第12話 赤宮家
竹やぶの中に通った一本の道。
横幅1mほどの道には砂利が敷いてあり、歩くたびにジャリジャリと音がする。
空高く伸びる竹によってあたりは日陰になっていて、真夏の日差しはもはやぼくにまで届かない。早朝だと言うのにこの道だけは随分と暗かった。
先へと続く砂利道もまっすぐではなく右へ左へとグネグネしていて、目的地までのルートをわざと迂回しているように思えた。そのせいでこの道があとどれくらい続くのか、竹やぶだらけの視界がいつ拓けるのかがちっとも分からない。
結局、入り口から200mほど歩いたろうか。
最後に左へと道を曲がると、そこで竹やぶは終わっていた。永遠のように思えた先の見えない砂利道の終わりには高さ5メートルはあろう大きな門がそびえ立ち、こちらに向かってその大きな口を開いている。
そしてその門の向こうには、ぼくが想像していたよりも遥かに広大な敷地が広がっていた。
まじですか。
本当にここが
「
もっと廃れて小ぢんまりとした神社を想像していたのに思いっきり予想を覆されてしまった。大豪邸じゃねえか。
想定外の現実に圧倒されしばらくぼーっと門前で立ち尽くしていたが、奥の方に人影が見えてぼくは我に返った。いつまでもこんなところに突っ立ていても仕方がない。今日は許嫁の家に挨拶をしにきたのだ。
・・・それにしても、うちみたいな何でもない家がどうしてこんな由緒正しそうな神社と繋がっているのだろうか。ぼくの知る限り、
ぼくは門をくぐって
奥に見える人影に向かって近づいていくと、どうやら掃き掃除をしているおばあさんのようだ。赤宮さんのおばあちゃんだろうか。あちらもぼくに気付いたようで、ホウキを動かす手を止めてぼくの方に軽く会釈をしてくれた。
「おはようございます」
改めてそう挨拶をすると、優しそうな笑顔が返ってきた。
「おはようございます。ご参拝でしたらこの道を真っ直ぐ行った先になります」
「いえ、参拝ではなくて。こちら赤宮さんのお宅でお間違いないでしょうか?」
ぼくが尋ねると、おばあさんは「ああ」と全てを察したように頷いた。
「
「様」だって。
何だか急に偉い人になったみたいな変な気持ちになる。
「
早朝訪問に至った言い訳をしながら、ぼくは自己紹介を済ませる。
「それはそれは、長旅お疲れ様でございました。ご案内させて頂きます」
物腰低く丁寧な言葉遣いのおばあさんに導かれ、ぼくは狐狸神社の奥へと向かった。靴を脱いで建物の中に入ると、そこはまるで時代劇のセットのようだった。修学旅行で京都に来た時、どこかの神社でこんな風に廊下を歩いた気がする。その時は観光用の回廊だったが、今ぼくが歩いているのは関係者しか入れないであろう場所だ。
うまく言えないが、なんとなく古き良き日本の匂いが感じられるような気がした。
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