episode4 己を知る時

 壱は、6時に目が覚めた。なぜか?理由は簡単であった。

 今日は街コンで出会った人と初めて会う日である。もちろん相手は、前回の街コンで知り合った。樋口愛菜であった。


 街コンが終わって次の日に連絡して見たのだ。「昨日はどうもありがとう。」差し支えのない文章だ。「こちらこそ、ありがとうございました。」と定型文が返ってくる。こんな何も生まない会話なんてしたくなかった。なので、今度ご飯行きましょうとすぐに伝えたのだ。返事はOKとの事だ。


 そして、今日という日を迎えた。朝からシャワーを浴び、いつも2回しかプッシュしないボディーソープを5プッシュもしたのだ。しかし、勢いよくプッシュしたので、ボディーソープはあちらこちらに飛び散り、結局2プッシュ分しか手元に残らなかった。


 それほど浮かれていたのだ。なんせ、女の人と2人きりで会うのなんて、1年ぶりくらいなのだ。

 つまり、それだけ、壱は社会人になってから出会いがなく、どうしようもない、つまんない人生を歩んでいたのだ。


 言うならば、〝犯人が最初からわかっている推理小説〟〝5時間電車の映像しか流れない映画〟〝観覧車しかない遊園地〟これと同じくらいつまらなかった。


 シャワーを浴び終わり、ドライヤーで髪を乾かす。壱のヘアスタイルは、ミディアムでマッシュベースのツーブロックである。乾かし終えるとワックスで念入りに髪型を整えて行く。髪型の出来次第でモチベーションが変わるからだ。

 髪型を整え終わると12時になっていた。待ち合わせの時間は18時なので、まだ時間に余裕がある。壱の住んでる所から街に出るには15分程電車に乗ってれば着くので17時くらいに出れば間に合う。なので、それまで、携帯で動画サイトを見て時間を潰す。

 壱は、ベットの上で動画を見ながらゴロゴロするのが好きなのだ。


 気づけば、17時になっていた。そして、家を出て、電車まで歩いていく。駅に着くと丁度いい時間の電車があったので、スムーズに電車に乗れた。


 幸先がいい。壱は少しだけ幸せな気持ちになった。そのまま電車に揺られ、今日のイメージを膨らませおく。「札幌駅に到着します」とアナウンスが流れ、到着した。電車を降り、壱は待ち合わせの場所まで向かう。

 10分程待つと、愛菜が来た。「お待たせしました。」これぞ、デートの定番というような花柄のワンピースを着てやって着たのだ。「今日はどこに行くんですか?」「今日は焼肉に行こうと思ってさ、この前見つけた店があるんだよね。」そう、壱は初デートで焼肉屋をセレクトした。この時、焼肉は皆んな好きだし、ハズレはないだろう。と思っていた。愛菜は焼肉は好きだと言っている。壱は上機嫌である。

 そして、歩いて店まで向かい、到着する。店内はモダンな感じで、落ち着いた感じの焼肉店である。人は少なく、静かである。とりあえず注文をする。「何飲む?」壱は酒を飲みたくて仕方なく、ハイボールを頼んだ。愛菜はカシオレを頼む。可愛らしいもの頼むんだね、と誰もが思う事を普通に言う。

 適当に肉を注文して食べ、会話をする。「普段は何してるの?」壱はとてもつまらない質問をした。「買い物とかご飯とか行ってるかな」予想通りの返答が来た。


 その後も何気ない会話をしながら2時間ほど経つ。愛菜は笑顔も見せているが、イマイチ盛り上がりに欠ける。

 そのはずだ、質問合戦をしてるからだ。壱はトークのレパートリーがなく、ありきたりな質問を繰り返してばかりで、話しを広げられていないのだ。休みの日は何してるとか、好きな食べ物の話しとかそんなのはどうでもいい事である。確かにお互いの情報交換は必要だが、2時間もそんなの繰り返されたらたまったもんではない。

 だが、この時の壱は、これが正解だと思っていた。そして、20時30分になり、「そろそろお会計して、行くか。」カッコつけて言う。だが、割り勘である。

 そして、2人は外に出て、そのまま解散するのだ。「今日はありがとうございました。」「こちらこそありがとう。」二軒目とか何も考えていなかったので、そのまま電車に乗り帰宅する事になる。



 家に着き、今日のお礼を言うために、連絡する。すると返事が返ってくる。また遊びましょうと壱はメッセージを送ると、機会があればまた遊びましょうと来る。これは、脈ありなのかな。と思っていた。


 そして、次の日になり、今度はいつ遊べるか聞いてみる事にした。次いつ遊ぶ?という風にメッセージを送る。

 待ってみる。待つ事1日。まだ、返事がこない。


 まだ待ってみる。待つ事3日。まだ、返事がこない。


 1週間待つ。まだ、返事がこない。

 このタイミングで気が付いた。既読無視をされている事に。

 何がいけなかったのか?壱はこの前の焼肉屋での事を思い出した。特別良かったわけではないが、悪くもないと思った。

 考えに考え、たどり着いた答えは1つ。



 圧倒的なトーク力のなさだ!!!!



 これに行きついたのだ。確かに質問しか、してなかったし、あれじゃつまんないよな。壱は後悔した。しかし、自分の欠点に気付いたのは良かった。以前なら振り返りや反省もせずにいたのに、ちゃんと自分を見つめ直せている。壱は思った。トーク力をもっとつけて女の子を楽しませたい。


 こうして、壱はトーク力や女の人と話す経験を得るために街コンに再び参加する事を決めたのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る