第63話 神野アセビは明日を目指す

 私とハルキくんは交代で仮眠を取って不測の事態に備えたが、結局朝まで何も起こらなかった。


 昼過ぎには、この研究所にも警察が踏み込んでくる。周防キリヤはセントラル襲撃事件の主犯として逮捕され、ホテル火災テロ、そして違法クローン培養の件でも追及を受けることになるだろう。

 逮捕状がどうとか緊急逮捕がどうとか、ハルキくんが里内本部長と話していた内容はよくわからなかったけど、とにかく周防キリヤについてはテロ対策本部に任せておけばいいらしい。

 

 業者になりすます予定だった襲撃者の特定は昨日のうちに終わり、今朝方、全員を毒物及び劇物取締法違反の疑いで拘留したという知らせも入っている。旭シノと連れの男も無事、身柄を拘束したそうだ。

 

 周防キリヤにもそろそろ異変が伝わっているかもしれない。だが、もうさすがの彼もどうにもできない段階まで事は進んでいた。


「今日一日、セントラルを守り切れば私たちの勝ち、ってことだよね?」


 セントラルへ移動する車の中で、念の為ハルキくんに確認してみた。

 

「ああ。周防キリヤ絡みで起こるはずのテロ事件が未遂で終われば、未来は分岐していくはずだ。少なくとも10年後の惨劇は避けられる」


 ハルキくんの頼もしい返事に胸をなでおろし、改めて気合を入れる。

 やがてセントラルの正門が見えてきた。

 立て看板や造花で華やかに飾られた正門の鉄扉が、大きく開け放たれようとしている。正門前に並んだ来校者達は賑やかにさざめきながら、文化祭の開始を待っていた。


 

  ◇◇◇


『こちらB棟3階です。今のところ異常なし』

『こちら実習棟1階。不審な人物は見当たらないよ』


 文化祭が始まってしばらく経った頃。

 サヤが持っている無線機のレシーバーに、次々と報告が入ってくるようになった。発表準備を終えたクラスメイト達が、隙間時間に見回りを始めてくれたみたい。

 私とサヤ、そしてマホは視聴覚室の防犯カメラをチェックしながら、報告と照らし合わせる作業を行っていた。

 入澤くんは電子ボードに表示された当日の事件を、起こるはずだった順に消し込んでいく係だ。ハルキくんは安全管理ルームで、若月先生は食堂で待機中だった。

 私たちは皆、遠距離テレパス用のヘッドセットをつけ、密に連絡を取り合っている。


「もうすぐお昼だね。――先生、そっちに異常は?」


 入澤くんがちらりと時計に目を遣り、若月先生にテレパスを飛ばす。


『変わりなし。食材と調理品のチェックは終わってるし、ぼちぼち来校者が来て食べ始めてるよ。文化祭用の特別メニューは一般客にも好評みたいだ』

「了解」


 入澤くんはホッと息を吐き、5番目の項目を消した。


「毒ガス散布はなし、っと。午前中に起きる予定の事件は、これで全部回避できたよ。安全管理ルームにも異常はないし、残るは体育館かな」

「マホが敵と戦ったのって、攻撃系グループの発表が終わってからだよね。発表までもあと一時間はあるし、私たちも先にお昼食べとかない?」


 私が提案すると、すぐにマホが賛成してくれる。

 

