第9話 問答2
ぼくはおにぎりの最後の一口を食べ終えたので、冷静にリュックの中からペットボトルのお茶を取り出した。飲んで、リュックにしまう。
「のん気かよ」
キツネにツッコミを入れられてしまった。
「俺様が誰だか分かってんのか?この俺様を前にして悠長に握り飯食って茶を流し込むようなバカ、日本中を探してもそうはいねえぞ」
褒められているのか、それともけなされているのか、いまいちよく分からない。
「お前、見た所まだガキだろ」
「一応、明後日で18歳になります」
「クソガキのくせにその態度、本当にお前は何者だ」
ものすごく褒められているような気がする。確かに喋る二足歩行のキツネを前にしてここまで冷静に会話ができる高校生は、日本中を探してもそこまで多くはないかもしれない。田舎者でたまにタヌキの死体とかを道端で見るので、ちょっと耐性がついているのかもしれない。知らんけど。
「許嫁に会うこと。お前の目的は本当にそれだけなんだな?」
「はい、そうです」
まあ、あとは京都観光とか。
「分かった、じゃあさっさと会いに行け」
「だから分からないんですよ、許嫁の家の場所」
「自分の嫁になる女の家がどうして分からねえんだよ」
それはもうキツネの仰る通りだった。許嫁に会いに来てその所在が分からないなんて、どう考えてもぼくの方に問題がある。いや、でもこのご時世にネット検索で見つからない神社の経営方針にも、いささか責任はあるんじゃないだろうか。
「神社らしいんですけど、キツネさん知ってますか?」
「俺様をキツネさんって呼ぶんじゃねえ」
キツネに怒られた。さん付けしただけマシだと思うが。
「じゃあ、なんと呼べば?」
「うーん・・・」
キツネさんはしばらく考え込んでいたが、何も思い浮かばなかったらしい。ぼくの質問をシカトして話を進めた。
「お前が探してるの、なんて名前の神社だよ」
「キツネとタヌキと書いて「狐狸神社」ってところです」
「狐狸神社だと!?」
キツネさんはここで初めて表情を変えた。今までは一貫してぼくを警戒しているようだったが、この時ばかりはひどく驚いた様子で後ろに飛びのいた。飛びのいても二足歩行はそのままだ。
「ってことは、お前が赤宮の娘をもらうのか?」
「キツネさん、知り合いなんですか」
「知り合いも何も、赤宮を知らねえ妖怪なんて京都中探したって居やしねえだろ!」
ここで改めて発覚したのだが、キツネさんは妖怪だった。
そりゃそうだよなと思った。喋るし、赤いし、二足歩行だし。
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