episode8 ナンパしてるつもり

 心臓の音が鼓動する。


 いつもと違う緊張である。



 今日は初めてクラブに行く日である。その緊張と雅の知り合いの男、中が来るという緊張の2つの緊張であった。

 特にクラブの話になってから、雅の知り合いの中という男が来ると聞いたので、クラブに行く男はどんな人か?怖い人なのではないかと思っていたのだ。


 雅と連絡をとり、ファーストフード店で待ち合わせする事になった。待ち合わせ時刻は22時で、15分程前に到着し、ポテトとコーラを頼み待っている。少し待ってると雅が到着する。もう1人の男、中はもう少しで来るとの事だ。とりあえず、2人で食べ飲みして待ってると、雅の携帯に連絡が入り、もう来るとの事だ。

 壱はどんな人が来るのか緊張していた。すると、「お待たせしました。」と1人の男が現れる。ふと、見上げるとそこには、いかにもクラブに行きそう屈強なムキムキの肉体を持ったとは全くの真逆の普通の青年であった。その男が飛騨中ひだあたるであった。



 飛騨中、22歳の大学生。彼は北海道の千歳で生まれる。身長は170㎝で韓国風の彫りの深い標準体型の男である。

 彼は大学生活のありきたりな生活にうんざりし、また、女の人との出会いも求めていた。しかし、彼もまた、逆四天王な男で、女の子を楽しませれるような男ではなく、女の子を前にすると緊張してしまう。しかし、そんな彼はバンドのボーカルをやっており、ライブの時の彼は輝きを放っていたのだが、ライブで女の子を捕まえれるのは四天王なバンドマンのみで中には難しかった。

 彼は何かを変えたいと思い、街コンに参加したのだ。もちろん彼は逆四天王なので街コンの結果は言うまではないが、その時の街コンで同じ席に座ったのが雅であった。

 そして、中もまた雅の街コンでのトーク力に惹かれ、雅の連絡先を聞いて、壱と雅がクラブに行く流れを聞き、参加を申し出たようだ。


 壱はクラブに行く男と聞いていたので、どんな怖いやつが来るかと思ったが、普通の青年が来て安心した。会った瞬間に壱は中によろしくと固い握手をした。

 そこから少し、3人で話をする。中はクラブには一度だけ行った事があるようで、壱はその話を詳しく聞いた。

 なんと中は初めて行ったクラブで女の子から話しかけられたようだ。何時からいるんですか?と話しかけられたのだが、もじもじしてしまったらしく、女の子はキモい!と行って居なくなってしまったようだ。その時の失敗を今日は晴らしたいとの事なのだ。

 壱は思った。向上心のある男だ。そんな話をしながら、3人の結束力もつき、クラブに向かうのであった。

 23時頃にクラブに到着し入る。

 クラブの中に入ると聞きなれない、パリピな音楽が流れ始め、頭から足の先までクラブミュージックが響き渡る。

 まずは、ドリンクカウンターでお酒を頼む。クラブで定番のレッドブルのお酒である。そして、クラブのフロアに行くと、衝撃が走る。


 想像していたようなムキムキな男やケバいギャルもいるのだが、それ以外にもどこにでもいそうな男や普通の可愛らしい女の子達もいる事に驚いた。

 こんな世界があったなんて、、、今まで知らなかった事を悔やんだ。

 しかし、クラブは初めてで、雅や中も経験は少ないのでどうやって女の子と仲良くなればいいのかわからなかった。ましてやクラブミュージックなんて知らないので、テキトーに縦や横に揺れてリズムを刻む程度しかできない。とりあえず楽しんでる風に女の子に近づく、しかし、声掛けなんて出来やしない。近くにいる女の子にぶつかった風に少し肩を抱く様な感じでわちゃわちゃしているだけなのだ。


 こうして3時間ほど踊っている3人は疲れ切っている。女の子と大して接する事は出来なかったが、初めての異空間にストレスが発散されるのと同時に音楽が好きな壱にとっては楽しい時間であった。また、行きたい。そう思ったのだ。

 その後、終電が無い3人はネットカフェに行き、反省会をした。何が悪かったのか?根本的に声掛けしてない事それが1番に挙がった。ただ声掛けするのも勇気がいる。初心者は特に地蔵になりやすいのだ。

 ※地蔵とはナンパするときに声掛けようと思っても出来ず地蔵の様に固まる事を指す。



 だが、声掛けしようともしてないので、次は声掛けてみようと3人は誓った。

 こうして初めてのクラブナンパは一度も声掛けしないで終えたのであった。

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