「そうしよ! 気を張ってたからかな。まだ何にもしてないのに、お腹空いちゃった」

「監視カメラをずっと見てるのも疲れるよ。じゃあ、交代で食堂に行きましょうか。先生や柊くんも休憩しないと――」


 サヤがそう言ったところで、無線機のレシーバーが鳴る。


『ねえねえ、見つけたよ! いかにもな恰好の奴らがテレポートしてきた! わ~、すご……武器とか本物そっくりじゃん。かなり本格的なんだね』


 能天気で明るいクラスメイトの声に、私達は顔色を変え立ち上がった。

 サヤは小型の送信機を掴み、噛みつくように応答する。


「すぐにその場を離れて! あなたの安全を確保してから、場所と相手の人数を教えて!」

『え? なんで?』

「いいから、早く!!」


 サヤの悲鳴にかぶるようにして、ハルキくんからの緊急連絡が飛び込んできた。


『旭シノの身柄が奪われた。例の襲撃者にやられたらしい。厳戒態勢に入ってくれ!』


 周防キリヤが動いたんだ。もう後がないと知った彼がどういう手に出るつもりなのか、私には予想もつかない。

 マホは無言でバングルの制御レベルを1まで落とす。

 サヤは送信機を両手で握りしめ、「お願い、一人にならないで!」と叫んだ。

 サヤの気迫に押されたのか、クラスメイトはしぶしぶ移動し始める。『ただの訓練にここまでやる?』なんてこぼしながらもその場所から抜け出したようだ。


『――はい、みんなと合流したよ。これでいい?』

「いいわ。どこでそいつらを見たの?」

『用具準備室だよ、体育館の。そこの窓から見たんだ。グラウンドの隣に実験菜園場あるじゃん。あそこに急に現れたの。20人くらいかな。人質役っぽい小さな子も一緒だったよ』

「ありがとう! 次の指示があるまでその場で待機するよう、みんなにも伝えて!」


 サヤの通信が終わるのを待って、私は入澤くんを振り返った。


「行ってくる。来校者の安全確保をお願い」

「わかった、気をつけて。マホちゃんもだよ、無茶はだめだからね」

「ケイシこそ。絶対、絶対すぐに来て。私の目が届かないとこにいないで」


 マホの心からの願いがこもった言葉に、入澤くんが力強くうなずく。

 テレポートを発動する直前、校内放送が聞こえてきた。


『――ご来校の皆様へ、プログラムの変更をお知らせします。ただいまより、グラウンド及び体育館エリアにおいて、侵入者撃退訓練が開始されます。実戦形式の発表となりますので、観戦者の安全は保障できません。現在対象エリアにいらっしゃいます来校者の皆様は、すみやかに退去をお願いします。――繰り返します』


 ハルキくんだ。安全管理ルームのメインコンピューターからなら、直接事務AIに干渉して校内放送を流すことが出来る。

 ほんと機転が利くというかなんというか。これなら、校内に散らばってるこっちの味方に何があったかすぐ分かるもんね。

 

 突然の校内放送が促す注意喚起に、セントラル中の雰囲気が変わっていくのを感じた。

 好奇、興奮、不安。穏やかに流れていた空気がみるみるうちに、熱せられていく。


「えー、なになに。なんの発表?」

「ほら、一年の鈴森サヤ。あの子らのグループ発表らしいよ」

「まじか、見に行こ!」


 視聴覚室の前を楽し気に駆けていく生徒達の声を背に、私達はグラウンドへと飛んだ。


 グラウンドと体育館へ繋がる通路は全て、武装した警備員により完全に封鎖されていた。

 体育館で発表準備をしていた生徒達は校舎へ戻され、野次馬しに来た生徒達も各所に立った警備員に押し返されている。


「ここから先は立ち入り禁止です。下がって! 下がって!」

「えー、なんで?」

「俺達にも見せてよ、ケチー」


 なんとも平和な言い合いが遠くから聞こえてくる。


 厳しい表情を浮かべてグラウンドの入り口に立っていたのは、警視庁からの視察という名目で来校してきていた里内さんだ。

 セントラルの外で待機していた特殊部隊に突入の合図を送ったのだろう、侵入者達を逃がさない為の包囲網はすでに完成している。機銃を構えた特殊部隊がずらりと並んで大きな輪をつくり、遠巻きに侵入者を囲む光景は圧巻の一言だった。


 対応がはやい! あと、規模がでっかい!

 これ、私達の出番はないのでは?


