忙しいのだ! その鬱陶しい手を退けてくれないか。妾は君と違って忙しいのだよ」
「や、やだ! ニャーレちゃんが行くのなら私も一緒に行く。お願い。私も連れて行って」
私は必死にニャーレちゃんに頼み込む。なんで、こんな事になっているのかというと・・・・・・
ーーーーーーーーーー
それは、研究室でニャーレちゃんと一緒にいた時のこと。私は図書館から取ってきた魔術の本を借りて、ニャーレちゃんは何か良く分からない魔術の研究に没頭していた。
しっかし、ここの図書館には薬草や魔物に関する本があまりない。いや、魔物に関する魔道書は結構あるか。召還や使い魔に関する本が多いけど・・・・。私が興味があるのは薬の素材になる魔物や植物なんだけれど、さすがにそんなものはこの図書館には無かった。
読書に飽きたので、ニャーレちゃんの研究を近くで見守ることにした。
私の事が気になるのか、時々私の事を見てくる。私は彼女がこっちを見てくる度に微笑んで見せる。
「ねね、ニャーレちゃん。そんなに私と遊びたいの?」
「別に妾は遊びたい訳では無い。君が妾の方をずっと見ているからだろう? あっちに行ってくれないか。気が散る」
こっちをちらりともしないでそんなこと言っちゃって。
「そんな事言って、実は嬉しいんじゃ無いの? エヘヘ」
「は? 私は今大切な研究をしているんだ。頼むから今は妾に近付かないでくれ」
あ、これは本当に集中しているやつだ。ちぇっ、しょうがないなぁ。邪魔しないように大人しくしておこう。
というわけで、私は研究室の中を探索する事にした。探索と言っても、狭い場所だからそんなにキョロキョロと動き回る事は出来ないんけど。
よくよく見ればここって不気味な場所だなぁと思う。
魔獣の眼球や爪、魔獣の赤ちゃんがなどの奇妙で珍妙な物がホルマリン漬けみたいに、瓶一杯に入れた琥珀色の液体の中に入れてある。
それに、変な液体がメスシリンダーの中に入っていたり、丸底フラスコの中に入っていたりしていた。
暇だ。
ニャーレちゃんが相手をしてくれないとほんとに暇だ。
部屋の中にある科学器具を弄っていると、急に歓喜の声が聞こえてきた。
「出来た! 遂に出来たぞ! 封印魔術を交えた液体が! これで魔物の捕縛が楽になった。さて、次はあそこに行かなければな」
ニャーレちゃんは、そう言って水晶玉に両手を翳かざした。
すると、水晶玉に映像が映し出された。
そこには、人——。
いや、リザードマンが暮らしていた。
槍や剣を持っていた。
性別までは私には分からないけれど、確かにあるのだろう。
彼らの家は、梁や垂木をつなぎあわせて家の骨組みを作り、その上から土や葦で作られた屋根が覆いかぶさっていた。
「これはどこなの?」
「ドラゴン族の住む島だ。この島はドラゴンが支配している。その下でリザードマンが住んでいるという構造になっている。リザードマン達はドラゴンを神聖視しているのだよ。でも、今は少し違うようだ。だから、調査をしようと思うのだよ」
「調査?」
「そう。調査だ。この島のな。ドラゴンがどのような存在なのか。場合によっては消さなければならないからな」
「なんで、消す必要なんてあるの?」
「そりゃ、この島にとって悪影響が出てしまうからな。魔王とは、この世界の魔物や魔獣を統べる者のことだ。だから、私は何か彼らに悪影響が出るようなことがあったらそれを排除しなければならない。それが、魔王たる者の責任だ」
真剣に魔王道まおうどうを語る彼女の目は真剣そのものだった。
か、カッコいい! 可愛くてかっこいいだなんて最高じゃない!
「あ、あの。ニャーレちゃん!」
「なんだ? うわっ! こら! 顔を近づかせるな君!」
驚いた顔のニャーレちゃんも可愛い。
「私もそこに連れて行って!」
私がそう言うと、ニャーレちゃんはムスッとした顔をして、
「ダメに決まっているだろう。下手したらドラゴンと戦う事になるかもしれないんだぞ。そんな危険なところに君を——」
彼女は続きを言いかけたが、はっとして口を閉じた。
ニャーレちゃんはそっぽを向いて、
「ふん。別に心配はしてはいないが、死んだらいけないからな。ここで君は待っていろ。べ、別にだからと言って君を心配しているとかそんなんじゃ無いからな! 勘違いをするんじゃないぞ!」
いや、私まだ何も言っていないんだけど……
でも、そんな事を言うニャーレちゃん初めて見た。
もうちょっと甘えてみようっと。
「ねぇ、お願い。ニャーレちゃん。私とニャーレちゃんの仲でしょ?」
「たかだか1週間で何の仲だと言うのだ? 良いから君は大人しくしていろ」
思ったより冷たかった。
ニャーレちゃんは私のことを無視して地面に魔法陣を描き始める。
「ねぇ、お願い。ニャーレちゃん。私、ニャーレちゃんの事もっと知りたいの」
両手を合わせてお願いしてみる。
「ダメに決まっているだろう。早くここから離れろ。シッ、シッ」
野良猫扱い!?
それでも、そう簡単に諦める私じゃない。
私にだって元エルフ族としての誇りはあるのよ!
「ねぇねぇ、お願いお願いお願い!」
「だぁぁぁぁ! 泣きつくな! 本当に面倒臭いな君は!!」
呆れられた顔で私の顔を見てくる。
肩を落として、深いため息を一つ吐くと、
「仕方がない。だが、2つの条件に従ってもらう」
「従うわ!」
「まだ、何も言ってないぞ! まったく。君って人は」
コホン、とわざとらしく咳をして言葉を続ける。
「1つ。私の側を離れない事」
「私がニャーレちゃんの側から離れるわけないじゃない」
「うるさい。2つ目は、私の命令に必ず従うこと」
「つまり、私はニャーレちゃんの下僕になれってことね」
「や、やかましいわっ!!」
ニャーレちゃんは、小さい拳をブンブン回して怒りを表現して来る。
一旦、彼女の気持ちが落ち着くと、
「この2つさえ守ってくれたら妾はそれで良い」
「絶対に守るわ!」
「本当か?」
じっとりとした目で私を見ていたけど、
「まあいい。とりあえず行くぞ」
私も一緒にドラゴンの住む島に行くことを許された。
やった! ニャーレちゃんとデートだ。
「ニヤニヤしてないで早くこっちに来るんだ」
「ふんふんふ〜ん♪」
魔法陣の中に足を踏み入れる。
「よし。行くぞ。準備は良いな」
「うん」
「テレポート」
ニャーレちゃんが言葉を発すると、目の前が真っ白な白紙の世界に包まれた。
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