第3話 魔王ちゃんとエルフちゃんの朝
「あだっ!」
頭に何かの衝撃を感じて私は目が覚めた。なんか、チクリ、というよりかはブスリ、という感じに近かった気がする。
痛みを感じた方を見ると、ブラッド・ファグニャーレが猫みたいに横になって、体を丸めて寝ていた。
「ううん」
か、可愛い。思わず、そのマシュマロみたいに柔らかそうなほっぺたをツンツンしたい。
でも、その寝顔をいつまでも見ているのも捨てがたいなぁ。
「でへへ」
おっと、いけないいけない。ついつい口から涎が出るところだった。
この魔王城に住むようになって今日で1週間目となる。ニャーレちゃん(私が勝手に彼女に名付けたあだ名。1週間この城の中でニャーレちゃんと一緒に住んでいて分かった事がいくつかある。
1つ目は、彼女自身は嫌がっているけれど)はこの城で唯一命あるもの——。魔力を自ら宿し、体内で生成し、心臓で血液を送り、他の生物の生命エネルギーを消費して身体エネルギーへと変換して生きる生物。つまり、『生き物』としてこの城の中で生きているのはこのニャーレちゃんだけだっていうこと。
2つ目は、防犯設備、テロ対策など、襲撃に対する警備体制は完璧だということ。この城の中にはニーニャちゃんが作った魔物や、それ以前にいた初代や2代目の魔王が作ったとされる侵入者、奇襲・襲撃対策用のトラップが無数に存在しているということ。城の中だけでもいくつあるのか分からないくらい沢山あるのに、この城の外はどうなっているんだって私は言いたい。
3つ目は、この城内が埃まみれで汚いという事。特に、魔術図書館や玄関の近くなんかそう。埃まみれでもうハウスダスト症候群になりそうな程埃が蔓延していた。理由をニャーレちゃんに聞くと、掃除をしてくれる魔物、使い魔がいないからだそうだ。
自分ですれば良いのではと聞き返すと、「そんな面倒くさい事を私がするわけないだろう。埃が溜まっても何も支障は無い。妾は病気になった事は無いし、妾の使い魔は病気になるほど落ちぶれていないのだ。だから、大丈夫だ」と言っていたけど、エルフ族の私が来たからにはどうにかして欲しいと思う。だって、私達エルフ族って人間族に似ているから人の掛かる病気に掛かり易いのよね。だから、私としては掃除をして欲しいというのが切実な願い。
最後の4つ目は、ブラッド・エルニャーレちゃん。通称、ニャーレちゃんがとっっっっっっても可愛いっていうこと! 彼女、魔王族っていうからどんだけ怖いのかと思えばーー。背は私と同じくらい(150cm)くらいでかなり低いし、魔王族としてのプライドがあるから結構勝ち気でツンツンしている所もあるけど、結構おっちょこちょいで可愛い所もあるんだなって最近思う。正直言って、私はニャーレちゃんの心のファンだよ! キャーー!!
「ねえ、ニャーレちゃん起きてよ。もう朝だぞ♪」
ニャーレちゃんのぽっぺたを思わず突く。「ううん」とか言いながら寝返りを打つニャーレちゃん。子猫ちゃんみたいでとっても可愛い。
「ほらほら。起きないと朝ご飯を食べちゃうぞ」
「君、朝からうるさいぞ。あっち行け」
「ぼへっ」
ニャーレちゃんの手が私の体に触れた瞬間、私の体が後方へ吹っ飛んだ。布団の外へと追いやられる。背中に直接床が直撃して激痛が走る。
「いったーい!」
「ふん! 自業自得だ。君」
そう言って、布団を頭から被るニャーレちゃん。
「ふふん。そんな事を言っても良いのかな?」
「なに?」
食らえっ! 秘密兵器『朝の日射し』。説明しよう。部屋に設置してあるカーテンを開いて対象者に太陽を光を浴びさせて目を覚まさせるという至ってシンプルな攻撃技なのだ(吸血鬼には効果覿面だぞ!!)。 なお、この攻撃技は、窓が無いと出来ないのだけど。
「えいっ」
部屋のカーテンを開けると、太陽の光。ではなく、月の光が部屋を灯す。
「ああああ。明るい。閉めてくれ。邪魔だ邪魔」
どうやら、かなりのダメージを受けているらしい。この調子ならあと一息で彼女は布団から出る。
布団を無理矢理引っ張って彼女を出させようとするけど、流石は魔王族の娘。力はかなりある。絶対に負けないんだから!
「ほら、出るよ。今日は城の中の掃除をするんだから。そう約束したじゃない」
「わ、妾はそんな約束していないぞ。君が勝手にコインの裏表を賭けて掃除するかしないか一人で盛り上がっていたんじゃないか。妾は無理矢理やらされただけだ! 横暴だ! 妾には拒否権がある!」
「あっ、そうやってまた面倒くさがって。そりゃあ、ニャーレちゃんや他の城の中にいる魔物ちゃん達は良いかもしれないけれど、私は魔法は使えるけれど、どっちかって言うと、魔物じゃなくて人間よりの生物なんだからね。あんた達みたいに体が丈夫なわけじゃないんだから。私が病気になっても良いの?」
一瞬、ニャーレちゃん。の体が反応したように見える。
「か、構わぬ。君がどうなろうが妾には一切関係無い」
ツンとした声で彼女は言った。
「そっか。それなら仕方が無いわね。私一人でやろう。ニャーレちゃんには絶望したよ」
そう言って部屋から出ようとすると、
「待て。君に掃除をされたらとんでもないことが起こりそうだから妾が手伝ってやる。か、感謝するんだな」
小声でそう言うニャーレちゃんの声が聞こえた。後ろを振り向くと、ニャーレちゃんがこっちを見つめていた。布団を両手で持って、唇の所まで持ち上げている。
「ありがとう。それじゃ、早く着替えて掃除をしましょ」
私は彼女に微笑んだ。
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