episode 5 価値観の変革

 熱い、とても。といっても気温ではなく。




 携帯が熱い。



 5時間連続で稼働していたからだ。街コンを調べるのに。



 壱は勉強熱心になっていた。今までならなんとかなるさ精神だったのにもかかわらず、街コンについて研究していたのだ。

 それほど、愛菜と連絡が取れなくなった事が悔しかったのだ。今まで、一度遊んだ女の子と連絡が取れなくなる経験なんてなかったから尚更である。もちろん、街コンという全く何の関連もない人と出会う事自体が初めてではあったのたが。

 リアルに知り合った人ではないからこそ、連絡を取らなくても女の子としては、何の支障もないのだ。これが、大学のゼミ一緒とかになると嫌でも連絡は返してくれるだろう。



 その悔しさを晴らす為、壱は街コンに行きまくる事を決意した。そして、あの四天玉三郎みたいになりたかったのと、街コンに行けば彼にまた会える気がしたからである。

 一応四天の連絡先は知っていたが、あれから1カ月近く連絡してないので、忘れられてると思い、連絡していなかったのだ。

 そして、壱は1カ月の間、10回街コンに申し込んだのだ。週末はもちろんの事、平日にも申し込んだ。街コンの参加費だけで5万を超えた。しかし、そんな事は気にならないほど、壱は街コンに打ち込んでいた。


 着席型

 1人参加限定

 20代限定

 年の差カップルコン

 ハイステータスコン

 フリースタイル

 100人規模の街コン

 メガネ男子限定



 様々な街コンに参加した。

 着席型では、隣の席に座った男とウマが合わず、失敗。

 1人参加限定では、密かに友達同士で参加している女の子がいるという茶番が発生。

 20代限定では、8割が20代後半で年下が好きな壱にとっては苦痛な時間であった。

 年の差カップルコンでは、男の参加者が30代半ばが多く、24歳の壱にとっては、場違いの様な状況に陥る。

 ハイステータスコンでは、隣の席が医者で自慢話しかしてこないので終始イライラして、街コンどころでなくなる。

 フリースタイルでは、自分から話しかけていかなければ、女の子と話せないので、もじもじしてしまい、声掛けれない地蔵。

 100人規模の街コンでは、年齢制限がないので、30代の女性が多く撃沈。

 メガネ男子限定では、メガネは普段かけないのに、伊達眼鏡をわざわざ購入したが、伊達眼鏡とばれて敬遠される。


 散々な結果で5万を失う。しかし、トータル38人と連絡先を交換する。ここから飲みに誘ったり、取り付ける事にした。

 そして、5人の女の子と飲みに行ける事になった。OL、保育士、大学生、事務職、公務員、色んな人と飲みに行ったのだ。




 しかし、、、

 一度飲みに行っただけで、そこから何もなし。連絡も徐々に減っていき、気づけば連絡も返ってこなくなる。


 まだ、楽しませれていない。壱はそう思った。だから壱は再び街コンに行き、街コン漬けの日々を送る。

 そこから、飲みにも何度か行ったが、結果は言うまでもなかった。女の子を楽しませれるという事がまだ、わかっていないからだ、壱は、女の子と飲みに行った時は毎度の事の様に同じネタを使っている事が多い。「最近髪切ったしょ?」という質問をして、切ったと言った女の子に対して、やっぱりと言い、なんで?と聞かれたら「交番に落ちてたよ」というネタを繰り返していた。女の子は笑ってくれるのだ、これで。なのになんで上手くいかないのかは壱にはわからなかったのだ。ただ、これまで女の子と沢山遊んできて学んだ事は笑ってくれる=楽しんでるではないという事だ。だからこそ、女の子を楽しませるという事は本当に難しいのだ。


 壱は再び街コンに行き続けた。女の子と連絡先も交換した。そして、飲みに行った。しかし、失敗続きである。

 だが、そんな壱に転機が訪れる。1人の女の子と飲みに行く約束を取り付けたのだ。壱より1つ年上の25歳の女の子、小野早稀おのさきである。街コンでは対して話は出来ていなかったのだが、連絡先だけは交換していたので、後に連絡して、飲みに行く事になったのだ。

 そして、その当日となる。壱が店を決める事になり、20時に待ち合わせする。壱は10分前くらいに待ち合わせ場所に着く。気合いを入れて早めに来たのだ。緊張をほぐすために、意外にも緊張するところもあるので、飲みのイメージをしながら待つ事にしていたのだ。

 緊張をほぐしているとすぐ約束の時間になり、「お待たせしました。」と早希がやってきた。壱は、緊張してない感じを出したが口数は少なく、おそらく早希には壱が緊張している事はお見通しであろう。とりあえず、普段お酒飲むの?などとありきたりな会話で店までの道のりはもたせる事に。


