僕から始めるダイアリー

Say.We

第1話 変哲もない

 いつか、はじまりとおわりはやってくる。

 今だったら 素直に言える。

 僕が生きてきた意味が何だったのかを。

 その理由を。


 与えれた時間は実は本当は限りなくて、

 どれだけの事ができるのか。 わからないけど。

 途方もないようだけど、 少なくて。

 短いようだけど、濃厚で。

 細くて長いようだなけと、太く短くて。

 でも、悔やまない程幸せな時間が転がっていた事に気づけない。

 否、まだやり直しは効くんだ。

 動けない自分自身がそもそもの問題なんだ。


 三年前、友人との遊び帰り。日曜日の夜の総武快速線、成田行き。

 車掌席から覗き見える縦方向に続く線路は、きっとどこまでも連れていってくれると勝手 に思い込んでいた。

 だが今のところ、僕自身に確固たる希望はない。周りの冬の幸せそうな景色を見ていても、羨ましくは感じていても達観するより他、ない。


 おーい。幸せよ。

 お前は俺の横を素通りしかできないのか。

 神様は不平等しか与えないのか。

 その問いかけに返事はない。


 きっといつからか自分自身が本気になったり、熱をあげたりするのが怖くて億劫になっていた。

 それ以上に誰かを傷つけたらどうしようとか、自分が深手の傷を負ってしまったら二度と立ち上がれないのではないだろうか。

 そんな散々な目に遭うくらいだったら何にも差し障りがない程度に、触れなければいい。自分からリスクを冒す必要は一切ない。

 気持ち悪い奴は気持ち悪い奴のままでいい。

 それこそどこか気のいいお兄さんであるなら、そのキャラのままでいる事に対して誰に文句を言われる筋合いがあるんだ。とも思う。

 自分のしあわせなんてそんな大それた富のように大げさなものはいらない。

 発足や、誇張や、虚勢を張る必要もない。

 そんな風に思い、僕の本当の心を知ってもらう必要なんて一切ない。

 とさえ、口にするようになってしまっていた。


 だが幾ら人との距離を遠ざけようと心掛けていても、自分自身をサーカスで演じるピエロに見立てて行動したり、見せようとしても、本当の所はどうなのか。

 必ず僕の影は迫って囁いてくる。

『ねえ。本当に……』

 ホントウニソレデイイノ?

 ホントウニソレデ……


「…さん。行田さん!」

「ん。ああ…… 何だっけ」

「ぼうっとしないで下さい。サービス開始の期限迫ってるんですから、もうちょっと身ぃ入れて下さいよ」

「悪かった」

 しがないサラリーマン。幾ら表面を装っていても僕は行田 良一というしがない名前で気づけばもう三十七歳になってしまっていた。これといった趣味も…… そうだな、趣味も最近はなく土日はだらんと過ごしている事は多い。

 見ての通り独身。ぱっと見、清潔感も生活感の塊もない、奇人、変人の分類に位置付けされている。よくオタクと勘違いされるきらいがあるが特別知識が深い訳でもなく、本当にオタクの奴らと話すとすぐにメッキがはがれるレベルのオタクだ。

 唯一の長所というと案外人あたりがいい所と、思ったより広範囲で業務に首を突っ込んでみて、重宝という事とは名ばかりの都合の良い奴だ。

 最初はそんな人間に存在価値なんてあるか、とか、死んだって困る奴はいないよとか口では言っていたが、案外時々上司と飲んだり、後輩と飲んだり、同僚と飲んだり…… としていると、捨てたもんでもないんだなと客観視、傍観しながら思ったりする。

「よし。じゃああと三十分でキリのいいとこまでやっつけて、ちょい飯でも食って帰るか」

「はい!」

 いつから僕はこんな平々凡々に慣れて、つまらない人間になってしまったのだろう。このくだらない世界で生きる事を善しとして、何かの歯車になろうとつまらない努力や意地を張るようになってしまったのだろう。

 今日もビールを片手に、焼き鳥に相手をしてもらいながら、

 また同じ事の繰り返し。そうして夜が更けて、朝がやって来るのだ。

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