 里内さんは、突然現れた私達に驚いた様子もなく、かすかに表情を緩めてこちらを見た。


「どうも。やはり、動きましたね」

「ですね。仲間の合流を待って制圧に入ります」

「そのことですが、相手はプロです。ここはやはり私達で――」


 里内さんの言葉を遮るように、悲鳴があがった。

 グラウンドの中央から響いてきたその声に、ハッと視線を移す。

 侵入者の一人が傍にいた女の腕をねじり上げ、首筋にナイフを当てたのだ。怯え切った表情で震えている女性は、旭シノ、その人だった。


 黒づくめの男達の後ろから、一人の老人が姿を見せる。

 老人は小さな女の子の手をひいていた。その少女の姿には嫌というほど見覚えがある。


「――そういうわけにもいかないようですよ」


 遅れて合流してきたハルキくんが、静かに言った。

 ハルキくんの隣には、若月先生、そして入澤くんがいる。

 里内さんはやれやれと首を振り、「これも一応踏まなきゃいけない手順なのでね」と言ってメガホンを口に当てた。


「今すぐ武装を解除して投降しなさい」


 彼らの返事はなく、代わりに老人が少女に何かを囁く。

 少女は小さく頷き、無造作に左手を上げた。


「くる!」


 サヤが低く警告を発し、物理シールドを張る。

 すばやく補助に入った若月先生の後押しもあって、サヤの張った物理シールドは特殊部隊全体を包むように広がった。


 直後、可視化された半透明なシールドがビリビリと震える。

 少女が衝撃波を放ったのだ。

 彼女は攻撃が防がれたのを見ても、顔色ひとつ変えなかった。無表情のまま、次の指示を仰ぐかのように老人を見上げる。以前戦った時とは、明らかに様子が違った。


「もう、やめて! これ以上力を使わせないで!」


 旭シノが必死に身をよじって叫ぶ。

 彼女を拘束していた男は、黙らせる為だろう、旭シノの頬を強く殴りつけた。彼女の首が大きく振れ、唇の端が切れて鮮血が流れる。


「くそが……!」


 マホは地を這うような声で吐き捨て、私を見た。

 マホのギラギラと光る瞳が、我慢の限界を伝えてくる。

 地下研究所でひっそりと命を繋いでいた不完全な幼女の姿が脳裏に浮かび、頭の芯が軽く痺れた。


 そうだね。もうこれ以上、誰も使い捨てにさせちゃだめだよね。

 

「行こう」


 私の言葉に、全員が頷く。

 私は力を開放し、一瞬にして侵入者の目前に立った。もちろん皆も一緒だ。


 間近で見た周防キリヤは、年老いてはいるが弱々しくはなかった。

 端正で上品な顔立ちに凄みを加えているのは、過去視で見たのと同じ瞳だ。祖母が死んで何十年も経った今でも、彼の心は祖母の葬儀の日に留まったままなのだろう。


「未来を見たか?」


 周防キリヤが発した言葉は、それだけだった。

 彼は私だけを見つめ、答えを待っている。

 

 周防キリヤがどこまで知っているのかは分からない。

 祖母の力は強大だったという。彼女は自分の見た予知夢を、彼にだけは話していたのかもしれない。

 

【娘は悪者たちに奪われ、生きながら切り刻まれました。娘は死ぬより苦しい目に、何度も何度も合いました。娘は悪者たちに洗脳され、恐ろしい兵器になりました。心を失くした娘は、数千数万の人を殺してゆきました。――その夢はいずれ本当になると、王女様は知っていました】


 母さんが残したいばら姫の童話を思い出す。

 未来の私が何度も味わったであろう最悪の結末を、おそらく周防キリヤも知っている。

 

 今の私が見たわけではないから、どう返していいか分からない。黙ったままの私の表情から何を察したのか、周防キリヤは薄い笑みを浮かべた。


「あれが、お前の祖母が願った未来だ。ここで私を潰したところで何も変わらない。パワードがこの世に存在する限り、災厄はいずれくる。お前にも本当はわかっているはずだ」


 呪詛のように紡がれる言葉が、悲しい余韻を伴って辺りに響いていく。

 隣に立ったハルキくんが固く拳を握り締めるのが分かる。

 私は周防キリヤの視線を真っ向から受け止め、ゆるく首を振った。


「そうだとしても、私は生まれてきてしまった。両親に愛され、皆に守られ、ここまできた。この世界がどれほど汚くても腐っていても、少なくとも私は皆と生きていきたい。大好きな人たちを守っていきたい。未来の私だって、必死にあがいた。今の私が折れるわけにはいかないよ」