 店に到着すると緊張をほぐす為に、早速お酒を注文し、飲み始める。ハイボールを一杯飲むと緊張がほぐれて話が出来るようになってきたのだ。だからと言って特別面白い話が出来る訳ではなく、髪切った?ネタくらいで、他に話すことといえば仕事の事や休みの日何してるかぐらいである。それでも、早希は「壱くんって意外と喋るんだね。もっと静かな人かと思ったよ、街コンではあんまり喋るイメージなかったからさ。」と言ったのだ。これが、良いか悪いかは別として、そういう印象を持たれていたのだ。

 その後は、早希はお酒を飲み始めるとタバコを吸い始めた。タバコを吸うタイプの人の様だ。そのお酒を飲みながらタバコを吸う様子を見ているとふと、康平の事を思い出した。いやいや、こんなところで康平こ事を思い出すなんて、、と康平の残像を消そうとしたが、頭の中いつのまにか康平でいっぱいになってしまっていた。その時に早希から話しかけられて、我にかえった。しかし、話しかけられるまでは心ここにあらずであった。

 2時間程経ち、店を後にする事にした。時刻は22時であり、当然ながらこの後どうする?という会話になる。普通であれば、男の壱から率先して二軒目の誘いをしたりするのが当然である。しかし、そんなことは出来ずにもじもじしている。1人のもじもじが札幌のすすきのの街に現れる。「どうしますかね?」というような話の振り方しか出来ずにいた。


 そんな時、早希の方から「せっかく飲みに来たし、帰ったら勿体ないからもう一軒行こう。」と誘ってくれたのだ。当然ながら、その誘いにのり、居酒屋に入る事になった。

 ふと、財布の中身を確認した。すると3千円ほどしか入ってなかった。しかし、早希はなければ、出すよと言ってくれたのだ。こんなことは今までなかったので、人の優しさ、いや、早希の優しさに感動していた。

 そして、飲み始める。会話に関しては、そんなに濃い内容を話した訳ではない。だが、早希がリードしてくれているので、間がもったのだ。

 2時間飲み、気づけば24時で、札幌の終電はこの時間帯でなくなるのだ。つまり、電車で帰る手段は無くなったのだ。それは、壱だけではなく、早希も同様である。当然ながらどうする?という話になるのだが、壱はまたもやもじもじしていた。

 そんな時であった。


「家来る?」


 壱は呆然とした。まさかの出来事であったのだ。壱はこのかた、付き合っていない女の人の家に行くのは成人してから初であった。友達ならまだしも、街コンを含めて会うのは2回目にもかかわらず。しかし、壱には早希の家に行くという一択しかなかった。そして、2人はタクシーに乗り込み、早希の家に向かう。


 早希の家に着き、早希が先にシャワーを浴びて来る事になる。壱はその間落ち着かずに携帯をいじっている。ドクンドクンと心臓の音が大きく鼓動する。初めて街コンに行ったより何倍も緊張していた。そんな緊張の中、早希がパジャマ姿で現れたのだ。更にドキドキが増して、頭が真っ白になりそうであった。そして、そのまま2人で早希のベットの淵にもよしかかりながら、話をする。話の中で好きな歌手の話になり、携帯で音楽のフォルダを見せてくるのだ。なので、自然と距離が近くなり、もう、パニック状態である。

 すると、早希の顔が目の前にあり、気づけばキスをされていた。その瞬間、壱の中でブレーキが外れたかのように、キスをしかえしたのだ。こうなるともう、男女である。その後はトントン拍子で事が進んだのは言うまでもない。

 こうして、初めて街コンで知り合った人と男女の関係になった壱。これも、女の子を楽しませた結果であるということ。つまんない男や魅力のない男であれば、男女の関係になることなんてないと思った。

 しかし、振り返ってみれば、手応えとしては、いつも通りなかったのだ。では、何が良かったのか、考えていた。その時、1つの答えに辿り着いた。相手が年上であり、自分からグイグイ行きたいタイプの女の子だったのではないか。だからこそ、壱がもじもじしていたり、口数が少なかったところに、肉食系の早希はゴリゴリに壱を誘って来たのだと。

 つまり、女の子を笑わせたりする事も大事だが、それだけではなく、人によって接し方や楽しませ方を変える必要があるのだと実感した。いつも同じネタがばり使ってる壱にとっては、まだまだ、学ばなければいけないところであった。


 こうして、新たに気づく事ができ、更に色んな女の人を知りたいと、壱は思った。なので、また、街コンに行きまくったのだ。

 ここから、また10回、20回といき、女の子と飲みに行ったりもしたのだ。そして、終電を逃して、家が遠い女の子の時にビジネスホテルを利用して男女の関係になったりもしたのだ。少しずつ女の子の事がわかり始めてきた。

 初めて街コンに行ってから3ヶ月が経ち、30回以上も行ったのだ。しかし、最初の頃に会えていた四天玉三郎にはあれ以来会うことはなかったのだ。

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