第10話 珍道中
「なるほどな、確かに赤宮に入る人間だと言うのならば、お前のその態度にも合点がいく」
どうやらキツネさんは勝手に納得したらしい。それまでの鋭い視線はスッと消えて、ようやくぼくに対しての警戒を解いたことがわかった。って言うか普通に考えたら警戒するのはぼくの方じゃないだろうか。このキツネ、妖怪なんでしょ?
「それで、その狐狸神社ってどこにあるんですか」
「お前そんなことも知らないのか」
「京都に来るの、中学の修学旅行以来なんですよ」
「・・・まあいい。赤宮の案件なら俺様がわざわざ出張る必要も無いだろう」
そう言うと、キツネさんは突如赤い何かに包まれた。それは炎のように地上から上空へと向かって立ち上り、一瞬で消えた。そして、そこに立っていたのは、すらりと背の高い1人の青年だった。
「ほら、案内してやるよ」
その声は、キツネさんの声だった。
まさしくこれこそ「人に化ける」というやつだった。
面食らったぼくをみて、キツネさんは不思議そうに首を傾げた。
「どうした?キツネにつまれたような顔して」
・・・まさかキツネにそのセリフを言われるとは思わなかった。
ぼくはリュックを背負い直して、キツネさんのあとをついて鴨川の河川敷を進む。
キツネさんが化けた男は、身長180センチはあろう高身長のイケメンだった。年齢は20代後半くらい、どう考えても俳優レベルのルックスを誇っている。暗い色のジーンズに半袖の紺色シャツ、頭には黒いハット。そのままファッション誌に載っていそうな風貌で、よもやその正体がキツネだなんて分かるはずがない。
「なんだ、ジロジロ見やがって」
「キツネさんって化けるのが上手なんですね」
っていうか、明らかにぼくよりオシャレだ。こっちは白の無地Tシャツにデニムというスーパーシンプルな格好である。キツネのくせに現代のファッションに精通している感じがちょっとムカつく。
「びっくりすると耳とか尻尾だけ出てきちゃったりするんですか?」
「そんなヘマするわけねえだろ、何年妖怪やってると思ってんだ」
何年やっているのだろう・・・。
聞いてみようかと思ったが、途方もない回答が返ってきそうな気がしてやめた。キツネさんはスタスタと迷いのない足取りで鴨川を上流の方へ向かって歩いていく。
鴨川にはその名の通り数羽の鴨が泳いでいた。スイスイと静かに行ったり来たりしていて、なんというか実に平和だ。今こうしてぼくを先導しているのがキツネの妖怪だということを除けば、全てがうまくいっている気がする。
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