第5話 途方に暮れる田舎者

ぼくは激怒した。


今どきネット検索に引っ掛からない神社なんてあるのか?

地図アプリは百歩譲って仕方ないにしても、各種SNSにたった一つの情報すら載っていないなんてことがありえるのか。ありえていいのか。これはもう経営努力が足りていないとしか言い様がない。くそったれ。どうせ「古き良き経営方針で〜」とか言って時代のニーズを考えることもなく、やがて参拝客も低迷、もはや廃れ果てた神社なのだろう。


何が「由緒正しき神社」だよ。

どこにあるかさえ分からないじゃねえか。


ぼくは京都に到着して5分で絶望し、激怒した。まだ序盤も序盤である、壁にぶつかるのがあまりにも早過ぎやしないか。どうして事前に神社について調べておかなかったのかと後悔したが、時すでに遅し。


「着いてから調べればいいや」などと悠長なことを言わずに、出発前に調べておけばよかった。こうなってくると狐狸神社があるかどうかも怪しいし、最悪の場合、赤宮家なんてものが存在するかどうかさえ疑わしいんじゃなかろうか。【受験生が貴重な夏休みを返上して京都に行ったら、許嫁なんて存在しませんでした】。笑い話にもならない。


時刻は早朝6時を回った。徐々に人の数も増えてきた。

いつまでも停留所にいても仕方がないので、人の流れに吸い込まれるように京都駅へと向かった。京都駅は駅構内も広大な広さを誇っている。学生にとっては夏休みだが、社会人にとってはただの月曜日だ。駅にはスーツ姿のサラリーマンが多い。


行く宛もないままぼんやりと歩いていると中央口へ出た。オシャレなデザインで、日本人にも外国人にも受けそうな芸術性がある。駅構内と外は明確に区切られておらず、屋内と屋外の境界線が混ざり合っている。どこまでもオシャレで素敵だ。京都、すごい。

こんな早朝だというのに大の人が行き交っている様には「都会」を感じざるを得ない。


駅の外には巨大なバスロータリーがあって、初見では到底乗りこなせないような数の市バスが走っていた。バス専門の巨大な原稿掲示板までそびえている。その向こうには京都タワーも見えた。


キョロキョロしているぼくは観光客感丸出しの田舎者だなあと俯瞰しつつも、手詰まりの現状に半ばヤケクソ状態である。田舎者で何が悪い。


絵の具で塗りつぶしたみたいに爽やかなスカイブルーの空の下、

こんなにもグレーな気分になることがあっていいのだろうか。


早々に行く宛を見失った田舎者のぼくは糸の切れた凧みたいにフラフラと中央口をさまよい、やがて目の前にやって来たバスにふらりと乗り込んだ。このバスがどこへ向かうのかは分からない、これからどうすればいいかも分からない。パッパラパーだ。



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