 周防キリヤは黙って聞いていたが、私が言い終えると「そうか」と短く答えた。


「私も同じだ。ここで折れるわけにはいかない。どうやら詰んでしまったようだが、早々に諦めてしまっては申し訳が立たない人がいるのでね」


 彼はそう言うと、軽く右手を振る。

 それを合図に、旭シノの首に当てられていたナイフが鋭く真横に引かれた。

 白い喉から鮮血を飛び散らせ、彼女はぽかんとした表情のまま、はく、はく、と唇を動かす。旭シノの瞳から光が消えるのを見て、マホは絶叫した。

 

 すぐ目の前で、手の届く範囲内で、力を持たない一般人が殺害された――その衝撃は、純血パワードであるサヤとマホに尋常じゃないほどのショックを与えてしまう。

 そうして動けなくなった2人から片づけていく作戦なんだろうけど、そうはいかない。

 

 何故なら、私が今見たのは【直近の未来】だから。


 周防キリヤが右手を動かそうと力を込めた瞬間、私は旭シノを捉えていた男の背後にテレポートし、渾身の力を込めて手刀をうなじに叩き込んだ。

 男は旭シノを抱えたまま、ぐらりと前に倒れていく。ハルキくんが素早く動いて男の肩を蹴り飛ばし、旭シノだけを受け止めた。


「ケイシ!」

「はいよ!」


 ハルキくんが入澤くんの名前を呼んだ次の瞬間には、旭シノは里内本部長の元へとテレポートしていた。

 周防キリヤは唖然とした顔で、私をのろのろと見遣る。


「知ってるんでしょう? 私にも未来が見えること」

「そうか。もう、そこまで開花してるのか……。出来ればこの手で叶えてやりたかった。私にも叶えられそうな、たった一つの願いだったのに」

  

 すまない、キク。


 周防キリヤは侘し気に瞳を細め、小さく呟いた。

 彼は軽く身を屈め、手を繋いでいた少女に「もういい。使い切りなさい」と囁きかける。と同時に、背後にいた男達にも目配せした。


 虚ろな表情をした男達は操り人形のように頷いたかと思うと、表情とは真逆の俊敏な動きで一斉に襲い掛かってくる。

 私とハルキくんは彼らの猛攻を防ぐのにかかりきりになった。

 殺さず無力化するには、あまりにも強い。少しでも気を抜くと、全身に穴を開けられてしまいそう。機銃を解体してもすぐに別の銃に持ち替えてくるし、それを解体すればサバイバルナイフで襲い掛かってくる。しかも彼らの連携プレーには隙がなく、一人ずつ潰していこうにもなかなか上手くいかない。

 戦闘のプロと呼ばれる傭兵相手に、付け焼刃で身に着けた技術で太刀打ちしようとする方が無茶だ。

 

 5秒でいいから自由になれたら!

 そしたら全員、パワーで吹っ飛ばしてやるのに!

 

 突如として始まった激しい戦闘に、特殊部隊は動きあぐねていた。

 あまりにも双方の動きが早いので、援護射撃さえ出来ないのだ。里内本部長の指揮の元、包囲網を縮めて何とか私達を援護しようとするが、少女が張り巡らせた防護シールドのせいである距離からは近づけなくなる。


 少女は防護シールドを張り巡らせながら、更に深く息を吸った。

 彼女が息をする度、小さな唇から赤い泡がこぼれていく。

 みるみるうちに少女の周りに力が集まり始まる。彼女は全ての能力を出し切り、ここにいる全員を焼き滅ぼすつもりだ。

 

 いち早く力の発動を察知したサヤが、両手を掲げる。


「やめてっ! もうやめなさいっ!!」


 サヤは大声で呼びかけ精神ヒーリングを施そうと試みるが、少女は目と心をしっかりと閉じ、誰の干渉も受けつけない。

 サヤは何度も繰り返し能力を放ったが、変化はなかった。少女の溜め込む熱量だけが膨れ上がっていく。

 

