第6話 宛てもなく

バスの乗車率は50パーセントと行ったところだろうか。

座席に余裕があったので乗車してすぐのところにあった2人がけの席に腰掛けた。訪日観光客、地元のじいちゃんばあちゃん、数人の若者、といった面々がバスに揺られながらそれぞれの目的地へと向かう。


この中でおそらくぼくだけが目的地を持たない。

というか、目的地がどこにあるのかが分からない。


母からの連絡で発覚した衝撃の事実だが、ぼくを京都に向かわせた張本人の祖母は栃木県日光市に観光旅行に出かけてしまったらしく、数日は連絡が取れないらしい。祖母は携帯電話を所持していないのだ。

『ちなみにお母さんはその神社知りません』という絶望的な締め言葉とともに、母から可愛らしいスタンプが送られてきた。終わった。


ぼんやりと車窓を眺めながら、ぼくはこれからどうしようかと考える。見つからないものは仕方がない。ここで慌てたところで何の解決にもならない。せっかく8時間もかけて京都に来たんだから、ちゃんと観光しておかないと勿体無い。どうしよう、どこに行こう。金閣寺とか行きたいな。


こうして割とあっさり現実を受け入れられる能力は、おそらく両親からの遺伝だろうと考察する。父も母も、大切な一人息子が京都の地で途方に暮れている状況を知りながらも『頑張れ』的な応援の言葉をよこすのみである。具体策は投げてくれない。おそらく阿呆なのだろう。阿呆と阿呆の子供なので、ぼくも阿呆なのだろう。バスに揺られているうちに不思議と絶望感も薄れていった。お腹が空いたのでどこかで腹ごしらえがしたい。


自分が今どこを走っているのかもよく分からないが、ちょうどお婆さんが降車ボタンを押したので「河原町今出川」というバス停でぼくも降りることにした。「3乗車以上するなら一日券がお得!」という広告が貼ってあったので、これを買おうと決意。降りる際に運転手さんが手慣れた様子で一日券を販売してくれた。どうやら600円で一定区間内が乗り放題らしい、すごいな京都。

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