第3話 真夜中のまどろみ


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パーキングエリア。


ぼくは500mlのミネラルウォーターを飲み干し、トイレに寄ってからバスへと戻った。相変わらず車内に会話はなかった。どこかの席から聞こえてくる野太いいびきの音だけが、規則正しいリズムで車内に響いている。


幸運にも隣の席には他の乗客がアサインされておらず、ぼくは1人で2つの席を使うことができた。窓側の席に腰掛けて、隣にはリュックを置いた。


乗客の確認を終えると、再びバスは動き出した。

何の未練もなさそうにパーキングエリアを後にすると、スピードを上げて進んでいく。車内の電気は落とされ、車内は暗闇に包まれた。高速道路を走る大型バス、視界は真っ暗、小さな揺れが心地よく体を叩く。カーテンから窓の外を覗くと、等間隔に設置された街灯が夜の闇を削っていた。その単調な道のりは、永遠に続いているかのように思えた。


暗闇で満ちた車内に視線を写す。

ある席には読書灯が点いていた。

また、ある席ではスマホ画面の明かりが漏れていた。


不明瞭な視界のままで、ぼくの体は時速100キロほどのスピードで京都へ向かっている。不思議だ。夜行バスはまるで宇宙船のようだなと思った。宇宙船に乗ったことはないけど、暗闇の中を進むと言う意味では似たようなものだろう。


読書灯を点けてポケットからメモ帳を引っ張り出した。

「夜行バスは宇宙船みたいだ」と書きなぐった。それから直ぐに電気を消した。

ぼくは目を閉じて、京都のことを考える。


許嫁の名前は、赤宮一花というらしい。

あかみやいちか。年齢はぼくの一つ下、17歳。

京都の神社の一人娘で、いわゆるお嬢様らしい。


そんないいところのお嬢様と、クソ田舎出身の芋臭いぼくがどうして許嫁になっているのか。細かい理由は言い出しっぺのばあちゃんですらよく知らないという。

「ずっと昔から決まっていたことだ」と言うが、真意のほどは定かではない。


容姿は不明、性格も不明、ほとんどすべて不明。

本当にそんな人がいるかどうかもよくわからない。

こんなにもぼんやりとした訪問があっていいのだろうか。


(・・・めちゃくちゃブサイクだったらどうしよう)


自分の容姿を棚に上げそんなことを思いながら、気がつけば眠りについていた。それからは1度も目覚めることなく、パーキングエリアについたことにも気付かずに、ぼくは深い眠りに落ちた。


世の中には枕が変わっただけで眠れないと繊細な人も存在するらしいが、どうやら僕は枕どころか座ったままでも簡単に寝付ける人間らしい。よくよく考えたら、土と虫に囲まれて育った田舎者がそんなに繊細なわけがなかった。田舎者は全員図太い。

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