「どう、して……っ!? こんなことして、何になるのよ!」

「サヤ! 諦めるな、ここが正念場だよ!」


 ぶるぶると震えるサヤの手に、マホが手を重ねる。

 2人はパワーを同調させ、少女の発火能力を抑え込もうと両足を踏ん張った。

 その力をそのまま精神攻撃に切り替えれば、少女はあっけなく散るだろう。それをしないのは、おそらくあの夜の会話のせい。


【向こうは話し合いなんか望んでないし、力を使わなきゃいけない場面も絶対くると思う。――でも、私達の方が力は上だよ。なら、殺さず捕まえることだって、出来るよね?】


 そう言った私に、マホとサヤは頷いた。


「こっちにきて! あなたのその力は、そんな風に使うものじゃない!」


 サヤが叫ぶのと同時に、マホがとっておきの力を開放する。

 マホとサヤが重ねた手に集まっていく眩い光に、少女は閉じていた目を開いた。彼女の瞳は光を捉えると、感嘆するかのように何度も瞬く。


「おいで、大丈夫だよ。私たちが教えてあげるから」


 マホが優しく囁いた直後、少女の全身が光に包まれた。

 少女は愉悦に身を浸すかのような表情を浮かべ、ふわり目を閉じる。途端、私達を囲んでいた防護シールドがさらさらと消え始めた。


 戦意喪失を見てとった入澤くんが、素早く少女を里内さんの元へとテレポートさせる。

 いつの間に駆けつけてきてくれたんだろう、そこには湊先生をはじめとした医療スタッフが勢揃いしていた。能力センターの主治医の先生までいる。


「呼吸確保! 点滴頼む!」

「担架に固定完了、センターへ転移させます!」


 旭シノ、そして少女はあっという間に白衣の集団に取り囲まれ、能力医療センターへと運ばれていった。

 

「こっちは任せて! がんばれ、皆!」


 父さんが大きく手を振るのが見えた。父さんはそれだけ言うと、医療スタッフの後を追って姿を消す。

 サヤは嬉しそうに微笑み、軽く両腕を回し始めた。


「ヒビキさんがついていてくれるなら安心だわ」

「小さい子の相手、上手そうだもんね~」


 感心するように言ったマホに向かって、サヤは得意げに胸を張る。


「上手そう、じゃなくて上手いのよ」

「はいはい、初恋だもんね」


 2人は顔を見合わせてプッと噴き出した後、表情を改めて向かってくる敵に対峙する。

 マホは入澤くんがいる場所まで下がり、遠くから精神攻撃を開始した。それまで全く疲れを見せずに攻撃し続けていた傭兵のうちの半数が、急に動きを鈍くする。


「アセビも下がって!」


 生命力に満ち溢れた美しい横顔を見せ、サヤが私を追い抜いていく。

 サヤは両手を広げて、敵の前に立ちはだかった。彼らは一斉に新しい銃を取り出し、サヤを狙う。

 鋭く放たれた銃弾がサヤに届くことはない。彼女はそれら全てを受け止めると、そのまま彼らの元へと撃ち返していった。彼らが撃てば撃つほど、彼らの仲間が倒れていく。

 サヤは天才的なコントロール力を見せつけ、銃弾を撃ち返すのと同時に彼らの急所を守った。派手な血しぶきはあがってるけど、致命傷にはなってない。


「なにそれ、カッコよすぎでしょ!」


 私も負けじと、銃を捨ててナイフに持ち替えた男達を狙っていく。

 硬い空気の塊を作って彼らの手にぶつけ、ナイフを捨てさせる。地面に落ちたナイフは知恵の輪みたいに丸めてやった。

 ハルキくんは乱戦の中を駆け抜け、呆然と立ち尽くす周防キリヤを取り押さえた。

 彼はズボンのポケットからハンカチを取り出し、もがく周防キリヤの口にねじ込む。更に結束バンドで両手の親指を背後でがっちり留めてから、ハルキくんは里内本部長に合図を送った。

 

「全員確保!」


 里内さんの号令で、特殊部隊の前衛メンバーが一気に突入してくる。

 私達は巻き込まれないよう、速やかにその場を離脱した。


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